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キャプテンプラタ参上

「いやー! 助けて―!!」


 照り付ける太陽の下、島影ひとつ見えない海原に二隻の船が浮かんでいる。

 一隻は商船で荷物を多く積んでいた。食料に日常雑貨など様々だ。

 もう一隻は海賊船だ。ガレオン船でメインマストにはドクロのマークが掲げられていた。


 先ほど叫び声を上げたのは十代後半の女性だ。金髪の美女である。そして十歳くらいの幼女を腕で包んでいた。

 泣きそうな顔になっているが、幼女のためにあえて我慢しているのだ。そのため幼女も泣きださない。必死に恐怖を飲み込んでいる。


 商船はすでに血の池地獄と化していた。船員たちは背中を斬られ、銃で撃たれて死んでいた。フリントロック式である。

 海賊たちは上半身裸で髭もじゃだった。胸毛も濃く、カトラスという刀身が短く刃が湾曲した剣や、フリントロック式の銃を手にしていた。

 その内トライコーンというふちの部分が三つに分かれて上に折り返された三角形の形をした帽子をかぶった大男が叫ぶ。右目は眼帯を付けていた。おそらく船長であろう。


「ヒャッハー!! 俺たちは白鯨女王の傘下、ピヤー一家だ!! この船の積み荷は俺たちのものだ、お前らもこいつらと同じ目に遭うんだよ!!」


「おっ、お願いです!! 私はどうなってもいいから、この子だけは助けてください!!」


「どうなってもいい~? それほんと~?」


 ピヤーは小馬鹿にした口調で訊ねた。女性は声を出さず、こくんと首を横に振った。

 すると歯をむき出しにして笑うと、女性から幼女を片手でつかみ取る。幼女は暴れるが無視していた。


 幼女を長い板の先端に乗せる。落ちたら海に真っ逆さまだ。しかも海中には巨大なホオジロザメ、ホオジロ竜という人食い魚が泳いでいるのである。


「お姉ちゃん助けてー!!」


「ああ、なぜ!? どうして妹を!!」


 女性は右手を伸ばすが、ピヤーが床に頭を押さえつける。周りの船員たちはにやにや笑っていた。女性の泣き叫ぶ声を聴いて、面白がっているのである。


「ぼくちゃんはねぇ~、自己犠牲がだ~いっきらいなんですよ~。君みたいに自分の事はどうでもいいなんて人間はむっかつきま~す。なので妹ちゃん。自分が助かりたければお姉さんを殺してと頼みなさ~い。そしたら君を助けてあげるよ~」


 なんという非道であろうか。妹の命を守ろうとする姉を殺せと命じているのだ。幼女は涙目になっている。女性は殺してと頼みなさいと叫んだ。このような状況でも姉は人の心を捨ててないのだ。


「あーむかつくむかつく! 早く助けてといえよ! お姉ちゃんを殺してと頼めば君を助けると言っているんだよ~? それなのになんでお願いしないのかな~? ムフフフフ」


 ピヤーは気味が悪いほど猫なで声で幼女に訊ねる。この男は人が裏切る様を見たいのだ。親が子供を売り、兄弟がお互いを殺しあう。夫と妻は罵りあい、母親は保身のために赤子を捨てる。

 

 その後生き残った方を殺すのである。約束を破るのが大好きなのだ。そうやって相手が絶望の表情を向けて死ぬ様がとてつもない娯楽なのである。


 人の不幸は蜜の味、他人の幸福はわが身の不幸なのだ。大手の海賊、白鯨女王の看板を掲げれば相手は報復を恐れて黙って殺される。一方的な殺戮が楽しめるのだ。


「さ~、早く答えなさ~い。答えないとどうなるかわかるよね~」


「どうなるのか、教えてくれよ」


 突如、知らない男の声がした。船長は慌てて振り向くとそこにはひとりの青年が立っている。十代後半で、身に付けているのは額の皮当てと、黒いブーメランパンツ。そしてサンダルだけであった。


「なんだてめぇは!! 俺様が白鯨女王の傘下だと知ってての狼藉か!!」


「知らねぇよ。それよりあの子が危ないな。早く引っ張らないと」


 青年は両腕をまっすぐ伸ばし、上に向ける。そして両腕を曲げ、力こぶを作った。

 すると青年のへそが腕へと変化したのだ。腕はするすると伸びて、海に落ちそうな幼女を摘まんで安全な場所まで運んだのである。


 それを見たピヤーは激怒した。せっかくひ弱な子供を散々怖がらせた後、無慈悲に突き落としてホオジロ竜の餌にするつもりだったのだ。


 船長の顔は真っ赤になった。額には血管が浮き出て、歯ぎしりをする。目の前の青年に対して異常なまでの殺意が膨れ上がった。この男を残酷にいたぶって殺さないと憂さが晴れない。


「野郎ども! こいつを蜂の巣にしてやれ!! ただし殺すなよ、いたぶっていたぶって、いたぶった挙句、殺せ!!」


「ひぎゃあ!!」


 船長の号令に対して部下たちは情けない声を上げていた。見ると部下たちは全員消えていた。そしてどぼんどぼんと膿に何かが落ちる音がした。その後阿鼻叫喚の声が響き渡る。


「ふん。ちょいと蹴っただけで吹き飛んだな。なんとも細い背骨の持ち主だろうか」


 黄緑色の巨大なカエル人間が愚痴をこぼした。身に付けているのは胸に晒しを巻き、白い褌を締めていた。

 右足をあげており、かかとの部分は血がべっとりとついていた。首が反対側に回った死体が目立つ。木の壁にめり込んだ者もいたがすでに絶命していた。


「あのね~、姉上がすごいんです~。コハクは力いっぱい込めないとだめでした~」


 黄色い二メートルほどの巨大なナメクジ女が間延びした声で答えた。こちらもカエルと同じ晒しとふんどしだ。

 彼女は両手に海賊の頭を握っていた。ぐったりとして動かない。首をへし折られてたのだろう。


「彼らは弱い者いじめしかしてないから弱いのです。我々に勝てるはずがありません」


 こちらは異質であった。まるで鉄の像がしゃべっているようだ。だがそれは人である。石綿のような髪の毛は腰まで伸びていた。こちらは革製のビキニのみである。

 彼女の右手は血がべっとりと濡れていた。その足元には首のない死体が転がっている。彼女が手刀で殺したのだ。


「はいです、そうです。そうなんです!! 私たちが強すぎるのが罪なのです!!」


 最後はヒル人間だ。髪の毛は生きているヒルが集まったように見える。茶褐色に柔らかそうな身体であった。こちらは白いワンピースを着ている。彼女の片側には船長に捕らえられた女性がいた。いつの間にか助けていたのだ。

 別の場所では干からびた死体が横たわっていた。いったいどういうわけだろうか。 


「おお、ヒスイにコハク、イエロにフビ。お前らが片づけたのか。俺一人でもよかったのに」


「プラタにまかせたら日が暮れる。さっさとそいつを始末しろ」


 カエルの女、ヒスイがさっさとしろと催促する。ピヤーは真っ青になっていた。自分の部下たちが4人の亜人たちに一掃された現実が追いつかないのである。


「あは、あはははは、これはなんだ? 俺たちは今日も弱い者を殺して楽しんでいたのに、なんで俺の部下たちがひとりもいないんだ? こんなのおかしいよね、おかしいよ。俺は白鯨女王の傘下なんだぞ。俺に手を出せば黙ってないんだぞ……」


 プラタと呼ばれた青年は身体を前傾して両腕で輪を作る。するとへそが変化し巨大な拳ができた。


「ネイブル・アタック!!」


 拳は船長を殴り飛ばした。ぶちっと潰れる音がして、天高く飛んでいった。顔面は潰れ、鼻や口から血が流れる。

 その体は石を投げるかのようにぽちゃんと海面に叩き付けられた。そして巨大な魚影が現れる。ホオジロ竜だ。本来はホオジロザメだったのが、約二百年前のキノコ戦争の胞子のせいで巨大化したのである。


「ピギィィィ!! たっ、たしゅけてぇ!! なんれおりぇがこんにゃめにぃ!! ほんなのいやらぁ!!」


 ピヤーはじたばた泣き喚きながら悪態をついた。しかしホオジロ竜の巨大な口が哀れな獲物を頭から丸かじりする。後に血が浮かぶがすぐに消えた。


「あっ、ありがとうございます!! おかげで助かりました!!」


 女性は改めてプラタにお礼を言った。妹もぺこりと頭を下げる。


「別にお前らを助けたわけじゃない。あいつらがすごくむかついたから始末しただけだ」


「そんな。みなさんが助けてくれなかったら妹は殺されていました。お願いです、お礼をさせてください!!」


「ならおっぱいを揉ませてくれ」


 プラタの頭の天辺をヒスイが長い脚を天高く掲げ、かかとを叩きつけた。プラタの頭は床板に穴を開けるほどであった。


「このバカ!! お前は何を言っているんだ!!」


「そうですよ。人様の、それも年頃の女性に対する言葉ではありません」


 イエロはさらに鉄の足でプラタの頭を踏みつける。その様子を見て姉と妹は慌てた。


「あのね~。プラタちゃんはすごく強いの~。姉上の蹴りを喰らっても平気の平左なの~」


「そうなのです! でもプラタさんはいけない人です! だって私たちがいるのによその人のおっぱいを触りたがるのです。だからヒスイさんとイエロさんは激怒しているのです!!」


「してないよ!! 誰がプラタに胸を触らせるかっての!!」


「フビさん。適当なことを言わないでください」


「そうだったのか。お前たちは焼きもちを焼いていたのか」


 ぐったりしているかと思いきや、プラタは瞬時に立ち上がった。そしてヒスイとイエロの胸を後ろから揉んだ。


 ヒスイは肌の表面は粘着しているがぷにぷにした感触が面白い。

 逆にイエロの胸は鉄のように硬いが、ほんのりと温かみがある。

 ヒスイのこめかみはピクピクしているが、イエロも水晶のような目をぱちぱち瞬いていた。


「だから人の胸を揉むんじゃない!!」


「ヒスイさんと同意見です」


 ヒスイの蹴りと、イエロの腕がプラタの首に決まる。一瞬で顔が青くなった。取り残された姉妹は何をしていいかわからない。そこにフビが声をかけた。


「お二人とも行く場所がなければ私たちの本拠地、ペルギュン島に行くといいのです。あそこは老人が多いので若い人の働き手は大歓迎なのです!!」


 姉妹はその誘いを喜んで受け取った。彼女たちは商船で下働きをしていた。たったふたりの家族で変える場所はなかった。


「ですがペルギュン島といえばアニトラ海賊団の縄張りではなかったですか?」


「あのね~。アニトラさんたちはプラタさんの友達になったから大丈夫なの~。ニャンコの団員さんたちもとってもがんばっているの~」


 コハクが間延びした声で答えた。アニトラ海賊団は猫の亜人で構成されており、評判は悪かった。それを友達呼ばわりしている。女性はコハクの言葉を信じられなかった。


 そう彼らはキャプテン・プラタ。別名でべそ一味と呼ばれる海賊団である。


 いったいプラタとは何者か? それを語るには18年前に遡らねばならないのであった。

新連載です。オルデン・サーガシリーズですが、マッスル~と違い8年ほど古い設定です。


ブラッドメイデンに出演したイエロさんが出ております。

基本的に今から本日は正午と19時あたりに投稿し、7日間連続更新し、そこから二日おきの投稿となります。もっとも時間があれば17時くらいに投稿する予定です。


セクハラファンタジーのように毎日更新だと時間に追われてきつくなるし、かといってトゥースペドラーのときは週に二回しか更新してないので盛り上がりに欠けましたからね。


モデルは今は亡きデータイーストのアーケードゲーム、キャプテンシルバーです。あとはコナミのファミコンソフト、コナミわいわいワールドも入ってますね。


面白かったらブクマと評価を頂けたら幸いです。

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