飛び降りはファーストキスの後で
どこでしょう。どこかのショッピングモール。きっと土曜日ですね。暇つぶしにでもどうぞ。
死にたい。最近の若者が息するように吐きだすキーワードのうち、ベストスリーくらいには入るだろうこの呟きは、別にそうなりたくて吐いている訳じゃない。そう理解したのはつい最近のことだ。普段頭の軽そうな少女達が頭の軽そうなことでキャラキャラ笑い合っていて、不意に死にたがっているのが、おかしいといえばおかしかったのだが。私の短い歴史の半数を占めていた考え事が、つい最近染みこむように理解できた。
「死にたい。」
ほら、誰も本心から望んでの言葉じゃあないのだ。ただ、この時期の微妙な気持ちの動きだとか、ふとした時の気怠さ、罪悪感をどう表して良いか私たちは知らないので、ついつい一緒くたにまとめて投げ捨ててしまう。
「死んじゃだめだよ。」
時にマジレスをくらうと面食らうのは、やはり本当の気持ちでは無いからで。例えばやったことのない非行を責められたような、咎められたような気持ちになるからだ。中身のない薄っぺらな言葉を真に受けた、隣の物好きを間抜けと罵れば誤魔化せる程度。その程度、がのどに詰まるから、私たちは一瞬面食らうのだ。
「死なないよ。まだファーストキスもしてないのに。」
唇を尖らせた私は、違う意図で同じような顔をした隣人を見やる。まるで今すぐ済ませて死ね、と言われたみたいに、仕草がタイムリー過ぎたから、そうしてしまおうかしら。と言わんばかりに顔を寄せてみる。
「だめ。したら死ぬんでしょ?しないよ。」
残念。お口ミッフィーにされてしまった。おまけに片手で阻まれてしまった。
「ねぇ、どんな方法が一番いいと思う?」
友人の唇に興味を失った私が、あっさり尋ねると、意外にもはっきりと返事が返ってきてしまった。畜生、絶対へどもどすると思ったのに。
「あんたを安全な場所に固定して、目の前で飛び降り。」
闇、というか病みを感じる回答に思いがけずも黙り込む。何というか、執着心の強い人だ。それで私が涙を流せば満足か?胃の中のものをなり振り構わず吐き戻せば満足か?脳裏に死にゆく友人を刻み込んで、廃人になれば満足なのだろうか?
「なに、その、あたしが言いそうな病んデレ回答。」
へらへら。擬音がつきそうな笑顔で訊くと、奴はまともな答えをよこした。
「これに懲りて死にたいなんて言わなくなるかと思って。」
自己犠牲的過ぎやしないだろうか。ご自愛下さい。もっと我が身を顧みて。私だって他人のためになんか死にたくない。
「悪かったよ。」
「謝ることないじゃん。」
せっかくの友情に頭を下げたのに、手のひらを返すな。
いつの間にか話の始発を見失った私は、お隣さんを連れ立って、ショッピングモールの屋上を去った。