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第3話 夏の終わりに


 本日『はるぶすと』は、昭和レトロの日だ。

 けれど、いつもなら居ないはずの2人が、今日は揃って店にいた。


 それは何故かというと。


「ではみんな、用意は出来たかなー」

「「「は~い!」」」


 世間は夏休みと言う事もあって、ここ『はるぶすと』も、今回ばかりはお子様向けメニューが満載の、ちょっとしたお祭りスタイルなのだ。

 シュウの作る、超美味しいタコ焼き(え?)とか。

 冬里の、小さな子の上半身が隠れるほど(え?)の超特大綿菓子とか! 

 そして夏樹は、親子でパフェ作り体験教室を開催中だ。


 今日はなぜかもう一つブースがあって、そこでは見知らぬ男がかき氷を作って提供している。

「おじさん! すっごく美味しい!」

「うん、頭キーン、てしないよ」

「おじさんじゃねえ、おれには善七ぜんしちってちゃんとした名前があるんだぜ」

「善七おじさん! 僕にも!」

「だから、オジサンじゃねえ!」

「う・・・」

 怖い顔で言う善七と、涙ぐむ子ども。

 すると、子ども相手にすごむ善七の顔の前に、でっかい綿菓子が現れる。

「うわっ」

「ほーら、怖がってるじゃない、善七お・じ・さ・ん?」

「うひぇ! お前の方がよっぽど怖いわ、冬里」

 この善七という男、もしかして『はるぶすと』の新しい店員? ではなくて、これにはちょっとしたいきさつがあった。




 それはひと月ほど前のこと。

 いつものごとく、疾風のように由利香がやって来たところから話が始まる。 

「ねえ、今年の湾岸花火大会は、★市と×市が共同で大々的な企画してるのよ、知ってる?」

「いらっしゃーい、相変わらず神出鬼没っすねー」

「知ってるよ。今年はフェアリーワールドも巻き込んで、両岸での打ち上げ、その上その数、史上最大だって言ってたね」

 冬里が珍しくお茶を運んで来て、ソファに陣取っていた由利香の隣に腰掛ける。

「なあんだ、知ってたの。でね、しかるべき筋から、観覧のベストポイントであるホテルプール付きチケットを手に入れたの。ちょうど5枚あるから、一緒に行きましょ」

 すると、冬里と夏樹はちょっとポカンとしている。

「なによ、どうしたの2人とも、変な顔して」

「由利香さん、とうとう年貢を納める気になったんすね」

「?」

「僕たちの前で水着になるのは、絶対に嫌だって言ってたじゃない」

 そうなのだ、由利香は体型を気にして(とはいえ、それほど太っているわけではないのだが)決してプールに彼らを誘うことはなかった。

 けれど、椿とは海にもプールにも行っているらしい。

「ああーそれね。ふふ、大丈夫。いまどきの水着は体型カバーっていうのもあるし。ちょっとしたミニのワンピースみたいよ」

「ははあ」

「なるほどね」

 そこへシュウがやって来たので、由利香は先手を打って「鞍馬くんも強制参加!」と、宣言したのだが。

「はい、喜んで参加させて頂きます」

 すると今度は由利香がポカンとしたあと「信じられなーい」と、失礼な事を口走る。

「失礼ですよ、由利香さん」

 と、シュウは笑いながら、少しも失礼ではなさそうに言った。

「私も今年の花火は観てみたかったですし、なにより、そのチケットはディナー付きですよね」

 チケットを見せたわけでもないのに、内容がわかるシュウに、由利香は「鞍馬くんって、実はエスパーだったの?」と、またおかしな事を言い出す。

「いいえ、私はただの料理人ですよ」

 生真面目に答えるシュウの言葉に、ふふ、と笑いながら冬里が口を挟む。

「しかるべき筋って言うのは、ハルのことだよね?」

「ええ? なんで知ってるのー」

「知らないわけないじゃないっすかー、ハルと俺たちの仲をなんだと思ってるんすか、由利香さんは」


 そうなのだ、クリスマスプレゼントならぬ、サマープレゼントと称して、樫村が由利香あてに送ってきたのは、ちょうど両岸を見渡せるところに建つ豪華ホテルのチケットだった。昼間のプールと屋台村、休憩用の部屋とディナー、おまけに夜のプールサイドではカクテル付きと、まさに至れり尽くせりだ。

(なかなか会いに行けないからな、まあ、罪滅ぼしのつもりだ。遠慮せず受け取ってくれ)

 電話の向こうでそんな風に言う樫村に、椿も由利香も大感激だった。

 そのあと少し心配そうに椿が言う。

「けど、プールだよ由利香。鞍馬さんたちと一緒でもいいの?」

「大丈夫よ、体型カバー水着は、椿がプレゼントしてくれるんでしょ?」

「はあ?」

 と言う訳で、椿にとっては痛い出費になった。


 当日はプール&花火日和の、朝からさわやかな日本晴れだった。

 いつもの通り、夏樹は水着女子にモテモテ。本人は、バチバチと飛び交う恐ろしげな視線にはてんで無頓着で、誰にでも平等に綺麗な笑顔で対応している。

「なんて言うか、あれが夏樹の良い所よねー」

「だな。けど俺としては、対決が出来なくてちょっと残念だ」

「あはは、ダメよこんなホテルのプールで」

「でも、何故かここって、こんなホテルのプールなのに、コース取りしてあるよ」

 そうなのだ。

 ここはホテルのプールにしては、数が多く、変形プールと子ども向けプール、そして本格的な25メートルプールまであって、そこには3コースだけだか、綱が張られている。

 泳ぎの得意な者は、そこで思う存分楽しく泳いでいる。

「じゃあ、僕と勝負しよ?」

「え? おーっし、了解です!」

「ちょっと冬里! なに、椿まで」

 バチバチと火花を散らし、本格的プールに向かう2人。それに気がついた夏樹が、大慌てで飛んで来る。

「なんすか、なんなんすか?」

「競泳対決だよ」

「ええー! だったら俺も参加するっす!」

 と言う訳で、子どもみたいな3人のフリー対決の火ぶたが切って落とされた。


 夏樹と椿はそのあと、フラフラで由利香とシュウが待つプールサイドへやって来る。

「ひどいっすよ、冬里。1000メートルなんて、聞いてないっす」

「そ、そうです。さすがの俺も・・・」

 先に帰っていた冬里は、余裕綽々で飲み物など頼んでいる。

「でも500メートルに減らしてあげたじゃない、半分だよ?」

「「半分でも、酷いです〈っす〉!」」

 ビシッと2人から指さされても、冬里はどこ吹く風だ。

「まあまあ、落ち着いて。ねえ、それより2人とも、このかき氷食べてみて、すっごく美味しいのよ」

 由利香が差し出すかき氷を、不承不承ながら口にする2人だったが。

「!」

「!」

 一口食べたあと、まじまじとかき氷を眺めていた夏樹が、驚いて言う。

「なんすかこれ? 今までのかき氷の常識を逸してますよ」

「確かに美味い! それに、・・・続けてたくさん食べても」

「キーンとしないでしょ?」

 由利香が嬉しそうに言う。

「私ってすぐに、キーンとなるタイプなんだけど、これだとちっともならないのよ。って、なになに? 2人とも早すぎ、もうなくなっちゃったじゃない」

「俺、買ってきます。どこの屋台っすか?」

「シュウが行ってるよ」

「ええ?!」

 状況を把握し、すでに席を立っていたシュウを追いかけて、夏樹はかき氷屋台へと飛んで行く。

「あーあ、夏樹の料理人魂に火がついたみたい」

「ええ? でも相手はかき氷よ」

「ま、スイーツの一種には変わりないね」

 夏樹が到着した時、ここのかき氷屋は大盛況でかなり行列が出来ていた。見ると、おじさんが1人で奮闘しているようだ。シュウはと探すと、列を離れて屋台へ向かっていくところだった。

「お手伝いできることは・・・」

「俺! 手伝います!」

 夏樹はシュウの思いを察して、先に宣言する。

 驚くおじさんと苦笑いのシュウを交互に見て、ちょっと頭をかく夏樹だった。

「お客様にお手伝いさせるわけには、」と恐縮するホテル側に、プロの料理人であることを「冬里が」説明すると、ホテルは即、承諾してくれた。


 プールサイドで開催されている屋台村は、ひとときのお祭り気分を味わえる。

 2人が手伝いに入る事で行列はなくなるはず、・・・が、さっきよりも人が、と言うより、綺麗なお姉さんがいっきに増えていた!

「あーあ、夏樹、罪なコトしたね」

「そうみたい。でも、なんか楽しそうよ。椿も」

 そうなのだ。また増えた客に、見かねた椿までもが手伝いに入ることになったのだ。

「それに、かき氷屋さんのおじさんが、すっごく嬉しそう。鼻の下伸びてる」

 そう言いながら本当に可笑しそうに笑う由利香を見て、冬里は、水着美人とやりとりする椿を見つつ「焼かないの?」と、意味深に聞く。結婚前に、由利香がジェラシーの誤解から、椿と喧嘩したときの事を言っているのだ。

「うわ、冬里ったら意地悪ー」

「うん、僕だからね」

「ふふ、でも大丈夫よ。あのお姉さんたちは、夏樹目当てだから」

「ふうん、成長したね」

「ありがと」

「どういたしまして」

 そうこうするうち、かき氷はどうやら完売となったようだ。

 買えなかったお客様には、夏樹が「すみません!」と手を取って(本人は本当に済まないつもりで手を取っただけ)謝ったので、水着美人たちはちよっと頬を染めつつ、引き下がって下さったのだ。


「いやあ、助かったぜ。それにしても、あんたらのおかげで完売だ。ありがとよ」

「いえいえ、それより、かき氷の秘伝を授けてくれるって、本当っすか?」

 なんと、夏樹は忙しい手伝いの最中にそんなことを約束していた。

「あんたが、何度も何度も俺のかき氷を褒めてくれるからよ、嬉しくなっちまってな。それにあんた本当に欲がないっつーか、あんなきれいどころにどんだけ誘われても、全然乗らないんだからな。いやあ、俺の次にいい男だぜ」

 うんうん、と、大げさに頷くそのおじさんに、夏樹は礼を言う。

「ありがとうございます! えーと、おじさん? いえ、お兄さん!」

 ギロッと睨まれて、慌てて言い直す。

 すると、ガハハと笑ったおじさんが自己紹介した。

「うん、俺は、善七郎ぜんしちろうってんだ。善七って呼んでくれ、よろしくな」

 結局『はるぶすと』の面々は、夜の部のための屋台解体作業まで手伝った(このときも、「お客様に云々・・」と言うホテル側を「冬里が」説得して即、承諾が降りた)


 そのあとは、ホテル側が是非お使い下さい、と用意してくれた貴賓和洋室で休憩し(うち3人は爆睡)ディナータイムを迎える。

 少し早めにディナー会場に到着した5人が席に着くと、誰かがこちらへ来るのが見えた。

「シュウ!」

 それはなんとここのシェフだ。

 席を立ったシュウは、彼と嬉しそうにハグをかわす。

「(久しぶりだな、お前、全然変わらないな)」

「(Smithも、お元気そうですね)」

「(日本でレストランしてるんだって?)」

「(たいした規模ではありませんが)」

「(いやいや、お前のレストランなら行ってみたいが、残念ながら俺は期間限定でここに来てるだけなんだ。明日にはメルボルンに帰らなきゃならない)」

「(はい、ですが、お会い出来ただけでも良かったです)」

「(ハハハ、相変わらず真面目なヤツ)」

 このやりとりは、当然ながら流ちょうな英語。

 事情を知らない由利香と椿はポカンとしている。

 実は、Smithと呼ばれた彼は、シュウが日本に来る前にいたオーストラリアで、共に料理人として腕を磨き合った仲だ。今はオーストラリアの某有名レストランのオーナーシェフをしている。今回、★市と×市から招待を受けて、期間中の料理を任されることになっていた。

 少し前に、彼がシュウの知り合いだと知った樫村が、気を利かせてチケットを送ってくれたのだ。

「(ハルに感謝ですね)」

「(ああ。俺の料理、楽しみにしてろよ)」

「(はい、堪能させて頂きます)」


 シュウとガッチリ握手してキッチンに消えた彼の事を聞こうと由利香が身を乗り出したときだった。

「いよう! あんたたちもここでディナーか?」

 声は聞き覚えがあるのだが、姿が見えない。

「えーと」

 夏樹がキョロキョロと辺りを見回すと、焦ったようにその声が言う。

「どこ見てんだよ、ここだよ、ここ!」

 声がしたのは、彼らのテーブルのすぐそば。

 そこには、粋にスーツを着こなした、カッコイイおじさんが立っていた。

「善七さん」

「善七じゃない」

 シュウと冬里の言葉に、その他3名はお約束通り「「「ええーー?!」」」と、声を上げる。

「ひでえな、そんなバケモンを見たような声出さなくても、良いじゃねえか」

「だって、だって」

 口をパクパクする夏樹の横で、由利香がこっそり椿に耳打ちする。

「馬子にも衣装すぎるわよね」

「なんだとお」

 どうやら聞こえてしまったらしい。善七が言い返そうとしたときに、またその後ろから声がした。

「善七郎」

 見ると、超セクシーで超美人のお姉さんが眉をひそめて立っている。よく見るとその人は、昼間のプールでも1番目を引いていた水着クイーンと呼べるほどの人で、彼女のことは由利香ですら覚えている。

「お、すまねえな」

 頭をかいて彼女の腰に手をやると善七は、「ま、そういうことだ。今日の所はこれでな」と、優雅に彼女をエスコートして自分の席に歩いて行った。

「ふえー、隅に置けないっすね、善七さん」

 肩をすくめる夏樹に、冬里が面白そうに聞く。

「ところでさ、善七の連絡先、ちゃんと聞いてあるの?」

「はい、あったりまえっすよ。絶対、頭キーンとならないかき氷、教えてもらうんすから」

 夏樹はそのあたりは抜け目ないようだった。


 さすがはシュウの知り合いだけあって、Smithの料理は逸品だった。

 そのあと忙しそうなキッチンには声もかけず、シュウたちはまたプールへと向かう。

「わあ」

 由利香が声を上げるのも無理はない。

 昼間とは打って変わって、夜のプールは泳げないがイルミネーションが美しく飾り付けられている。そこここにしつらえられたロマンティックなテーブルには、おふたり連れが山盛りだ。とはいえ、グループも家族連れもあたりまえにいる。

 案内されたテーブルでしばらくカクテルを楽しんでいると、明かりが少しずつ落とされていく。どうやら花火が始まるようだ。


 ドオーン!

 ドオーン!


 両岸から打ち上げられる花火は、さすがに★市、×市、フェアリーワールドがタッグを組んだだけあって、タイミングも規模も計算されつくした、美しいものだった。

「すてきねー素敵ねー」

「ひゅーう!」

「たまやぁーーー」

 などと声を上げていた面々も、最後の最後の大花火には、言葉を失って目を見張るばかりだった。

 夏の途中の、大花火のおはなし。




 と言う訳で、今日のレトロ『はるぶすと』は、善七が、かき氷を教えてやる代わりに、と、お祭り企画を提案してきたのだ。


「せんせーい、できましたー」

「お? どれどれ。うわおーGreat! あ、ぐれーとって言うのは、素晴らしいってこと」

「せんせー、俺のは?」

「私のはあ?」

「僕のも、僕のも」

「はいはい、順番にねー、おおーすげえー!」

「俺のも英語でほめてくれ~」

「Oh! Great!」

 夏樹はどうやら、綺麗なお姉さんでなくても引っ張りだこになるらしい。

 しかも、お母様方にも大好評。

「先生、うちの子の、どうですか」

「はい、素晴らしいっす!」

「うちのは?」

「うちのは?」

「みなさん、とっても素敵です!」

 まあ、と、頬を染めるお母様方。


「おやおや、相変わらずモテモテだな、夏樹先生は」

「だね」

「おじさん、かき氷ちょうだい」

「だからおじさんじゃねえ!」

 また子ども相手に本気で怒る善七に、クスクス笑いながら「怖いおじさんだね」と、優しく声をかける冬里。

 本性? を知っている善七は、その微笑みにちょっと背筋が凍り付くのだった。

「最後にタコ焼き食べに行こ!」

「うん!」

 どうにも解せない表情で「普通は最後にかき氷、だよな」とつぶやく善七に、冬里がクスッと笑って「だってシュウのタコ焼きだよ?」と言い余計に彼をいぶかしがらせた。



 レトロお祭り『はるぶすと』も無事終了し、ここはいつもの2階リビング。

「こんにちはー」

「こんばんは、だよ、由利香」

 豪快に扉が開いて、椿と由利香が入ってくる。

「お、来た来た。久しぶりだな」

「善七さん」

「その節は、色々お世話になりました」

「いやあ、世話してもらったのはこっちの方だぜ、まあ座りな」

 と、誰がここの主かと思うような言い方で善七はソファをすすめる。

 しばらく和やかに花火大会の話しなどをしていたのだが、ふと由利香が思い出したように聞いた。

「夏樹はもう、かき氷の秘伝、伝授してもらったの?」

「はいっす、けど」

 そう言って不服そうに善七を見る夏樹。

「なに?」

「ああいうもんはな、修行を積んで獲得していくんだよ」

「って言って、ほんのさわりしか教えてくれないんすよー。善七さんのケチ」

「ケチじゃねえ、俺だってずいぶん試行錯誤したんだぜ」

 唇をとがらせている割には、夏樹の目は笑っている。当然彼にもそれくらいのことはわかっているのだ。

「そうなの。でね、厚かましいとは思ったんだけど、私もどうしてももう一度あのかき氷が食べたくて」

 由利香が申し訳なさそうに手を合わせて言う。

「お疲れでしょうけど、お願い出来ますか?」

「ああ、わかったぜ」

 と、善七は気軽にキッチンへ行き、ヒョイヒョイと気軽にかき氷を作ってきた。

「うーん! やっぱり美味しい~」

「うーん、キーンとならないね」

 2人が本当に美味しそうに食べるのを、善七は嬉しそうに眺めていた。


 すると。

 キッチンの方で、かき氷器の音が聞こえてきた。

 見ると、なんとシュウがかき氷を作っているではないか。

「へ? シュウさん?」

「お、クラマも俺の仕事に魅せられたのか?」

 そんな2人に返事も返さず無言のシュウに、冬里が「これはもしかして」とか言うので、夏樹は「ずるいっす」と不服そう。椿と由利香は期待のまなざしを向けている。

 善七だけが、「なんだなんだ?」とわけがわからず、けれど楽しそうだ。

 1分も立たずに、シュウが盆を手にやって来る。

「お待たせしました」

 見ると、そこにはほんの2口程度のかき氷が5つ乗っていた。

「なにこれ?」

「小さいですね」

「ほほう、だが、綺麗に盛り付けられてるな」

「・・・(唇をとがらせている)」

「ふうん」

 5者5様の感想を述べたあと、冬里以外はそれを手に取った。夏樹も渋々だったが、やはり誘惑には勝てなかったようだ。

「冬里は?」

 由利香の問いに、

「僕はやめとく。今かき氷の気分じゃないんだよね」

 と、綺麗に微笑んだ。

 不思議そうな皆が、各々それを口に運んだ途端。


「!」

「!」

「!」

「!」

 4人はスプーンを取り落として、頭を抱え込んだ。

「なにこれー!」

「うわー!」

「頭が!」

「キーン!」

 しばらく悶々としていた4人の中で、1番始めに立ち直った善七がシュウに食いついた。

「何やったんだ、お前!」

「いえ、キーンとならないのが出来るなら、すぐにキーンとなるのも出来るかと思いまして」

「ちょっと効果がありすぎたみたい、だね」

「ああ。申し訳ありません、しばらくご辛抱下さい」

 すまなさそうに言うシュウだったが、夏樹がゾンビのようによみがえって、冬里に迫っていく。

「冬里~、知ってたんすね~」

「ええ? 知らないよ?」

「冬里~」

「冬里~」

 そのあとに椿と由利香も復活して、冬里に迫る。

「ええ~? なんで僕~? ちょっと、シュウ」

「ああ、ごめんね」

 だが、何と言うことでしょう。そのあとに、善七はまたひとくち、激キーンのかき氷を口に入れるのだった。

「うおー!・・・だがこれ、癖になるなあ」

「善七さん、マゾっすか」

 あきれたように言う夏樹と、そこでもんどり打つ善七に、皆は大笑いしたり苦笑したりするのだった。



 そしてそして。何故か善七は、シュウを大層気に入ってしまったようで。

「なあ、クラマ! お前おれの弟子になれ。で、一緒に日本全国駆け回ろうぜ」

「いえ、それはちょっと」

「なんでシュウさんが弟子っすか、それなら善七さんがシュウさんの弟子でしょ」

「夏樹は黙ってろ。なあ、クラマ~」

 手を取って言う善七に、シュウは困ったように首を振るばかり。

 そして、救世主はいつも最後に現れる。

「ねえ、善七おじさん? 今、シュウがいなくなると『はるぶすと』は、ちょーっと困っちゃうんだよね~」

 キーンよりも効く冬里の言葉に、さすがの善七もあきらめて、また放浪の旅へと出ていくのだった。


「今度はどこへ行くんすかね、善七さん」

「さあ? また会えるんじゃない?」

 駅まで送ると言う申し出を断った善七は、優雅に手を振ると、やがて夜の闇に消えていった。

 空には星が瞬いている。


 夏の終わりの、ちょっとしたおはなし。



立秋が過ぎると、暑さも少ーし、ましになってきましたね。

まあ、まだ8月はこれからですが。

今回は軽めのお話しです。暑い夏に、かき氷と花火で少しでも涼がお届け出来れば幸いです。

このシリーズ、まだまだ続きますので、また遊びに来て下さいね。それでは!

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