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天帝 ガマニア・レーヴァテイン



 ガマニア帝国の中枢に構える城内――。

 アルカを手放した失態と経緯を報告しえ終えたローランド子爵は悲壮の面持ちで天帝を前にひざまずいていた。

 ただでさえ息子のベイトが仕出かした事の重大さと損害は計り知れず、さらには首討ち覚悟で天帝の娘、カイネの行動について憶測を語ったのだ。

 伝え方一つ間違えようものならただでは済まされず、滴り落ちる汗が留まるところを知らない。


おもてを上げよ、ローランド・アッシュフォード」


 地を唸らすかの如く、図太く低い声で玉座に座る男――天帝ガマニア・レーヴァテインは言った。

 短く返事をした子爵、アッシュフォードは即座に下げていた頭を上げて天帝を見上げる。

 元ローランド陛下や他国の王とは違い、歳を重ねてもなお衰えを知らぬ第一線級の肉体を持つレーヴァテインは酒の注がれたグラスを回し、もう片方の腕で元ローランド王妃を抱きながら眼下で縮こまっているアッシュフォードへと問う。


「アッシュフォードよ、問おう。儂はなんだ?」


「ハッ、天帝様にございます」


 その問いに対し、即座にアッシュフォードは答えた。

 天帝以外の何者ではないと。


「そうだ。ローランドを獲った今、儂はいずれは天をも支配する天帝。地を這う虫けら如きが一匹増えた所で何をうぬは焦っておるのだ?」


 何を怯えているとでも云わんばかりの言葉である。


「天帝様の寛大な御心に感謝致します」


 アッシュフォードは許された。そのことに感謝し、礼を述べる。

 アルカを手放した、その程度の事で何を焦ることがあるのだとレーヴァテインは言ったのだ。


「しかし死して尚エクスマギナは乙な事をしてくれる。のぅ、思わぬかナターシャよ」


 そして隣に座る現女帝、ガマニア・ナターシャに語りかけた。

 エクスマギナとは元ローランド陛下の名であり、ナターシャの前夫のことだ。

 彼の死後から早2年、今頃になって現世の如く表舞台に姿を現したのが元ローランド騎士団長のアルカである。

 とんだ隠し玉を持っていた物だとレーヴァテインはエクスマギナの最後を称賛してみせたのだ。


 しかし、レーヴァテインに身を任せるように身体を傾けて隣に座る女性、ナターシャは艶かしい表情で言った。


「エクスマギナはあの騎士がお気に入りでしたので、隠しておきたかったのでしょう。所詮は子供の悪戯の様なもの、やること成すこと全てがつまらぬ男です」


 これっぽっちも未練を感じさせず、前夫を切り捨てるかの如く言ってみせたのだ。


「つまらぬか――。確かにの考えることは良く分からぬ」


 するとナターシャの言葉を受けたレーヴァテインは大きく笑った。

 その笑い声は低く空気を伝ってアッシュフォードの身体を震わせる。


「しかし、我が娘は悪戯が過ぎるな。少々のお灸を添えてやらねばならぬ。――ガガトロイ」


 だが、此度のアッシュフォードの報告から看過できないことがあるのも事実。

 レーヴァテインの言う我が娘とはつまりカイネのことである。

 もし彼女が勢い付けて領内で反乱でも起こそう物なら忽ちこれ見よがしと他国が攻め入ってくることも十二分に考えられるのだ。

 だが、レーヴァテインにとって今はまだその時ではない。

 あまりにも自由に遊ばせ過ぎたのか、そろそろ子供の悪戯の範疇では無くなってきたと悟ったレーヴァテインはガマニア帝国騎士団長、ガガトロイの名を呼んだ。


「ハッ」


 その呼びかけに応えるは暗殺者アサシン黒鎧こくがいを身に纏い、男一人分の大きさは優にあろうかという大剣クレイモアを背負っているにも関わらず、それすらも見劣りしない体格を持つ男ガガトロイだった。

 入口の近くに待機していた彼は呼びかけの後、アッシュフォードの隣まで移動して屈み、そして静かに指示を待つ。


「うぬならどうすべきか、分かっておるよな? 」


「天帝様の仰せのままに」


 短く了解の旨を告げるとガガトロイはアッシュフォードを連れ、広間を後にするのであった。

 その後もほくそ笑んだままのレーヴァテインは上機嫌に酒を煽り、人知れず呟いた。


「これがうぬの選択か――、エクスマギナよ」


 今は亡きかつては宿敵であったローランドの王の名を。




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