第7話 プラタ15歳
海賊の話なので世界観はかなり広くなってます。本当はオルデン大陸のモデルはイベリア半島なので大陸ではないのですが、化学はかなり衰退した時代設定ということで勘弁してください。
ヒコ王国の港は賑わっていた。この国は海軍に力を入れており軍艦が多い。さらによその国からも貿易のための商船がとまっていた。
なぜかというとすべてはヒコ王国の王様のおかげなのだ。百数年前にキノコ戦争で地獄のような大騒ぎになった。その時初代国王が腕っぷしの強い人間をまとめ、食料を確保し、長い冬を乗り越えた。
そして畑を耕し、漁を指揮したのである。無法者が自暴自棄になり弱者から命の糧を強奪するのが目立ったが、初代によって駆逐された。一般人は国王の庇護に置かれ貧しいながらも平和に暮らせたのだ。
それに当時は魚人や亜人という種族が現れたが、全員人の話が理解できるから人間だと混血を勧めたのだ。国王もシャチの魚人になったが、虎の亜人の女性と結婚した。国内は魚人が多いが人間も少なからずいる。それを差別する人間はほとんどいない。いるとすれば馬鹿だけである。
さてヒコ王国は特別な事情がある。それは海の守り神ネプチューンヘッドのおかげだ。彼の所持する大頭船の目から垂れ流される涙鉱石は衰退した人類の技術を復活させる原動力となったのだ。
何しろ海には金や鉛などの成分が含まれている。さらに地上のゴミが雪解け水と一緒に流れてきたのだ。腐敗しないプラスチックのゴミを食べるのである。それらを大頭船が食らい、涙鉱石として排出されるのだ。
涙鉱石は半透明な固い膜に覆われている。そのままでは何も味はしないが砕いて粉にすると食塩の代用品になるのだ。それらも交易の主力商品になるのである。中身は金や鉄、プラスチックの塊が入っているのだ。大頭船は食べたものを区別して排出する体質を持っている。それ故に混じり気のない鉄や鉱石が手に入るのだ。
「おぉ、ポセイドン号だ。ネプチューンヘッドさまがいらっしゃったぞ!!」
「お前ら、馬車を用意しろ!! 船には涙鉱石をたんまり入れた樽がぎっちりと積んであるはずだ!!」
「さあ人足を呼び寄せろ!! 今日の港は忙しくなるぞ!!」
港にはその大頭船がやってきたのだ。港は祭のようににぎわっている。貿易では毛皮や砂糖に香辛料などが輸入されているが、それでも涙鉱石は最高の交易品なのだ。商人たちは人足たちに檄を飛ばし、ヤギウマの牽く馬車を次々と連れてきた。
「うわぁ、毎回すごいな。おやじが入港するたびに蜂の巣をつついたような大騒ぎだ」
15歳の少年がその様子を見て面白がっていた。彼の名前はプラタ。短く刈り上げた銀髪がきらきら光っている。着ている服は頭に皮の額当てと黒いパンツ、そしてサンダルのみだ。
大頭船はパイレーツヘッドたちが木の樽を船底から持ってきた。大頭船は船の先端のみ中身が詰まっており、それ以外はがらんどうだ。そこから樽を保管してある。
さてその中で巨大な手が現れた。それはビッグヘッドの中でも異質なビッグハンドと呼ばれるものだ。短い脚だけちょこんと生えている。その足をパイレーツヘッドの一体が肩車のように組んだ。他のビッグヘッドも十体ほど肩車をした。するとムカデのように長くなり、巨大な腕に見えた。
その手は樽を一度に5つほど掴むと、港の方へ置いた。それを何度も繰り返す。人足が一個ずつ運ぶよりもかなり早かった。それにもう一体ビッグハンドがおり、二本の手が効率よく積み荷を商人たちが用意した馬車に置くのである。
「百年前と比べるとかなり寂しくなったがね。それに積み荷も半分以上は減ったな」
海藻のような髪に青白い肌をしたネプチューンヘッドが言った。今でも十分賑やかなのに、百年前だとどれほどだったか予測が付かなかった。
「それにしてもこの国はいろんな人がいるな。魚人はもちろんだけど、人間や亜人などいろんな人がいるな」
プラタは港を見回した。ヒコ王国は魚人が多い。しかし人間はもちろんの事亜人などもいる。これらは他の国から来た者がほとんどだ。レスレクシオン共和国やオラクロ半島、ナトゥラレサ大陸にある闘神王国やカカオ王国から来ている。
さらに北には元はイギリスだった妖精王国やドイツであった巨人王国、そしてフランスだった蟲人王国からの船も入港している。食堂も各国に合わせた物が多く、世界中の味が楽しめると言っても過言ではなかった。
プラタは再び港を見る。人間たちはパイレーツヘッドを見ても平然としていた。中には初めてなのかビッグヘッドが街中にいることに驚愕している者もいたが、他の人間が説明していた。
「おやじたちを見ても殺気立たないんだよな。この国の人たちは」
「なんだ、お前はそんなことを気にしていたのか? 別にワシらは人間と仲良くしたいわけじゃない。向こうもわしらと付き合えばおいしい取引ができるからそうしているだけだ。腹の中では何を言っているかわからんよ。それでも商売としては個人の感情より互いの利益を優先するものだ。そもそもわしらは神が作り出した生物ではない、人間が生み出した禁忌の存在なのだ」
「そうなのか? でも俺は赤ん坊の頃からおやじたちを見慣れているから何とも思わないな。むしろおやじたちを敵視する奴らが許せないよ」
12歳の頃、助けた商船の人間たちがビッグヘッドであるネプチューンヘッドたちを石を持って追い払ったのだ。プラタはそれが許せなかった。その前にセイレンヘッドが嫌味を言ったのだがこちらは意味を理解できなかったが。
「むしろわしらを恐れぬお前が危ないのだ。本来ビッグヘッドと人間は区別しなくてはならないのだよ。レスレクシオン共和国にある猛毒の山にはわしと同類であるキングヘッドが住んでおるが、フエゴ教団の一部の人間だけ顔を見合わせているくらいだ。本来わしらはキノコの毒に汚染された土地と海に同胞たちを連れていき浄化させるのが目的だった。そして生命力の強い動物と植物を置いて自然を復活させることもな」
それらは外来種と呼ばれるものだ。生命力が強く在来種を蹴散らし、病原体のように広まっていく。アライグマやヌートリア、アカシカやアナウサギが野を駆け、湖にはブラックバスやブルーギルが泳ぎ、川にはウシガエルやアメリカザリガニ、アメリカナマズがうじゃうじゃ増え、野原にはオオハンゴウソウやホテイアオイなどびっしりと咲き狂うのである。
現在ではその地方にいた在来種はほとんど消えており、どこにでも見かける外来種ばかりとなった。おかげでレアな動植物が高値で取引されるなど悪影響が強くなっている。ヒコ王国には貴重な牛や馬がいるが、やはりキノコ戦争で肥大化したヤギウマやヤギウシを重宝していた。
「それよりもあと三年だ。この船の寿命はその日に来る。その時お前には二つに増えた大頭船の種をやろう。もうひとつはもう一人の我が子であるトリトンヘッドに与えよう」
トリトンヘッドは十年前にネプチューンヘッドの額から生まれた小さいビッグヘッドだ。プラタを兄と慕っている。
「三年か……。待ち遠しいな。あいつらもきっと大きくなっているに違いない」
プラタは空を見上げながらつぶやいた。十歳の時に三角湖で出会った未来の仲間たちの顔を思い浮かべたのであった。
次回の更新は9日からです。セクハラファンタジーでは調子に乗って一日に何篇も投稿したのでストックが切れてしまったのです。二日おきならかなり余裕を持たせられますね。
二日に一篇は厳守します。そうでないと体がもたないのです。
ただ正月まで連載が続くなら、その時は3日連続の更新にしますね。そこまで連載が続けばの話ですが。