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ローランド騎士団 元騎士団長


 女は娼婦奴隷に男は闘技奴隷に――。

 身売りに始まり、罪などを犯した者が行き着く場所の相場は決まっている。

 それがいくら王都の騎士団長の肩書を持っていた者であったとしても帝国との戦争で敗戦を喫することになった原因となれば例外ではない。


 それまで無敗を誇っていたはずの王都軍が突如として敗退し、撤退を余儀なくされたのは今から三年前のことだった。

 当時の王都ローランドの騎士団長――、"アルカ"は市民から得る支持も絶大でまさしく希望の象徴ともいえる騎士であった。

 そんな騎士団長を擁するローランドは帝国ガマニアの支配から解放されようと王都陛下の命により反撃の狼煙あげたはずだったが、それは王都のローランド陛下と帝国のガマニア天帝によって仕組まれたものだったとアルカが知ったのは全てを終えた後のこと。

 既に資源が枯渇し、底が見え始めていたことに焦燥しきったローランド陛下は秘密裏に帝国へと亡命していたのである。


 勿論、アルカはその戦場にて違和感を覚えていた。

 当初の予定と違う動きを別の隊に任命された指揮官が見せていたり、開示されていた情報に無数の誤りがあったりなど、アルカにとって不利になることばかりが連鎖していたのだから。


 しかしローランドとて、ただ亡命するだけでは資源が底を尽きる以上に生活水準が低下することを薄々にでも市民には感づかれていたが故に簡単に納得してもらえるものではなかった。

 なにより騎士団長アルカが居る限りローランドに負けはなく、いつかは帝国を破らんと抱負を掲げている限りローランドの灯が消えることは無いのだから今の生活が守られているも当然であったのだ。

 そこでローランド陛下は"負け戦"をガマニア帝国へと持ち込んだのである。


「ダメじゃないかぁ。敗戦した雑魚騎士は雑魚らしく立ち振る舞ってくれないとさぁ!!」


「……」

 

 人体を皮の鞭で鈍く打つ、乾いた音が薄暗い牢の中に響き渡る。

 塞がっていた古傷に新たな傷を上書きし、鞭が当たった胸部や腹部からは赤く腫れ上がった後を追う様に血が滲み出てきていた。


「さっきからだんまりを決め込んでいるようだけど、君が勝つ姿なんて誰も闘技場ここでは望んじゃいない事くらい分かりきっている事だろう? なんでできないかなぁ? どうして前のあるじが君を棄てたのか今なら分かる気がするよ、金にもならないゴミめ」


 あれから三年――。

 毎日のように闘技場に駆り出されては勝利し、仕置きという名の拷問も前の主人からまるで継承でもされているかのように受け続けてきた。

 その現在のアルカの所有者であり、ローランド子爵の息子はアルカとは二回り近く歳の離れた20手前の餓鬼ガキである。

 彼はアルカを手に入れる為に大金を要し、ようやっと元騎士団長の肩書を持つ男を手中に収めこれから荒稼ぎが出来ると思っていたが矢先、一向に言うことを聞かないことに対して苛立ちを隠せずにいた。


「なんとか言えよ! 英雄気取りの裏切り者め!!」


 かつては憧れを抱いていた騎士に対して、今となっては金にもならない虫けら以下だとでもいうように子爵の息子は罵声を浴びせる。


「……無駄だ――、いくら貴殿に剣をがれ鎧をはがされようと私に二度の敗北は無い」


「――ッこの!!」


 静かに呟かれたアルカの確固たる意志。

 その言葉を受けた子爵の息子は怒り任せに鞭を振るうが、首筋に鋭く差し込まれた鞭先を避けようとする素振りすら見せずに受けきって見せる姿に焦りを覚えた。

 この男に何をしても無駄なのかもしれないという焦りを。


「クソッ!! 」


 彼是小一時間、さすがに鞭を振るい続けて疲れたのか額からの汗を隠せなくなった子爵の息子は握っていた鞭を乱暴に放り投げて牢の扉から姿を消していった。

 奥の方で扉が閉まる音が聞こえてからアルカは一息ついて、ようやっと張っていた姿勢を崩した。


「……ラディルよ、私はいつまでお前を信じ続ければいいのだろうか」


 必ず貴方を助けてみせると言ってくれたかつてアルカの部下であり副騎士団長を務めていた男の名を呟いた。



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