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団長


 扉を抜けると広いロビーに大勢の人たちが入り込んでいた。

 やけに活気が良く賑やかな中の様子にアルカは想定していたものとは違い困惑する。


「団長殿? これは一体」


「すみません、そういえば説明していなかったですよね。ここでは民からの魔物討伐から清掃など個人的なお願いを依頼として受注し、所属している兵たちに斡旋しているのですよ」


 活動資金が必要な傭兵団ギルドにとって民から依頼料という形で徴収し、兵には報酬として渡す。

 この運用がこの度のアルカの購入資金となり、1万もの兵を養える秘訣なのだという。

 ただただ民から徴収するのではなく、対価として成り立っているところにアルカは感銘を受けた。

 確かにそれならば民からの不満が出ることはなく、兵も給与が歩合制とあらば率先して臨むことだろう。


「姫様!! お勤めご苦労様です。ご無事でなによりです」


 その依頼とやらが張り出されているのであろう掲示板の方へと目をやっているとカイネのことを姫と呼ぶ女性の声が聞こえてきた。


「ただいま戻りました。変わりはありませんか?」


「はい!! ただ、少しやっかいな依頼がきておりまして……、これなんですけど」


 受け付け担当だろうか。

 困った様子で手にしていた一枚の書類をカイネに渡す。


「地脈から毒素が漏れて農業用の水路に混ざっているのでこれを取り除いて欲しい、ですか。確かにこれは……」


 難しいですねとカイネも顎に手を当てて書類に目を通していた。


「どれ」


 その様子を見ていたアルカは歩み寄ってカイネの後ろから首を伸ばすように書類の内容に目を通す。

 どうやら地脈の変動により毒素溜まりから地上へと上がってきてしまっているらしい。毒素が漏れてくる部分を塞げば良いのだが一時的な処置にしか過ぎず、それではたちまち繰り返すことになるだろう。

 背後から書類を覗こうとするアルカに気が付いたカイネは「これなんですけど」と書類を見やすいように掲げようとすると小さな悲鳴が上がった。


「いっ――!? ひ、姫様!?」


 書類を持ってきた女性である。

 目の前にぬるりと現れた巨漢のむさ苦しく怪しい男に驚いたのだ。

 何を驚いているのだろうと慣れてしまっていたカイネは思ったがすぐにその原因が後ろにいる男のせいだとわかり、クスリと笑いながら説明をした。


「そんな邪見にせずとも大丈夫ですよフィローラ。この方が例の人ですよ」


 どうやら受付の女性の名はフィローラというらしい。

 例の人というワードでピンと来たのかフィローラは二度、目を見開いて慌てふためいた。


「こ、こ、この方があの――ッ!? 随分と……いえ!! すみません!! この傭兵団ギルドの受付を担当しておりますフィローラと申します! お会いできて光栄です、えっと……騎士様でよろしいのでしょうか」


 パニック状態に陥ってしまっているのか、フィローラは思いつく限りの言葉を並べていた。

 その彼女があまりにも大きな声をあげるものだから、周囲もなんだなんだとこちらに目をやりざわつきを見せ始める。

 傍から見れば怪しいオッサンが若い女性二人に絡んでいるかのような構図である。

 あまりにペコペコと何度も頭を下げるものだから静止させようとアルカがフィローラの方に手を伸ばすと――


「おいおいおい、オッサン!! ここは傭兵団ギルドだ。酒場ならあっちだ」


 ――奥から肩に大きな鷲を乗せ、腰に剣を差した若い男が勢いよくやってきた。

 その男がやってきたことで周囲から「あのオッサン終わったな」という声が心なしか聞こえてくる。

 若いながらにも名の知れた男なのだろう。

 そのズカズカとやってくる男の方へアルカは目線を移すと、その懐かしい男に目を開いた。


「ホルクス……、ホルクスか!?」


 アルカの見間違えでなければ彼の名はホルクス、元アルカの軍においてその肩に乗せた鷲を用いた索敵を得意とする男である。

 

「あぁ、そうだが。なんだあんた? 俺を見たこともねぇのか」


 対してホルクスはアルカの事に気が付いていなかった。

 元団長に向かってあんた呼ばわりをしている所から見るにホルクスは完全に気が付いていないが、そんなことはアルカにとってどうでも良かった。


「私だ――、アルカだ」


 髪をかきあげ、出来る限り面影が映るようアルカは言う。

 その名を聞いた途端ホルクスは血相を変えて声を上げた。


「なっ、団長――ッ!?」


 そしてアルカの大きな体に強い眼光、声、髭で隠れてしまっているが骨格の見て取れる情報の全てからある人物と一致したホルクスは駆けだし、肩に乗っていた鷲は驚いて羽ばたいてしまう。

 しかし、ホルクスは構いもせずにアルカの両腕を掴んで何度も確認するように目を動かした。


「ま、間違いねぇ、なんだよ団長。こんなにやつれちまって……」


 ホルクスの目からは一筋の涙が流れる。

 それが嬉しくて嬉しくて、ホルクスの頭に手をやるアルカは言わなければならない言葉を思い出し口に出した。


「今、戻ったぞ」


 あのホルクスが男泣きしていると話題は変わり、さらにロビーはざわつきを見せ始める。

 


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