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第6話 プラタ12歳

「うわー広い海だなー!!」


 船の上を子供がはしゃいでいた。12歳の少年で着ている服は黒いパンツ一丁だ。短い銀髪を光らせている。肌は日焼けしており真っ黒だ。


 船には異形の怪物たちが仕事をしていた。巨大な顔に手足がくっついている。彼らは船上を走り回り、作業をしていた。彼らはパイレーツヘッドと言うビッグヘッドだ。


 周りには化け物しかいないのに少年はまったく気にしていない。牛や馬を見るような感じである。彼にとって彼らは当たり前のようにいる存在なのだろう。


「こらこら、はしゃぐでない。へたしたら海へ落ちるぞ」


 少年をたしなめるのはパイレーツヘッドより一回り大きいビッグヘッドだ。髪の毛は昆布のようにもじゃもじゃで、青白い肌をしている。眉と口髭が生えており、表情は読みにくい。


 この船の船長であるネプチューンヘッドだ。さらに乗っている船もビッグヘッドなのである。大頭船ビッグヘッドシップといい、生きている船なのだ。


 そしてこの船で唯一の人間が先ほどの少年。プラタただひとりなのである。


「平気だよ! だって地中海なんて庭みたいなものじゃないか。大丈夫大丈夫!!」


「大丈夫ではないわ。慣れているからこそ油断をして痛い目に遭う。何度も教えたであろう?」


「……そうだった。おやじ、ごめん」


 プラタはネプチューンヘッドに注意されてすぐに謝った。彼はネプチューンヘッドの息子なのだ。もちろん腹を痛めたわけではない。赤子の時に拾われたのである。


 ネプチューンヘッドはあまり人間と関わらない。大頭船の目から排出される涙鉱石ティアミネラルをヒコ王国などに卸すくらいだ。昔は涙肉ティアミートを提供したが今はもうない。


 ある意味気まぐれであった。プラタを抱きかかえていた女性の心意気に心を打たれたのである。以後彼を育てて海へ連れ出していたのだ。


「うむ。アマーベルとジェンチゥに預けたのは正解だな。素直でよろしい」


 アマ―ベルとジェンチゥは鯛の魚人夫婦だ。ヒコ王国でロウソク屋を営んでいる。一人娘に人魚のオウロがおり、プラタは姉弟のように育てられたのだ。もっともお腹は膨れており、近いうちに弟か妹が生まれる予定である。


 ネプチューンヘッドではお乳は出ない。赤ん坊を育てることはできないのだ。それ故に預けたのである。もっとも当時のアマーベルは母乳が出なかったのでヤギウシの乳を飲んで大きくなった。


 その反動かプラタは女性の乳房を求める子供になった。以前通行人の女性の胸を揉んだら頭にアマーベルのゲンコツを喰らって以来、許可をもらってから揉むようになった。もちろんオウロはその度に鉄拳制裁を食らわせるのが常だった。


「おや、おやじ。遠くで船が襲われているぞ」


 プラタは右手を水平にして海を見た。現在大頭船、ポセイドン号は地中海を航海中である。百数年前はキノコ戦争の影響で腐っていた。長い冬が明けキノコの毒とゴミが大量に流れだしていたのだ。魚は大量に死んで海面を絨毯のように埋め尽くしていたのである。


 現在はネプチューンヘッドのおかげでゴミはほとんど食べつくされた。ポセイドン号から流れる涙は浄化された真水で水質もかなりきれいになったのだ。ただしプランクトンも食べつくされるため同じ場所には留まることは難しい。


 さて船は商船らしく、ビッグヘッドに襲われていた。水晶のように濁った大きな目に、鼻は平たい。さらに唇は分厚く、手足は水かきがついている。そいつらは人間の足を掴み、そこからかみ砕いていくのだ。その苦痛はまるで地獄から響いてくるようなおぞましい声であった。


「あれはマーマンヘッドか。セイレンヘッドの手下だ!!」


「そのようだな。するとやつはこの近くにいるだろうな」


「やい! セイレンヘッド!! 隠れてないで出てこい!!」


 プラタが叫ぶと、海面がいきなり盛り上がった。それは鯨のように巨大だ。しかし顔は人間のものである。しかも美しい女性の顔だ。髪の毛はなく、額にはチョウチンアンコウのような突起物がある。


「なに、ネプチューンヘッド。おひさしぶり。そこの人間の子供は誰?」


「俺はプラタだ! ネプチューンヘッドの息子だぜ!!」


「はぁ? 息子ですって。人間のくせに寝ぼけたことを抜かしてんじゃないわよ」


 ぼそぼそしゃべっていたセイレンヘッドだが、プラタの言葉を聞き横柄な口調になった。目つきも鋭くなっている。


「それよりおやじ、早く助けに行こうぜ!! あのままじゃ全員マーマンヘッドに喰われちまう!!」


 プラタはセイレンヘッドの言葉を無視して父親を急かす。ネプチューンヘッドは舵を取ると、ポセイドン号は商船目がけて走り出した。


 特にセイレンヘッドは追いかけてこなかった。どことなく小馬鹿にした笑みを浮かべている。


 船はすぐにやってきた。プラタは一足先に飛び出す。商船では泣き叫ぶ声が聞こえてきた。マーマンヘッドに生きたまま喰われているのだ。陸にはスマイリーという不気味な笑顔を浮かべながら人を喰らうビッグヘッドがいる。こいつらは海を縄張りにする人食いビッグヘッドなのだ。


 プラタはへそに力を入れるとへそは拳に形を変えた。そしてマーマンヘッドたちを殴り飛ばしたのである。


 飛ばされたマーマンヘッドは海に落ちた。そのまま浮かんでこない。死んだので海底に沈み海藻へ変化したのだ。ビッグヘッドは殺されると木に変化するのである。基本的には数年経つと木に変化するのだが、殺された場合は半分も成長しないのだ。


 プラタは次から次へとマーマンヘッドたちを倒していく。パイレーツヘッドたちも手伝っていた。舌をカトラスのように振るい、歯を弾丸のように吐き出して攻撃するのだ。数分も経てば商船を襲っていたビッグヘッドたちは始末された。


 やがて静かになると船内から人が出てきた。全員人間で目はうつろだった。先ほどの地獄絵図を経験したため、現実に戻ってこれないのである。まるで幽鬼であった。


「あはは。あんたたち無事だったか。助かってよかったな」


 プラタは笑いながら話しかけた。だが船員のひとりが奇声を上げる。指を差した先はポセイドン号だ。ネプチューンヘッドが駆けつけたのである。


「ひぃぃ!! でか頭がまた来たぁ!!」


 船員たちは怯えだした。ネプチューンヘッドを先ほどの仲間と思い込んだのである。それにプラタはパイレーツヘッドを率いている。もう船上は大混乱であった。再び悪夢が始まるのかと泣き叫んでいた。


「おい、あれは俺のおやじだ。何の心配もないぞ」


 しかしそれは何の慰めにもならなかった。却って爆弾の導火線に火を付けたのである。


「おやじだと!? でか頭をおやじというなんて異常だ!!」


「人間でもでか頭に魂を売ったエビルヘッド教団の手先だな!!」


「これ以上好き勝手にやられてたまるか、殺してやる!!」


 船員たちはカトラスを手に持ち、拳銃を構えた。全員殺気立っていう。ネプチューンヘッドはすぐに戻ってくるように指示した。プラタはすぐにポセイドン号に飛び移ると、その場を去った。ポセイドン号の船底には手足があり、それで水をかくことができるのだ。


 やがて商船は見えなくなるとプラタはほっとした。どうやらネプチューンヘッドを知らない国の船だったようだ。これがフエゴ教団や闘神王国の船なら責任者が出て、船員や客を誤魔化すことができたのだが。


「ははは。助けた人間に追われる気分はどうかしら?」


 海の方から声がした。それはセイレンヘッドだ。彼女は顔をぽっかりと出していた。どことなく小馬鹿にした態度である。


「何言ってんだ? あいつらはたまたまおやじたちを知らなかっただけだ。それを人間全体にひとまとめにするなんて乱暴だな」


「あら、知ってても同じことよ。今はネプチューンヘッドに感謝しても世代が変われば彼を憎むようになるわ。今までの恩を忘れ軍隊を組織して殺しにかかってくる。人間はおろかなのよ。だからキノコ戦争なんて馬鹿げたことをする。早くネプチューンヘッドから離れなさい。人間に殺されるわよ」


 セイレンヘッドは皮肉を残して海へ帰った。プラタはひとりつぶやく。


「あの人何言ってんだ? 人間はおろかと言っているけど、おやじたちが生かされているのは人間たちのおかげだと言ってたぞ?」


 プラタは呆れた顔でセイレンヘッドが消えた方を眺めていた。ネプチューンヘッドは苦い顔を浮かべている。

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