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師弟有情2

 感動の再会とはまではいかないが、それでも3年という年月は長かった。

 変わらぬ元部下とたちと一目見ただけでは誰なのか判断出来ないほどに変わり果ててしまったアルカ。

 しかしホルクスに次いでラディルまでもが団長と呼ぶ人物が現れたことによりロビーのざわつきはより一層と高まっていく。


「聞いたか? あの人がローランドの――」


「あぁ。でも想像していた感じとは違うな。影武者とかじゃないよな」


「だがホルクスさんのあの慌て様――、さらにはラディルさんまでもが団長と呼んでいるんだから間違いないんじゃないか? 」


――でもなぁ、あの見てくれと装備じゃあ……。


 ロビーには元ローランド領の兵たちもいるがやはり大半はガマニアの出の者が占めていた。

 噂には聞いていたが初めて見るローランドの騎士団長はあまりにもみすぼらしい姿であったことに皆、落胆の色が隠せない。

 本当にあの人物なのだろうか、と。


「む……」


 すると、あちらこちらから聞こえてくる声にアルカが反応した。

 別に自身のことが咎められていることにではない、今後の自分の身の置き方が幸先の悪い方に働いてしまっていることに気が付いたのだ。

 思わずホルクスを見かけてからというものの、らしくもなく興奮してしまっていたが彼らに団長と呼ばれることに何の違和感も抱かなかったことに。


「ラディルよ。私はもうお前たちの団長ではないのだ。これからは一介の兵となる故、その敬称は取り下げてはもらえぬか」


 そしてラディルには、一兵士として扱ってくれと願い出た。

 しかしその要望に対して分かりましたと二つ返事で返すラディルではない。


「……私もこの様な事態を想定し、皆には団長のことを良く伝えていたのですがね。しかし、その様な遠慮は無用ではありませんか。私の団長は今も昔も変わらず貴方だけなのですから」


 豪快、そしてただひたすらに真っ直ぐだったかつてのアルカを知るラディルにとってその様な後ろめたい気持ちを持とうとするアルカにそのような遠慮は無用だと言ってみせた。

 ラディルも考えは違うが、アルカを迎え入れるにあたって体良くなるよう手を回していたのだ。

 しかし想定していたよりもアルカの姿が悪い方向へと変わっており、兵たちが不信感を抱いてしまうのは無理もなかった。


 "本当にあの人なのか"と。


「そう言ってもらえるのは嬉しいが、それでは集を乱すことになる。私はこちらの団長殿・・・が築き上げた物を壊したくないのである」


 アルカはそっとカイネの肩に手を置いた。

 自分が率いる軍ならまだしも、主人が率いる軍を乱すわけにはいかないとアルカは言う。

 この傭兵団ギルドを起ち上げるまでにかかったカイネの努力を無に帰すようなことはしたくないのだ。


「しかし……」


 だが、それはラディルのプライドが許さない。

 確かに傭兵団ギルドのトップはカイネである。

 しかし、先に告げたように今も昔もラディルの団長はアルカだけであり、カイネのことを団長とは決して呼ぶことは無い。

 それはホルクスやここにいる他のローランド出身の者は皆、一緒であった。

 

 二人の意見が平行線を描き、このまま解決することなくただただロビーが騒がしさを増すばかりかと思われたその時、カイネが口を開いた。


「そうですね。では、こうしましょう!!」


 パンッと手を叩いて大きな音を立て、その声に周囲も静まりかえる。


「この傭兵団ギルドで一番の実力を持つラディルとこちらのアルカが一騎打ちを行い、無事にその実力を示すことが出来れば晴れて団長に就任。というのはいかがでしょうか」


 元々団長は不在なのだから構わないでしょう、とカイネは言った。

 それを受けてアルカが実力行使はあまり好きではないと告げようとしたその時、カイネの提案に一人の兵が声を上げた。


「しかし姫様、それではラディルさんが温情で手を抜くという可能性も――」


 皆、ラディルの実力は重々に知っているがその彼がアルカを持ち上げる為に手を抜くのではという懸念が浮上したのだ。


「私が団長相手に手を抜くなどありえません」


 他の者ならいざしらず、一度たりとも手合せで優位を取ったことがないラディルは元より手加減などするつもりはないと宣言した。

 しかし、3年経った今のアルカの力が分からないのも事実、何より昔のような覇気が今のアルカには無いのだ。

 もしかしたら、という可能性も拭い切れない。


 アルカの意思とは別にどうやらその路線で決まりそうなことにアルカの鼻から息が漏れる。


「――では、私が相手取りましょうか」


 するとラディルの後ろから名乗り出る女性の声が聞こえ、すっぽりと背中の影に隠れてしまっていて気が付かなかったがその声の持ち主が姿を現した。


「ラディルさん以外に手合せできる者が居なくて少々物足りなかったところですし」


 背中には大きな太刀を背負い、長く伸びた黒髪を一つに束ね、着物を身に纏うその女性はローランドでもガマニアでもなく異国の地の者であることは一目見て分かる。


「あらカガリ、いたのですか」


 ひょっこりと姿を現したカイネと同じ程に若い女性はカガリというらしい。

 カイネは隠れてないで出てきたら良かったのにと続けて言う。


「別に隠れていたわけじゃないです。このオッサン達がデカすぎるだけです」


 しかしその女性、カガリは隠れていたつもりはなかったらしい。


「カガリ殿か、確かに貴方なら」


 自分の後ろにいたとは気が付きもしなかったラディルも彼女なら自分の代わりも勤まるだろうと言い、それを受けたアルカは驚いた表情で「ほぅ」と声を漏らした。


「してラディルよ。そのはお前が認めるほどの実力であるか」


「えぇ、私も最初は彼女の剣には手こずったものですよ」


 まるで今は違うというような言い方にカガリはムッとした表情でラディルの背中を殴るがまるで蚊にでも刺されたかのように反応を示さなかった。


「アルカ。カガリはここでは一等級の兵ですし確かに貴方を相手取るには申し分ないと思いますよ」


 次いでカイネも、彼女なら充分な役を担ってくれるだろうと言う。


「貴方が本当にあのローランド無敗の騎士団長であるのなら、その実力是非お目にかかりたい」


 宣戦布告というわけではないが、カガリの目はどっしりとアルカを捉え、闘志をむき出しにしているその姿を見て仕方あるまいと再び鼻から息を漏らしてからアルカは口を開いた。

 

「カガリ殿と申したか。貴殿の期待に沿えられるか分からぬが善処しよう」


 ラディルが代わりを認める程の実力を持つ者は背負う太刀よりも小柄な女性であり、湧き上がるロビーの中でアルカは時代の流れを感じていた。


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