8.伯爵令嬢と砂漠
ちょっとこの世界の話が出てきます。
暑く照りつける日差しと光を反射して輝く砂達。
果てしなく広がる絶景に思わず感動の声が漏れてしまいます。
僻地に行く前に手つかずの美しい自然に感動を覚えます。
見渡す限りの白い大地と青き空が創り出す、この幻想的な眺めこそが白砂漠なのです。
休憩中に自分の踏みしめて残った足跡が風で消されていく情景は感動を覚えます。それをアラン様に伝えたら遭難しないか不安だといいます。アラン様はロマンが足りないのですね。
アイシャに砂が白いですと柄にもなくはしゃいで伝えるとクォーツで出来た砂であり、もっと簡単に説明するとただのクリスタルの細切れの集まりだと答えてくれました。
……私はその様な事を聞きたい訳ではなかったのです。
どうやら2人とは感動を分かち合えないようです。
ですが本当に綺麗な絶景に私は感動しております。王都に居た時の街並みは確かに綺麗でした。
しかし、しかしです!人工的な美しさと自然の美しさはまた違ったモノです。本当に素晴らしいものです。都会の人が田舎で癒される方の気持ちも理解出来ます。
そして、今私達は砂丘を越えています。
猫仮面様と出会い、賊達を縛り付けた後、調査の為にアラン様の護衛の数人を置いていきました。猫仮面様がこのまま逃しても賊達の報復を受ける恐れがあるので徹底的に潰すのなら協力してくれるそうでアラン様とアイシャと3人で結託してました。
アイシャから私の悪影響になるので離れているように言われたので賊達がどの様に扱われるかは知りません。ご愁傷様です。
私はその間に矢を撃たれた護衛の治癒をしてました。
彼は重症でしたが装備のおかげで生きてました。すぐにヒールをして、回復をさせましたが気を失ったままです。
私の数少ない活躍シーンですが皆が後始末に追われているので私の頑張りを見てくれたのはルーリーだけです。くすん。
後から護衛と本人からお礼を言われたから良いんですけどね。
悪いロビンですがアイシャ曰く、死ぬ方がマシと言える事って幾つもあるのですよと言葉を濁されました。
アラン様に尋ねると自分の身分を明かした後に私の護衛達を今後、アラン様の家で引き取り、専属にすると目の前で伝えたらしく悪いロビンはそれはたいそう悔しがっていたそうです。アラン様のご実家のゲドゥルド領は隣国とは悪い中でも自領の治安も良く、王都以外で平民達が住みたい領地の一つですからね。
自分の達成出来なかった事を元仲間達が達成する。
……やはりアラン様はSですね。
本当に楽しそうに語ってくれました。
そして、アラン様は自身のお父様に良い報告が出来ると喜んでいたので賊達の繋がりは隣国が関係しているかも知れません。
どのみち私は王都には戻れないですし、後始末はしてくれるのなら知らなくても良いと判断します。なのでアラン様に後は任せました。
猫仮面様とお別れしてアイシャと馬車の中で猫仮面様について話したのですが微妙な表情をされました。
「猫仮面様って義賊らしいですね。ケモミミ団って名前かしら?」
「……お嬢様、これ以上シーフキャットにトドメを刺さないで下さい」
どう言う意味でしょうね?
森を抜けて町に辿り着くと私達が向かったのは馬車のお店です。そこで馬車を変えるのです。
これから僻地に向かうまでに砂漠があるそうで馬では砂漠を越えられないそうです。
馬の代わりに用意されたのが大きなトカゲです。
アイシャに聞くと下位竜種の退化した魔獣だそうです。
大人しく力強い生き物で砂漠を超えるにはこの魔獣が一番らしいです。
つぶらな瞳と退化してちっちゃな耳、あるのかないのか分からないですね。
前世の記憶で似た生き物がいましたね。……サンショウウオ?いえ、ウーパールーパーって言うのにそっくりです。可愛らしいです。
アイシャに可愛いねと言うと残念そうな表情をされました。ふむ、価値観の違いですね。
ルーリーに可愛いよねと聞くと怖いと怯えられました。……価値観の違いですね。
アラン様にも3度目の正直に聞くとカッコ良いと言ってくれました。……むっ!求めていた答えと違うモノ上々の言葉に満足して、これ以上聞くのは辞めます。別に途中で双方の主張の違いが出てくるだろうと思っていませんからね。
この行動にアイシャはまた残念そうな表情を作ります。
私は気づかないフリをしてこの話題を切り辞めました。はい、お終い!
そう言えば、町で一晩泊まり、次の朝不思議な事がありましたね。内容はこうです。
「……クンクン。アラン様からあの女の人の匂いがする」
唐突にルーリーからの一言で場の雰囲気が変わります。私以外が凍りましたね。
ルーリーはちょっと離れている私を護衛していた冒険者の女性を指差します。指差された女性はこちらの状況を知らず、ハニカミながら小さく手を振るとアラン様の顔を見て赤らめ視線を逸らします。
アイシャはさっき私の隣に居たアラン様の間に入り込み一言。
「……不潔です。お嬢様に近づかないで戴きたいものです」
ルーリーと私は見合わせ首を傾げます。何の話でしょう?香水ですかね?
私が匂いを嗅ごうとするとアラン様は離れ、アイシャから剥がされてしまいました。
う〜ん、香水の匂いはしてないようです。
「ほら、彼女と裏切り者の彼は付き合っていたらしいからさ。ショックも大きいだろうと慰めてあげていたんだよ」
しどろもどろに話すアラン様。少し汗をかいてます。
「それはそれはどの様に慰めたか知りたいモノですね。何が恋愛はしないですか。そう無害を装いお嬢様に近づこうとは死にたいのですか?ねぇ、死にたいのですか?」
「ち、違うぞ!恋愛はしないけど私も男と言うか、その、傷ついた女性をほっとけないというかな。シュア嬢にそういった気はないぞ!」
「お嬢様に魅力がないですって!これほど魅力的でムラムラするお嬢様に向かって!」
「理不尽だ!何言っても私の不利だ。許してくれ」
いつもSっ気のあるアラン様が萎れていると、もっと萎れさせたくなりウズウズしてしまいましたが我慢です。その後も私の代わりにアイシャがねちねちと良く分からないですが怒ってましたね。何だったのでしょう?
それから賊の護送を終えたアラン様の護衛達と合流してアラン様が二手に分かれて行動します。
私達についていた3人の護衛はココでお別れになります。その代わりにアラン様の護衛の1人を私達の運転と護衛に回してくれるそうです。キリッとした大人の女性です。
グラウザム家の用意した護衛の冒険者達は依頼失敗ですがアラン様の言葉添えもつけてお父様に報告するので大丈夫だそうです。その時もアイシャが何がねちねちと言ってましたね。砂漠へ人数は3人3人と計6人で向かいます。
それから時間は過ぎて、2週間は経ちました。
休憩中にこの竜車の中からの景色を堪能していると外から声がかかります。
「シュア嬢……どうして貴方は平気なのだ?この暑さ、何処を見ても同じ風景だぞ?この死の大地を前にして気を狂いましたか?」
確かに砂漠は元の大地に緑がなくなった場所です。表現的には合っているかもしれませんね。しかし、私にとっては前世の記憶を保持している分、死の大地のイメージは無いです。それに雨季になると湖のようにこの砂漠は水で覆われるそうです。その時も見てみたいですね。
「辺り一面何も無く素晴らしい絶景とは思いませんか?蜃気楼で見えると言う噂のオアシスも見てみたいですね。大砂漠を見るのは初めてなので私は今、胸がときめいてますよ。私の属性は炎です。暑さに耐性はあります。それにアイシャが常に魔法で涼しくしてますので外の暑さは気にはなりませんの」
そう答えるとアランは目を丸くし竜車の中に手を入れ確認します。この中はひんやりして気持ちのです。ルーリーがスヤスヤと眠れる位に。
「……魔法にその様な使い方があるとは考えつかなかった。しかし、氷系の魔法?水の上位魔法だよね?王都にも上位魔法を扱える者は少数であり、氷系の上位魔法を使える者なら不自由なく、それこそ貴族以上に裕福に暮らせると思うのだが」
アイシャはアラン様の言葉に溜息で返答します。アラン様はキョトンとした表情を見せるとアイシャはいいですかと話をする。
「名声や富に勝るモノがあります。それはここに居るお嬢様でございます。アラン様、貴方には分からないでしょうね。かけがえの無いモノとは意図して手に入るモノでは無いのです。それを手放す愚か者に私になれと仰るのですか?」
「……そうか。シュア嬢も良き従者と巡り合わせたな」
「褒めても私のアラン様への印象は変わらないですよ?」
「……」
引き攣つらせアラン様は自分の竜車へ戻る。アラン様も居なくなり、また静かになります。
「そう言えば、一つ聞きたい事があるのだけど良いかしら?」
ルーリーは寝ていますし、アイシャと2人きりになるのは久しぶりです。アイシャは何でしょうと首を傾げます。
「ドラゴンについて知りたいわ。皆が揃って怖いだの何だの言いますが遭った事がある人なんて殆んどいないでしょう?だから、曖昧な情報でしかない。本当にドラゴンを知っていてこの世界に詳しいアイシャに聞きたいの」
アイシャは私の言葉に頷くと良いでしょうと答えてくれます。
「そうですね。まずお伽話で出てくる勇者の話はご存知ですよね?勇者が居て、魔王が居て、ドラゴンが出てくる。その魔王がドラゴンを倒し、勇者は魔王を倒します。しかし、勇者はドラゴンに倒されます。物語の通り、人は魔よりも強いですが竜より弱い。竜は人より強いですが魔より弱い。魔は竜より強いですが人より弱い。その関係を保つ事により、この世界の平和の均衡を保ってます。ドラゴンと言う存在の話は大まかに説明すると人族のストッパーの役割りです。その辺りを詳しく話すと女神や獣人や別の大陸も説明が長くなりますので省きます」
成る程と私は頷きます。
「そして、ドラゴンについては様々な種類がいるとしか言えませんね。私が会った個体は獰猛で争いが好きだった様です。ですが、本来ドラゴンは知性が高く気高き生き物です。なので滅多に人を襲う事は少ないでしょう。でなければ英雄がずっとあの地にい続ける事は出来ませんよ」
人と同じく個性があるのね。
あまり襲う事は無いと言うのは知性があるからね。
話せば分かるのかしら?
高位魔獣も人の言葉を理解すると言いますものね。
まぁ、出会う可能性は低いそうなので大丈夫でしょう。
もうすぐ僻地に着きますが私のお家がどの様なモノか楽しみです。
護衛
「シュア様から助けて頂きましたがアイシャ殿の言う通り、矢を貫通させなかった筋肉が素晴らしいです!筋肉が矢を通さなかったからシュア様から助けていただけたのです」
アイシャ
「その通りですよ。筋肉こそ至福。筋肉こそが真理。良いですか?だから、お嬢様を崇拝していいですが好きになってはいけませんよ!」
護衛
「えぇ、この胸筋と腹筋を更に鍛え、雨の日も風の日もどんな日も胸筋を鍛え続けて生涯を胸筋に捧げます!」
アイシャ
「素晴らしいわ。もう君には胸筋について教える事は無いです。後は腹部にある傷を2つ追加すればもう何も無いわ」
護衛
「この5つの矢の傷を7つにする事で意味があるのですか⁉︎」
アイシャ
「えぇ、その7つの傷をつけた者のみ使える技『お前は既に死んでいる』を唱えると敵は破裂するわ」
護衛
「何と!アイシャ殿のおかげでまた一つ強くなれそうです!」
アイシャ
「ムキムキになって凛々しくなるのよ。そしたら貴方も一人前ですよ」
シュア
「……何しているの?」
アイシャ
「爽やかイケメンの撲滅運動です」
シュア
「……」