22.伯爵令嬢と長とドワーフの里
お待たせしました!
今月は人が足りずにお仕事ばかりで中々書けないです。
内容は決まってはいるのですが言葉選びは時間がある時にと考えてますので遅れました。
書く為に休みが欲しいです。
「は、はい。宜しくお願いします。シュアと申します」
言葉が通じる事に一先ず安心しましたが想像していた感じと違うのでドワーフ族の印象に戸惑ってしまいます。
私の心情は知らずにカイトと名乗ったドワーフ族の長は軽快に話し続けます。
「まぁ、街を造るんはええんやけどな。ワシ達がどれだけの高い技術の物作りが出来るか見た方が早いやろ?やからな、ここに来る途中ずっと考えたんやけどお嬢ちゃん達を一度ワシ達の里へ招待したるわ。それが一番ええやろ?お嬢ちゃん、ワシも人族に会うのは初めてやからお互い気楽に行こうな!」
昔読んだ本に登場したドワーフ族は頑固者の印象でしたがお会いして一気に崩れてしまいましたね。
フレンドリーなカイトさんに私は戸惑いを隠して愛想笑いで応えます。
しかし、私の気持ちを代弁するかの様にすごく残念そうな表情アイシャはチラッと私に視線を送って言葉にします。
「お嬢様、ドワーフって偏屈者で頑固者のイメージでしたがガラッと印象が変わりました」
本人を目の前に悪びれもなくが口にするアイシャに私はジト目で睨みます。
そんな私達を横にカイトさんは大笑いをし始めました。
「偏屈者で頑固者のイメージか。ハッハッ、確かにワシ達の本質はその通りやで!ドワーフ族はモノ作りに置いては同じ種族同士でも拘ってはお互いに衝突や喧嘩ばかりやからな。普段はこんな感じやけど、自分達の手で作り出すモノに関してはどんなモノでも妥協せーへんし、譲れんもんがあるんや。せやから、お嬢ちゃん達のイメージ通りやで。街づくりも作るからには全力で拘らせて貰うで!」
豪快に笑う姿に私もつられて笑顔になります。
「ええ笑顔やな!ええ笑顔する奴に悪い奴はおらへん!ほな行こーか!ドワーフの里に招待や!」
ドワーフ族の印象は違いましたが人柄も大らかなで悪い方ではないです。
私も控えめにカイトさんの真似でおーと掛け声と共に腕を突き出し笑います。
『ふむ、話が纏まったようだな。カイトよ、我の客人のもてなしを宜しく頼む』
レヒト様から声をかけられ、おぅ!っと応えたカイトさんは先程のドラゴンの目の前まで近づいきますので私もアイシャも一緒について行きます。
目の前に立つとゴ○ラに似たドラゴンが前かがみになり、手を差し出します。
『お乗りなさい』
そして、頭上から綺麗なソプラノの声が響きました。
……ゴ○ラに似たドラゴンも喋れました。
しかも、綺麗な声質でびっくりです。
「クリムちゃん、ありがとうな!レヒト様の客人をドワーフ自慢の里に招待するんで連れてってな!」
そう声をかけるとクリムさんの手の平が私達の前に近づくとカイトさんはぴょんと乗りますので私達も同じ様に飛び乗ります。
「し、失礼します」
アイシャも乗ると見ているものが揺らぎ高くなります。
レヒト様の正面位の高さまで上がると安定して、指の間から下を見るとガーネはグルルと唸り私達を見上げてました。
どうやらガーネは見送りのようです。
クリムさんは私達を手の平に乗せて走り出します。
思っていたより揺れもなく安定した動きに少し感動します。
「お嬢ちゃん達はずっとこの地にいるんか?」
カイトさんは景色を見ずに座って私とアイシャの姿を見ながら話しかけます。
指の間から動く風景に見惚れてましたが声をかけられたので私は見るのをやめて、カイトさんの横にちょこんと座ります。
「はい、そのつもりでこの地に来ました。ですからドワーフ族の方々とも末長く仲良く出来たらと思います」
そう答えますとふむと唸り、難しい表情をします。
「そーか、数百年前もこの地に来て、人族同士が激しく争って消えたと昔の話で聞いたんや。その当時の事はもうワシ達は分からんが人族は同族とも簡単に争うもんな。お嬢ちゃんとは仲良く出来るやろうけど人族と関わるなら、その後の事を長として考えなあかんからな」
長としての言葉を強調するカイトさんの言い分は分かります。
確かに英雄はこの地で帝国との戦争をしていました。それを止めたのが山よりも大きなドラゴンと伝承がありますがそれはリヒト様の事でしょう。
その昔、大戦時代が終わって大地の女神を信仰していた異種族は姿を消していきました。
絶滅したと言う者も居れば、また始まる大戦に備えて力を蓄えていると唱える者も居ます。
現に魔族とは遠い地の人族と魔族が争っています。
平和に暮らしているのに争いの火種となるかもしれない種族との接触は不安になるのも仕方ありません。
「カイトさんの言いたい事は十分承知です。私達でも同じ思いですから。ですから、綺麗事になりますが私も領主として、ドワーフ族と共に平和に過ごせる領地を作りたいと思います。ですから、まずは始める事からやりましょう」
私の想いを伝えるとカイトさんはまたニカッと笑います。
「せやな。確かにやらにゃ始まらんわな!それにリヒト様の庇護下にあるワシ達をどうにかしようとしたら国一つ簡単にリヒト様なら滅ぼしてしまうやろうし、余計な心配やったわ!」
……そうでした。
逆に私の方が心配になってきました。
あっけらかんに話すカイトさんの言葉にリヒト様の存在を思い出しました。
今後の課題で民を纏めなきゃみんなで一緒に滅びてしまいます。
本当に対策を練って異種族の平和を守らなければ人族の危機です。頑張らねばなりません!
会話が無くなり到着するまで私はまた指の間から流れる風景を見て、楽しみました。
休まずに走り続けたクリムさんが一際目立つ大木の前で止まりました。
クリムさんはゆっくりと私達を気遣って降ろしてくれます。地面に近づいてカイトさんが飛び降りますので私達も続きます。
そして、着地した私達にカイトさんはようこそと大声をあげ、両手を広げてニカッと笑います。
「ここがドワーフの里や!」
目立つ大木しかありませんがどこに里があるのでしょう?
私が不思議そうにしていますとカイトさんは私の姿に満足な表情を浮かべます。
「ここが入り口で実は下に里があるんや!ほな、ドワーフの里に行くで!」
そう語るカイトさんと共に大木の根元に近づいていきます。私達も近づくと根っこの隙間に大きな穴があります。
その中に入ると広い空間が広がっていて少し離れた場所に不自然に大きなドアがありました。
カイトさんがドアの前に立つとドアが自動で開きます。
目の前で開いた空間を見て、この世界にあるはずの無いモノに私はびっくりします。
……これってもしかして。
「……エレベーターですか?」
ポツリと思った事を漏らすとカイトさんは目を見開きます。
「何故その名称を知って……そういやリヒト様の客人やったな。驚かす予定が驚かされるとは思わんかったわい。お嬢ちゃんは知っている様やから話すけどな、自慢したかったのがこのカラクリ箱の事や。これがワシ達の技術の結晶なんや。リヒト様から聞いた物をワシ達は長い年月をかけて考え失敗しながら創り出したんやで。けどな、正直聞いただけじゃ原理が分からん奴も多いからな、リヒト様から聞いた物を再現出来たのも一握りやわ」
残念そうに話すカイトさんに私はふと頭の中に過ぎったのでアイシャに聞きます。
「アイシャなら大抵の原理なら知識では分かるでしょ?」
アイシャは考える素振りを見せて、自信無さそうにハイと答えます。
「分かりますが理解出来ないですし私では作ることは無理ですよ?原理や造る情報を提供するのなら出来ますが相手が私と同じく理解出来ないなら、やはり創り出すのは無理だと思いますよ」
アイシャが持っている宝の持ち腐れ知識も活用出来るかと思いましたが難しいようです。
「……お嬢様、今失礼な事を考えませんでしたか?」
ジト目で見てくるアイシャに微笑み返して誤魔化します。
中に入ってガタンと下がって行くのカラクリ箱の中で待っている間、カイトさんは難しい顔で何か考えているみたいです。
カイトさんには声をかけずにカラクリ箱の中で目的の階へ到着するのを待ちます。
ガタンとまた揺れると止まり、目の前のドアが開きます。
地下なので暗いかと予想してましたが壁から光が漏れており、視界は明るいです。状況を確認する為に周りを見渡すとココは洞窟っぽい場所でした。
下を見ると綺麗に地面の歩く場所も整っています。
カイトさんは先程の険しい表情が嘘のように笑顔に変わり、こっちこっちと歩き出し洞窟の先を進みます。
私たちは急かされるようについて行き、洞窟の終わりで目の前の光景に私は声を失いました。
洞窟を抜けるとそこには壮大な広さの空洞の中に沢山の家が並んでます。
上を見上げれば大きな光があり、地下にも太陽があると錯覚してしまいそうな程の明るさです。
街並みも綺麗ですが緑も多くあり、ここが地下と言う事を忘れてしまいそうです。
微かな風に誘われて美味しそうな食事の支度の匂いが私の鼻を刺激します。
五感で感じるドワーフの里に私はただ魅入ってしまいました。
まるで気分はおとぎの世界に迷い込んだ感じです。
「どうやら、お嬢ちゃんは気に入ってくれたようやな。ここがドワーフの里や。この空間全てがワシ達ドワーフ族の技術で作られておる。人族を招待したのはお嬢ちゃんが初めてやで」
今度は嬉しそうにカイトさんは話しかけてきます。
「はい、素晴らしい街並みです。幻想的で素敵な里ですね!」
私は感極まって目の前の風景を見続けてしまいます。ドワーフの里を眺めながらカイトさんに反応します。
その私の反応に喜んだカイトさんは更に嬉しそうに笑顔を見せます。
「んじゃ、まずはわしの家に招待するで!市場も炭鉱もこの街全てを紹介したいんやけどな、初めに家の中の造りも見て欲しいんや。家にはワシの幼い娘が騒がしかもしれんが許してな」
ドワーフ族の子供⁉︎
それは早く見に行かなくてはなりませんね!
私はカイトさんの言葉に行きましょうとすぐに答えるとカイトさんはきょとんとします。
「なんや?急に何かのスイッチ入ったな?どうしたん?」
カイトさんが不思議そうにしているとアイシャがフォローをいれてくれました。
「これは幼いと娘と言う言葉に反応したお嬢様のいつも通りです。出来れば暖かく見守ってください」
その単語だと私は怪しい人みたいではないですか。
いやですわね。
しかし、ドワーフっ子が見れる今の私は気にしませんよ。
アイシャはジト目と溜息をつけてカイトさんに伝えるとそうかと苦笑いをされてしまいました。余計なお世話です。
気を取り直して、こっちやと声をかけるカイトさんに従って歩き出し、家へと案内しようとした時でした。
「おいちゃんのアホー!!もう知らん!」
遠くから可愛らしい声が聞こえます。下を見ると小さい人影が走っていくのが見えます。
私は目で追おうとしましたが素早く見失いました。
横でカイトさんは溜息を吐きます。
「なんや、またゲンとツルギの喧嘩か。変な所見せてすまんな、お嬢ちゃん」
申し訳無さそうにするカイトさんに対して大丈夫ですよと伝えます。
気を取り直してカイトさんは声のした方に歩き出します。
街に入り少し歩くと目立つように1人のドワーフが立っていました。
険しい表情で雰囲気も怖いです。
私達を睨む様に見つめると会釈してきます。
「ゲンよ、またツルギと喧嘩か?ほどほどにしときいな」
ゲンと呼ばれたドワーフは気まずそうに頷きます。
「……あぁ、そうやな。すまんな」
そう彼は話すと探しに行くとカイトさんに伝え、また頭を下げて、この場所から離れました。
「気を取り直して、ほな行こーか!」
カイトさんの言葉でまた私達は歩き出しました。
お家に着くまでの徒歩で街並みを見ましたがどの家もベースは同じ作りです。しかし、よく見るとそれぞれに個性があります。
話を聞くとドワーフ族は自分の家を建てて一人前のドワーフ族と認められるそうです。
家だけではないそうですが長を選ぶのは生活する家の評価で最終的に決めるらしいです。
長をその様な決め方をして遺恨が残ったりするのではと思いましたがカイトさん曰く、一流の職人なら相手の技量を認め、その相手よりも更に高みを目指すそうです。
ドワーフ同士で妬む事はやはりありますが自分の技量がない事を認めているのと一緒なので負けん気として自分の中で折り合いをつけて自分の糧にしなければ、仲間内に未熟や恥として残るとカイトさんは語りました。
リヒト様の話の通り職人気質の種族です。
見た目の明るさや会話の軽さと対峙した時の話しやすさでそう見えませんが語る時に職人としての表情を見せたり、言葉に重みがあったりと掴み所が難しい種族であります。
だからこそ、見た目と本質に惑わされず、交渉の場で上手く進行を動かさなければ呑まれてしまいますね。
帝国や西の国や自国の貴族なら相手の欲や考えは掴みやすいですがドワーフ族がどこに利を求めているのか判断するのが難しいです。
街並みを見る限り、民同士に貧富の差は余り無いように見えます。
カイトさんの身に付けている服装も動きやすさを重視したデザインで豪華や贅沢と言うより技術や機能性で選ばれています。
ならば、金品の取引を重点に置いてしまうと互いに損が生じる恐れがありますね。
技術の紹介から入ったのはドワーフ族の職人としてのプライドと人族から見下されない為です。
彼等の今の印象は領主の真似をして街を作ろうとしているけど困っているただのお嬢ちゃんでしかないです。
かわいそうだから手伝ってあげよう程度の認識だと思います。
それにリヒト様のお願いだからドワーフ族はこの話に乗ってくれました。
私が横暴な要求をしても正当な対価を支払わなくても彼らはきっとリヒト様のお願いだから街を作ってくれるでしょう。
その場合は何も言わずに職人として最低限の街を完成させて、今回限りの付き合いになります。
せっかく舞い込んできたチャンスを逃しませんよ。
リヒト様に戴いた機会を次に繋げる為にはまだドワーフ族に対して私の価値を示してません。私と関わる事で利点が出来る事を提示する事が今回の交渉の要です。
どうやって次に繋がる交渉をしましょうかね。
お母様は以前言っていました。
女性の武器は決して色仕掛けでも武力でも他人の醜悪を晒し出す事でもありませんと。
色気も武力も悪意も上手く使わなければ時として、自分を苦しめる結果になる事もあります。
それよりも誰にでも簡単に使える武器があります。
目の前にある情報全てが武器であり、有利に立つ方法でもあります。
状況を上手く操る事で場を掌握し、場を支配した事でこちらの有利に進める。お互いに利益を出す事により、初めて他者に自分を認めさせます。
そして、本来ならば公の場や交渉の場に女性だと侮られたり舐められる事も多い為、普通ならば男性が行います。
しかし、女性である事は不利ばかりではありません。
寧ろ、欺く為の隠れ蓑になります。
お母様は社交場以外に公の場でも男性貴族と対等に渡り合えてます。寧ろ、お母様と対等に渡り合える貴族の方が少ないです。
不利なモノを利用するからこそ相手は隙が生まれつけ入れるチャンスになります。
私も小さい頃は子供であるからこそ、交渉する時は交渉相手が大人の見栄を張る状況を作り出して利用しました。
だけど、カイトさんは言葉の端々に私を見極める為に試す言葉や私の考えを晒し出す言葉を何気ない会話に挟んできます。
初めは下に見られて居るのかと思いましたが子供扱いに女性扱いをしているのは交渉の場でそれを利用させない為でしょう。
長であるカイトさんと対等な状況で利用したら、私は領主として認められず対等ではなくなります。
ここに来るまでにお互いに何かを掴んでいると思います。
しかし、カイトさんからは油断出来ないお嬢ちゃん位にしか思われないでしょうね。
交渉は職人気質のドワーフ族に対して金品の提案ではなく、作ったモノを評価した支払いの方が纏まると想定できます。
しかし、どの位を出せばドワーフ族は満足します?
不満が生まれません?
この場合は商売をする時の方法を活用しましょう。
商売をする時において売り手6割と買い手4割の利益が理想です。
お互いに得をしている様に見えても売り手が利益を出さなければ今後も提供出来ません。
ですから買い手に対して4割のモノを6割の満足にあげるのは売り手の会話力とサービスです。
金品では無いドワーフ族の利益は何でしょう?
この方法なら私が買い手側でありますがドワーフ族は自分達の価値を見せてて私を試しています。
ならば、主導権を握らせてもらっているのだから堂々と私が6割に彼らが4割の利益で話を進めます。
しかし、これは目に見える利益の提案での話です。
金品で関係を築けるとは思っていないからこそ採用した方法です。その金品以外にサービスで彼らの満足度と利益を6割にしなければならないです。
交渉の場までに情報を収集して、互いの利益を得る為の提案を考えて纏めなければなりませんね。
「どうしたんや?そんな表情を出してもうて」
隣を歩くカイトさんが声をかけてきて、考え込んでいた事に気がつきました。
「いえ、これから会うカイトさんの娘さんがどれ位愛らしいのか考えてました」
まだ始まってない交渉の事を言っても仕方ないので私は話を逸らします。
カイトさんは表情を和らげてふむと頷きます。
「ウチの娘はうるさいけど愛嬌あんで。楽しみにしとき!だから、そんな焦らんでもええ。難しい顔は後へ取っておきな。まだ交渉の場では無いで。やから今は互いに長として接する必要は無いで」
カイトさんは優しく笑いかけてくれました。
どうやら、読まれていた様で気を遣われてしまいました。
カイトさんはそんなに不安ならと前置きをつけて話します。
「ドワーフ族の戒めの話で子供の頃に聞かされる“強欲者のガガ爺“と言うのがあるや。ドワーフ族が交渉の時に思い出す話やが聞くか?」
私はゆっくりと首を横に振ります。
「その話の内容はきっと相手の損を考えずに自分の利だけを求めて大損したのでしょう?」
またカイトさんはニカッと笑います。
「なんや、心配いらんな。その通りやで。そのガガ爺は長に成りたくてな、ええもんを揃えようと木材の素材の取引で欲出して、やからしてもうてな。長にもなれずに全てを失ったと言う話や」
「どこの種族も強欲過ぎる人の末路は同じですね」
私は私を王都から追い出した人たちの事が一瞬過ぎりましたがすぐに考えを止めます。
「やな。せやからワシ達ドワーフは自分で損をする方がマシと言う考えを持つ者の方が多いんや。炭鉱も掘る場所を互いに譲り合っているんやで。この里にいる仲間内なら周りの目もあるし欲に眩む事は余りないからな」
うんうんと頷くカイトさんに私は笑顔を張り付けて話します。
「その話で一つ気になる事がありますがその交渉相手は何処の種族ですか?市場もあると聞きましたので商売の失敗談とも捉えれますが話を聞く限り仲間内でのトラブルではないですよね?身内でやると話がすぐに出回るリスクしかありません。ならば別の異種族との交流もあるのですか?」
私が聞くとカイトさんはニヤリと口元を上げます。
「なるほどな、それがお嬢ちゃんの強みか。侮れへんな。せやで。ドワーフ族はモノ作りは何でも出来るけどな、材料は買い取ってるもんも多い。その話はまた後でな。ワシの家に着いたんでな」
そうカイトさんは話を終わらせます。
他にもリヒト様は庇護下に置いているみたいですね。
カイトさんに連れられてお家の中に入るとダダッと足音が近づいてきます。
そして、小さな子供が中に入ろうとした私を指差して大声を出します。
「と、父ちゃんが新しい母ちゃん連れて来た!」
……何ですと⁉︎
私は呆気に取られてしまいます。
「怖い母ちゃんよりいつも森の民みたいな綺麗な女が欲しい父ちゃん言っていたもんな!でも森の民っぽくないな!めっちゃ可愛いやん!あんたがウチの母ちゃんになるんか?」
足元に来てドタバタするちびっ子に私はニヤニヤしてしまいます。
……お母さんですか。
良い響きですね。
「当たりやな!いつも怒ってばかりの鬼母ちゃんより、ニコニコ笑顔の優しい母ちゃんが欲しかってん!父ちゃんナイスや!」
ニカッと笑い親指を立てるちびっ子にカイトさんはあたふたして首を横に思いっきり振ります。
「これアカン奴や!母ちゃんに知られたらワシが殺される奴やん!違うで!ウチの母ちゃんが一番何や!せやかて、たまには愚痴でホラ吹く事あるやろ?やから、リンは向こうへ行こうな?お客さんやからな?お嬢ちゃんも何まんざらでも無い表情浮かべてんねん!リンが勘違いしてしまうやろ⁉︎よし!話し合おう!なぁ!話し合おうな!」
私にカイトさんは言い訳をしますが出遅れのようです。
背後に迫ってくる人に気付づいてないです。
「あんたらは客人の前でしかもドアを開けたままで何バカやっとんや!」
カイトさんとちびっ子に痛そうなゲンコツが落ちて2人は唸りながら頭を抑えて、しゃがみ込みました。
2人に睨みを利かしているのが話に出たカイトさんの奥さんでしょう。
先程までのカイトさんが台無しです。
その姿を見てアイシャがポツリ呟きます。
「……ダメだこりゃ」
 




