5.陛下と伯爵家当主と愉快な家臣
出発前の出来事です!
〜とある王宮内の出来事〜
煌びやかな印象を与える男性が深く溜息をつく。そして男性は周りの者に目を向けると周りの者は目を伏せる。
男性はまた再度溜息をつく。彼をよく見ると少し窶れていて、目の下にも隈が出来ている。
そして、その場に居る者達も何処となく哀愁漂い疲れている。
「……グラウザム家の令嬢に冤罪とは当主はどの様な対応をされたのでしょうか?」
重たい雰囲気の中、1人が恐る恐る口を開く。彼の言葉に周りは一斉に煌びやかな男性に視線が集まる。
「……そうかの一言だった。謁見の間で今回の出来事を伝えると無表情で一礼した後、帰ってしまった」
煌びやかな男性が話し終えると誰もが天を仰ぐ様にぐったりする。
「どうする?グラウザム家を敵に回したとして見ていいだろう。帝国との情勢が変わるかも知れないぞ。彼は既に英雄の域だ。何度も帝国の遠征軍を敗退させ、敵からはレッドラインやら紅蓮のグラウザムなど呼ばれ恐れられている。その彼が溺愛している娘をこの様な不始末で失ったのだぞ?彼が帝国に付く前に判断を下さないと王国は終わるかもしれん」
「……彼を相手にする貴族がいるか?ワシは嫌じゃ」
「そうですね。私も彼を敵に回したくありませんね。それに独立領の領主は彼と仲が良い。西の国と彼等の執着を見ると我が国の基盤が崩れれば彼は王国や西より帝国を選ぶでしょう。そうなれば誰もこの国の崩壊は止めれないでしょう」
「……其方等はまだ良い。私は愚息が関係している。しかも私の名を使い、民に悪い印象を付けてしまっている。当の本人はその事を気付けないでいる。国の剣と呼ばれる私達は公平であり、正義である。だが、自分よがりの正義を喜ぶのは一握りだ。しかも断罪時に少々暴力を振るったと聞いた。一族で緊急に集まり頭を悩ませている。グラウザム家当主に愚息と私の首で許して下さるか……」
「私も同じだ。その所為で妹から一族の縁を一方的に切らてしまった。我が一族内も今も揉めている。殿下が正しい派と姪が正しい派で話し合いと言う名の時間稼ぎをさせているが冤罪が公に回るのは時間の問題だ。そうなれば一族の刑になるだろう」
「……一族で集まるのは構わないが外には漏らして無いだろうな?漏らして困るのは其方等の一族だから話は漏れないだろうが周りには気をつけるんだ」
煌びやかな男性は周りの話し合いを見て小さく溜息をまた吐く。
「さて、どうしたものやら」
煌びやかな男性のその言葉を聞いた周りはまた話を再開する。
「ならば冤罪を公に出さないまま罪にしたとして、グラウザム家当主がそれを許すか?」
「許さないだろう。帝国と組んで反旗を翻したらこの国が堕ちるのは時間の問題だ。ならば彼を早めに暗殺でもするのか?ワシは嫌だぞ?」
「私も嫌ですね」
「私もだ」
「私もだぞ。ならどうする?」
「私達は大丈夫ですが身内が関わった宰相は一族内で突発的にグラウザム家当主に害をなさない為に真相を隠して一族の者に
話し合いをさせているのでしょう?」
「……むっ。確かにそうだ。グラウザム家が冤罪を公に出した場合は私の一族は破滅だ。ならばグラウザムに不幸に合わせる事を考える者も出てくるだろう。だが失敗したらこの国が我が一族の所為で滅んだ事になるのだぞ?」
「仮にグラウザム家が冤罪を公に出して気が済むと誰が思う?帝国と組んで更に仕返しするかもしれんぞ?」
「やられたらやり返すか……」
「……3倍返しか⁉︎」
「非道だぞグラウザムよ!其方のパトリオットは何処へ行った!!」
「ワシには愛国心はしかとある。其方等がやらぬならワシが……」
「コンラッド様⁉︎なら私だって!」
「何を言う!私も騎士として!」
「国の為なら義理の弟だろうと!」
「……皆様!なら私もやりますよ!」
「「どうぞどうぞ!」」
「え⁉︎」
満場一致で気の小さそうな男性に決定した。
「ふむ、レントンがわし等の代わりにやってくれるとは円卓の末端とは言え、其方を誇りに思うぞ!」
「そうだな!思う存分頑張れ!そして、後は任せろよ!」
「レントン……。君の犠牲は無駄にはしないぞ」
「既に私の死が皆様の中で確定しているのですけど⁉︎陛下、助けて下さい!」
そのやり取りを見て陛下は溜息をまた吐く。
「陛下、溜息ばかりではなく、何か良い案をお願いします。正直、この件は殿下の過ちでもありますぞ?」
「公の場では無いとは言え、口が過ぎるぞレントン」
「構わんよ騎士団長よ。レントンの言う通りだ。父上も場を引っ掻き回さないで欲しい。深刻なお話が貴方がいると軽くなる」
「そう言うではない。既に事は終わっておる。問題も既に解決している。その事が問題で集まったのだろう?ならば悲観に浸らずにどう事を捉え変化させるか考えるかだろう?ならば王である其方がどっしりと構えずして誰が構える?」
「そうだが今回ばかりはどう動けば良いか解らぬ」
「其方には家臣を守る義務がある。ならばやる事は今後の憂いを断つ事だ。家臣を守る事は家臣の民を守る事に繋がる。それが国を守る事に繋がる」
「仮に成功したとしてもそれは民の反乱が必ず起こるだろう。鎮圧は簡単だが国が混乱すれば隙ができる。守るはずの民に国は滅ぼされる。父上、民の一部では今回の騒動を知っている。その状況で彼の死は民に疑心を与えるだけだ」
「そう言えば、あの子は孤児院に通っておったのぅ。使用人達が何度も孤児院に行かせない様にしても無駄だったらしいな。帰ってきたあの子は嬉しそうにワシに孤児院の子供たちの話を良く話していた。孫の良き嫁になると思っていたがもう無理か」
「父上はあの子の事を気に入っていたな。それに富豪層の老人達とも仲が良く、今回の騒動を知っているだろうな。貴族のほとんどが愚息についたがあの子は平民を味方につけていた様だ」
「……恋は身を滅ぼすか。恐ろしいな。団長よ、私達も覚悟を決めなくてはならぬな。陛下よ、息子と私の命だけではやはり、足りぬか?」
「宰相よ、私はウィリアムの事を信用してる。家臣としても信用しているが彼と私は幼い頃からの友だ。理由や言葉に出来ないが彼は反乱など起こさぬ。……私の代ではな。彼と密に話し合い、騒動の者の刑罰を考える。また後実……に……」
急に固まる陛下に周りも固まる。空気を読まずにレントンが陛下に尋ねる。
「……陛下?どうなさいました?」
良く見ると陛下の顔に冷や汗が流れている。何かがあった雰囲気に周りも呑まれる。
するとバァン!と大きな音がなり、ドアが開く。
一斉に振り向くだ誰もが息を呑む。
そこに居たのは話の渦中のグラウザム家当主自身だった。
赤い髪が逆立ち、吊り上がった眼は見るモノを凍てつかせる位の殺気。そして、彼の周りには蜃気楼の様に周りが歪んで見える。ドアを開いた瞬間から熱気が凄く、中に居る者は汗がダラダラと流れる。それが暑さなのかは分からない。
「……陛下よ、お伝えがあるので参上した。取り付け無しの登場の非礼は詫びる。話しても良いか?」
陛下はコクコクと縮こまりながら頷く。
「この度の件は私からは何もせぬ。そして、事の露見がない限り、私の娘の冤罪はそのままで良い。但し、今回はそちらに非がある。僻地の領主認定の証明書やその他諸々、我が娘に有利になる様に陛下のお言葉を添えて頂きたい。それ位は構わんよな?」
再度、陛下はコクコクと縮こまりながら頷く。
「それと少し、私は領地へ戻る。何かあったら私の父上が対応する」
「……ほぅ、領地へ戻るのか?そして、わし等をどうする?」
その言葉にグラウザム家当主は溜息をつく。
「先王よ、貴方達は何も見えておらぬ。何故、子供達が我々の監視を掻い潜り事を起こした?背後に誰が付いていたか理解出来ぬか?この出来事で利益を得るのは其方達の子供に見える。だが、今其方達が頭を悩ませているのは何の対応だ?それすらも解らぬ程王都に住む貴族は日和っているのか?既に相手の戦略にハマっているぞ?」
「そうか!子供達の協力者が帝国か西の国の者と言う可能性がある。レントンよ、其方は男爵令の身の回りの調査を頼む。協力者を捕まえよ」
「……では行く」
「ま、待ってくれ!」
陛下はグラウザム家当主が去ろうとすると止める。
何でしょうと不機嫌そうに口にする彼に陛下は口を開く。
「申し訳なかった。これは友としての言葉だ。王として公の場で其方に伝えれず、其方と再度会おうとする前にすぐに帰ってしまった。だからーー」
「陛下よ、それ以上の言葉は要らぬ。公では無いとは言え、家臣に友としてでも頭を下げるのは感心せん。それに貴方達は勘違いしている」
グラウザム家当主の言葉に陛下は勿論、周りも彼の言葉に首を傾げる。
「我が娘は殿下や周りの厄介事を知っていた。娘は言った。物事を全て正す事は不可能で正しい様に見えても間違っている事は幾つも在る。後になり冷静になれば娘の言葉の意味も理解出来る。確かに今思えば幾つも不可解な点はある。私も含め貴方達も私の娘と物事の背後の存在にただ出し抜かれただけの話だ。当事者である娘は背後の存在に気づいていた。自らを犠牲にする事で事を収めた。今回の騒動はそれだけだ。ならば、娘の後始末を付けるのは親である私だろう?」
グラウザム家当主の言葉に陛下も周りもただ口をあけ唖然とする。
「娘の言葉だ。守ったのは国益と国に必要な人材だとな。ならば、ここからは大人の役目だ。私は思わぬが娘は殿下も取り巻きも含め、更生の余地があると言った。処刑や廃嫡をせずに其方達は私が納得の行く処罰を考え実行せよとな。我が娘ながら簡単に一番難しい事を言う。そうは思わないか?」
騎士団長と宰相は何とも言えない表情を作る。
「陛下、それと娘の破門に教会のナンバー2が絡んでいる。教会のゴタゴタを貴族が突っ込むのまずい。帝国と西は私に任せておけ、陛下は教会は任せる。其方達はこの件が公に出た時の為に覚悟しておけ。ゲドゥルド伯爵から息子のアランが娘の護衛をしたいと声が掛かった。彼の息子はあの地を任せる事が出来る位に優秀だ。少しのヒントで彼奴なら冤罪の全貌を明らかにする可能性がある。旅路で何か起こらない事を祈っておけ」
「……分かった。息子の仕出かした事で其方には迷惑をかけた。すまなかった。妹にも伝えてくれ」
「グラウザム家当主よ、私からも息子の仕出かした事を謝らせて欲しい。すまなかった」
「謝罪は受けよう。だがやった事も時も戻らぬ。其方達の息子達はずっと背負って生きていかなければならない。私達に罪の意識があるのなら行動で示せ」
2人は頷く。陛下はやり取りを見て安堵の表情を一瞬浮かべるがまた気を引き締める。
「しかし、ウィリアムよ。あの子は大丈夫だろうか?僻地にはドラゴンも住む。あの英雄でさえ、ドラゴンとは戦わずして逃げたと聞く」
「娘に1人だけ付き人が付いている。その付き人だが賢いが頭が回らずバカだが私よりも戦いに関しては強い。何せ、ドラゴン相手に戦い負けたものの生きて帰ってきた化け物だからな。それに陛下よ、娘をこの国から失った事を今後、必ず後悔するだろう」
ウィリアムより強くドラゴンと戦う奴が居るのかと陛下や周りも動揺する。だが言葉の最後で何かを含む様にウィリアムは話すので陛下はつい聞いてしまった。
「……どういう意味だ?」
「言葉の通りだ。見ているがいい。陛下、それに私は昔も今も変わらぬ。ただ、守るモノを守るだけだ」
陛下は少し嬉しそうにそうかと呟く。
「先王よ、所でココで何の話し合いをしていた?」
その言葉に陛下以外がギョッとする。
「えっとな、そのな、愛国心の比べ合いからのレントンが特攻しようかしないかのぉ?は、話していたのじゃよ」
「売られた⁉︎グラウザム様!私は嵌められたのです!言葉のアヤです!申し訳ありません!」
ウィリアムは溜息をつく言葉にする。
「その様なつまらぬ事を話す前にやる事は沢山あるだろう?これからこき使ってやるから働け」
「ひぃ⁉︎は、働かせて戴きます!」
レントンの悲痛な声が大きく木霊した。
※シュアは背後で何か起こっていたか知りません!
お父様の溺愛からの深読みです(笑)