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伯爵令嬢は僻地で子供達と戯れたい!  作者: イブ
1章 ドラゴンを従える伯爵令嬢
22/26

20.悪の親玉伯爵夫人と男爵令嬢のお花畑劇場(完)

遅くなりました!

思ったより多くなりましたが伯爵婦人のお話です!

次回予告です。25話目はみんな大好き王子様です!

宜しくお願いします!


「君が好きだと言わなきゃ始まらない!」

と言う短編を書きながら文章の練習してしました。

いつもみたいに数時間で書いたものでは無く時間をかけたモノなので少しは文章も良くなったかな?と思います。


お待たせしましたのでそれも投稿します!

「失礼します。奥様そろそろお時間でございます。本日も招待状が7通と手紙が5通届いてますがどう致しましょうか?」



……ふぅ、もうそんな時間が経っているのね。

時間を忘れて長い時間ずっと執務に集中していた私に使用人が休憩時間の知らせも兼ねて手紙を持って来てきました。



「……そう、そこに置いて頂戴」



手紙をチラリと見ると溜息が自然と漏れしまうわ。


公の場や社交場も出席を全て断り続けているのだけど、この半年間お誘いの手紙が減るどころが毎日の様に個人のお茶会からパーティーの誘いまで沢山の招待状が届く状態になり、うんざりしてしています。




「奥様、その手紙の中に気になる家名を見ました」



そう言われ私は横目で視線を向けて、纏った手紙を見やすい様に広げると思わず声を漏らし、笑みが溢れてしまう。

使用人の言いたい事が良く分かったわ。



「……クラーゲン家ね。息抜きで久々に社交場に出るのも悪くないわ。執務ばかりで飽きていたのよ。この手紙には行く返答をお願い。他はいつも通りに断りを入れといて頂戴」



畏まりましたと頷く使用人の姿をみて、ここ最近ずっと胸に引っかかっている言葉を思い出させる。



『奥様、一つご忠告しておきます。忠義より勝るモノがあります。それは愛です。何故なら理屈ではないのです。故にお嬢様は必ず裏切られるでしょう』



何の前触れもなく、娘の専属従者から突然言われた警告を含めた言葉だった。

初めは何の冗談かと思っていたわ。

だけど、それ以上語らなかった言葉の意図をちゃんと理解していたら、きっと結果は違ったはずね。



ウィルが気まぐれに拾った他所者と認識していたけど、あの夜の出来事を境に私は認識をひっくり返す事になった。


……人はあそこまで残忍になれるモノと初めて知ったわ。


あの時の事はもう思い出したくないわね。

守る為だと理解しても異常だったと今でも考えている。


その様な危険な使用人を王族に嫁ぐ娘の専属にすると言い始めたウィルの言葉に耳を疑ったわ。

しかし、どれだけ不適切だと忠告しましたが当主として決定を下してしまった以上覆す事は出来なかった。


娘もその従者だけは心を許していたのが不思議でした。



「……ねぇ、貴方はアイシャと言う従者の事を知っているわよね?娘について行った彼女の事が知りたいわ。教えてくれるかしら?」



使用人は頷くと予想通りに私の知っている情報を答えてくれたが私が知りたい事は違うので聞き方を変え核心に迫る。



「言い方が悪かったわ。ドローミに所属していたアイシャとはどの様な人物かしら?」



私の言葉に使用人は首を横に振り、申し訳御座いませんと一言添えて話しだす。



「奥様でもグラウザム家に仕える暗部の内情を伝える事は出来ません」



やはり、教えてはくれないわね。

グラウザム家に仕える暗部の者たちは優秀だけど私の思うように動かせないのが難点ね。

使用人の中にも暗部の者たちは隠れており、娘専属の従者も見た目で騙されてしまったわ。

アイシャもグラウザム家の暗部出身の者と知ったのは最近だ。

情報が硬すぎて知ったのは娘と供に僻地へ向かってからだった。



「……もう下がっていいわ」



淡々と部屋から出て行く使用人に私は溜息を吐く。

グラウザム家の使用人たちも家臣でさえ、情報を掴めない者が多くいる。

忠義を尽くしているからと言って他所から嫁いだ私には信用するのが難しい。


今下がった使用人はザック・スカーレットと言い、本来はウィル専用の従者だ。

彼が暗部ドローミの隊長だと調べる事は出来たがそれ以上の情報を得られなかった。

領地に戻ったウィルについて行かずに残ったのは監視の為だと考えている。

暗部はグラウザム家を護る為に動いているので場合によってはウィルも知らない行動も多い様だ。



「セントー、インは居るかしら?」



私が呼ぶと背後に気配が現れます。



「セントレアとインフィルは此処に」



スッと現れた2人は私の実家に尽くしているショッカーズ家の者であり、私に忠誠を誓っている。

2人はヴァイスハイト家の実力ある暗部部隊の黒い影に属していた程の優秀な従者だ。


自国ジゴクの軍団ではヴァイスハイト家が最大規模の数を誇っている。

武力に特化しているグラウザム家と知略に特化しているゲドゥルド家にも劣らない優秀な者たちを集めてショッカーズ家が纏めている。



「ザックの動向を探って頂戴。それと一週間後のクラーゲン家の舞踏会に参加するわ。情報収集をお願いするわ」



「「御意」」



スッと消えた後、ゆっくりと目を閉じて寛ぐ。

書いても書いても終わらない執務にもう飽きてきたわ。


王妃候補故に公の場に参加出来なかった娘と今年からは一緒に社交場へ出れるねと共に喜んでいた。

なのにその思いは裏切られてしまい、娘は貶められて私の手元から離れてしまった。


……本当なら娘と行きたかったわ。



私の娘は秀才だ。


子供でありながら大人びた言動と考えを持ち、自分の芯をしっかりと持っている。

貴族なら求められて当たり前だが始めから持ち合わせるのは異例であるわ。


必ず何処かしらに子供らしさや違和感を感じるのだが娘にはそれが無かったの。大人達と立ち回れる子供は少なくは無いわ。


しかし、大人たちと対等に交渉の場を作るだけではなく、他者に違和感を持たせずに自分の思い通りに動かす事の出来る子供は私の娘以外では見た事が無いわ。


天才と愚か者は紙一重と言うが娘もそのタイプね。

そう思わせる出来事は何度もあったわ。



私の娘は何故か子供に対して異常な執着心を持っている。



初めは同世代の子供たちを守りたいだけかと思っていたけど、接し方の違いでその事に気が付いたの。


自身もまだ幼いのに自領にある孤児院の概念や運営のやり方やルールを変えて、子供たちの環境を整えたばかりか周りの関係者や経営する側も赤字を黒字に変えたのは私も驚きを隠せなかったのを覚えている。


グラウザム領は戦争の被害で特に子供たちや独り身の女性が多い領地である。



以前までは戦争で領地を潤わせていたのだけど、娘の発想で仕事に溢れた女性たちに子供を保護させる過程でお金を発生させる事にした。そうする事により生み出した金回りを利用して商売に繋げて領地に利益を循環させた。


しかも、子供たちもただ守られるだけではなく、領地に役立つ役割を与える事で犯罪に走らずに領地内の警備たちと連携を取り、見知らぬ余所者の居場所や行動を把握して、グラウザム領の安全も確保出来たわ。


子供たちは記憶力が良く、独自のコミュニティがあり、その繋がりを利用してからは不審な帝国民や他領の罪人などすぐに見つかった。


子供たちは正義感や娘への恩を感じて真っ直ぐな子が多く、それが仇となる事は多かったわ。

心配した娘の勧めで騎士以外に民間の警備も強化したら子供たちが悲惨な目に遭うのは少なくなったわね。


失敗を重ねると男の子は次第に強さを求め、女の子は周りの情報を求め、自身の安全やグループ内の相互性を高め、グラウザム領の為にと今では自主的に自分の出来る事を考えて動くようになっている。


娘のやりたい事を動かさせた結果が武力を磨いた者や情報収集の得意な者が増えただけではなく、グラウザム領に忠誠を誓う民の出現だった。

……いや、正確には娘に忠誠を誓う民ね。


娘本人はその結果の重大性に自覚も興味も無いようで子供たちが笑顔ならばそれで良いと考えている。その事に対して、民たちは娘に崇拝に似た忠誠を持っている。


しかし、今回の噂がグラウザム領にも拡がり、孤児院出身の民たちや娘に関わりのある民は王族……いや、王都に嫌悪感を抱いているのが危険ね。

ウィルが早急に領地に戻って戦争の準備で逸らしたから民たちも娘の噂の真偽があやふやにさせれたけど、もう時間の問題ね。

内戦が起こらないように毎日のように届く家臣からの娘の扱いへの嘆願書や暴動が起こる可能性の内容の報告など様々な問題事を負わされしまい、半年ずっと仕事に追われてしまっている。


……コレもアレも殿下とくだんの男爵令嬢の所為ね。


しかし、男爵令嬢の主君であるクラーゲン家からのお誘いね。


王国にも貴族派と国王派と中立派の派閥がある。

数代前には貴族が主権を握り、国を動かしていた時代があった。

その結末は権力欲しさに内戦が起こり、国が滅びに近づいた時に僻地の英雄が生まれた。そして、英雄が貴族を纏めて国王へ主権を戻したのは有名な話だ。

主権が国王に戻った今は貴族派が活発に自分達の有能さをアピールして主権を握る機会を伺っている。



何か起こる可能性は考えていた方が良いわよね。


自然と笑みがこぼれてしまう。

本当に楽しみだわ。













当日になり、クラーゲン家が行う舞踏会に参加する為に会場に向かった。


受付を済ませ、私が舞踏会場の中に入ると視線が一気に集中する。

主催者であるクラーゲン婦人も私の登場に笑顔を見せた。


どうやら、純粋に舞踏会に呼ばれただけの様ね。


周りを見渡すと安堵の表情を浮かべる者が多いようだけど何故でしょうね?


気にせずに中へ入ろうと歩き出すと横から誰かが飛び出してきた。



「あら?もしかして貴方がグラウザム婦人ではありませんか?お初にお目にかかります。ドゥムコプス家のアナスタシアと申しましわ」



ニッコリと微笑む若い令嬢に道を塞がれてしまった。


……これがくだんの男爵令嬢ね。まさか、舞踏会に参加して、一番初めに会う事になるとは流石に予想出来なかったわ。


爵位が高い方から挨拶をして行くのに真っ先に貴方が来てしまった所為で主賓であり主君であるクラーゲン婦人と貴方より爵位の高い名家の怒りを買う結果になっているわよ。

そうも気付かずに私に不快な笑みを浮かべる辺り、ただの頭の緩い小娘ね。



「えぇ、私がソフィア・グラウザムです。主賓であるクラーゲン家の者に挨拶をしたいので退いてくださるかしら?」



しかし、小娘は私の前に立ち塞がります。

主賓の顔を壊す行為と理解しての行動かしら?

いえ、分からないから行動しているのでしょうね。

目的は私の排除って所かしら?

目の前の事しか見えないタイプね。



「学友でありましたシュア様はお元気ですか?遠く離れた場所に自分の行いの所為で危険な地で過ごす事になったと聞いて私、とてもとても心配でして、グラウザム家の方にもお会いする機会が今まで無かったのです。本日はお会い出来て良かったですわ」




……こんな幼稚な演劇を見せられても呆れて何も言えないわ。


この手でうちの娘を貶めたのかしら?


心配してますと健気にアピールする姿を見て、周りの反応が青ざめているのが伝わらないかしら?


使う相手を間違えているわよ。


舞踏会の雰囲気を壊したのが分からないようね。

主君であるクラーゲン婦人も気の毒だわ。家臣の娘がこれほど愚かだとは思っていなかったのでしょうね。


……それにしてもこれが王妃候補ね。


それにしても服装もまた奇抜だわ。

ドレスもスカートの丈が短く膝を出していてはしたないわね減点。

ドレスの色も赤や青と黄色とちぐはぐに複数の色を使い、目まぐるしくて疲れるので減点。

肩も露出して減点、その割にはネックレスも主張させ過ぎて減点、指に嵌めた指輪のダイヤも品のない大きさで減点。


このセンスでは王妃候補失格ね。

王妃の嘆きが聞こえてくるわね。


若い子たちは小娘と似た服装をしているのを見ると今のトレンドを考えたのはこの子ね。


センスの無さに私は溜息を吐きたくなるわ。

これが半年前よりもお誘いが増えた原因ね。


服と装飾品は互いにバランスを調和しなければ主張し合ってしまう。そうなると自身の魅力を引き立てる事は疎か、服に着られるだけになってしまう。


見た目も派手で露出も多く優雅さも品も無くてダメね。



……殿下はコレの何処が良かったのかしら?


自分より劣っている所?


軽そうな所かしら?


うちの優秀な娘は一途に殿下を慕っていたのできっとそうね。


娘は恋愛だけは奥手だし殿下に対して色仕掛けで引き止めるテクニックを教えても顔を真っ赤にして出来そうにないものね。


先程の振舞いといい、ここまで滑稽だと逆に清々しいわ。


しかし、センスは無いけど身につけている物は本物ね。

それも自分達の仕える主君よりも飛び切り羽振りの良い物を手に入れる事が出来るって事よね。



……怪しいわね。


男爵家にそれ程の財力はあったかしら?

社交場に出ていなかったとは言え、見落とす事はあり得ないわ。


半年で国内で何かしらの動きがあれば必ず報告は入るし気がつくわ。となるとお金の動きは王国では無いと見て良いわね。


だとしたら西よりの領地である男爵家は西の国と繋がっている可能性を考えられるわ。


そう考えると娘の件も他国が絡んだ政治的攻撃とも取れるわね。

こんな頭の緩い子を国の国母にしようと企てるならね。


でも、ウィルが見落とすかしら?

常に外国勢力を監視していたグラウザム家の家臣を出し抜く事の出来る物たちは少ない。


……なら自国も絡んでいると見た方が良いわね。


それなら貴族派の暴走かしら?

半年経った今、クラーゲン家が私に手紙を送るって事はその可能性が高いわね。

何かしら私に伝えたい事があったと見て良いわね。

しかし、実権を握りたい貴族派の彼等がこの様なリスクは冒すかしら?


可能性は低いわね。


そうなると今回の出来事に導いたのは国王派も絡んでいそうね。

実家は被害を受けた側だけど得する者は数人居るわね。

この騒動が起きて得する王国派の一族は限られているわ。



……粛清する貴族が多くなるわね。


ウィルが自領に戻り、帝国との戦の準備を早急に対応した理由は他にもこれから起こる国内の混乱前に終わらせる為ね。


そうなると後は帝国と西の国の思惑を絡み合わせた人物を特定するだけわ。


それにしても面白くないわね。

娘が貶められた事実に行き着いてしまうのはね。



「何を笑っているのですか?」



つい笑いが出てしまったようね。怪訝な表情を見せる小娘に対してニコリと作り笑顔を見せる。



「申し訳ないわ。貴方がこんなにも愉快な方とは知らなかったの」



そう教えてあげると機嫌を直したようだ。


……そう言う意味で教えてあげた訳ではないのですけどね。


周りの人たちの私を伺う様子を見る限り、私へのお誘いの手紙が増えた理由は小娘の所為ね。


この手の者は相手にするだけ無駄で娘が相手にしなかったのも頷けるわ。

グラウザム家が相手にする必要も無ければ人柄的にも構ってあげる必要は無いわ。

それがまかり通る事がおかしいのよ。

学園に介入した者の処分はそれはそれは重いでしょうね。



一気に興味が無くなりましたわ。



学園とは普段会えない上流貴族と縁を結べる場でもあり、自身の品を高める場でもあるわ。


自分たちの仕える上流貴族しゅくんと自身の教養や品性が分かる。

そして、協調性や調和の取れた貴族としての行動を照らし合わせる場でもあるのに、この令嬢は全く以って学ぶ事を放棄した結果がコレね。


学園とは学ぶ場であるのは建前で仕える主君の複数ある派閥のパワーバランスを自身で確かめて、学園を出た後の貴族社会で失敗しない振舞いを学ぶ為に設けられた場所でもあるのに。


貴族以外にも言えるわ。

才ある平民や商人も学ぶ為に学園に入るが貴族の見えない権威や立場を巧みに察知して上手く立ち回るだけの知恵と経験を積める。


それに気がついた者たちを見定め縁を結んだり、自分の家臣や使用人にするのが主君の嗜み。


逆にそれに気がつかなければ愚か者の烙印が押され、主君の格が下がり、子供たちのパワーバランスが変わる。



クラーゲン婦人も怒りを通り越して顔が青ざめているわ。


小娘の参加は元々無かったようね。

もうこの場での情報収集はいらないわ。

婦人には悪いけどセントー達に小娘の付近の情報収集を任せて裏を取った方が有意義だわ。



「分かったわ。呼ばれたと思いましたがこの手紙も悪戯の様だったわね。本日は帰らせて頂くわ」



そう話すと小娘は勝ち誇った表情を浮かべ、口元を上げます。

私が振り返ると見知った顔が丁度入って来た。



「あら、ソフィアもクラーゲン家主催する舞踏会に参加していたのですね」



王妃の登場に会場はざわつきだす。王妃が参加する舞踏会は品がつく為だ。

青ざめていた婦人は喜びに満ちた表情に戻り、小躍りし始める程の出来事だ。


扇子を口元で広げて優雅佇む王妃に返事をする。



「いえ、門前払いを受けましたので帰りますわ。王妃は楽しんで下さいませ」



そう答えると王妃はチラッと小娘を見るとそうと呟く。


……目はニコニコしているけど笑ってませんね。



「あらそう、丁度良いわ。私もご一緒するわ。この機会を逃せば次はいつ貴方とお話しできるか分かりませんもの」



その言葉に飛びついたのは主賓よりも先に小娘です。



「え⁉︎何故ですか⁉︎罪人の親であるソフィア様についていくのですか⁉︎それよりもこちらの舞踏会に参加された方が良いです!それに私も将来のお母様とお話をしたいと思ってました」



小娘が顔を赤らめて話し終えたその瞬間、パチンと扇子を閉じる大きな音がなり、周りのざわつきが一瞬で鎮まります。



「あら、いつから私は貴方のお母様になったのかしら?その様な未来も存じませんわね。さぁ、ソフィア行きましょう」



王妃のその言葉に小娘は呆気に取られてしまった。

コレでクラーゲン家主催の舞踏会は失敗に終わり、主君の顔を泥を塗ったドゥムコプス家は主君は勿論のこと、属している貴族派から重い処罰が下るでしょうね。それだけではなく王妃の言葉で支援も無くなるのも予想出来るわ。

そうなると裏がどう動くかしら?



「アナスタシアと言ったわね。もう少し相手を見て行動した方が良いわよ?……まぁ、次回がありましたらね」



私の忠告に顔をまた真っ赤にした小娘は口をパクパクしているが王妃が隣に居るから何も言えないでいる。

その姿を見た王妃は口元を今度は隠さずに笑みを浮かべて、更に追い討ちをかけるように王妃も話しだす。



「もう終わった話だから教えてあげるわ。陛下と私が乗り気ではないグラウザム家にお願いした婚約なの。その意味も理解出来ないのなら貴方は王族にとって害でしかないわ。それとね、ソフィアは私の大事な妹よ」



小娘は聞いてないと呟き、青ざめてしまった。

言わなくても私とサブリナ王女がヴァイスハイト侯爵家の血筋を引いている情報は誰もが知っている。

その情報すら得ようともしなかったみたいね。

だから、大胆にも私へ仕掛けてきたのね。

先程まで勝ち誇った表情が嘘の様に青ざめてしまった小娘を背に王妃と供に外へ向かった。

背後で予想通り、来賓が帰ると言い出している。

これでは舞踏会も解散ね。

クラーゲン婦人が小娘に怒鳴る声が聞こえたが何を怒鳴っているかは遠くて聞こえない。



外に出ると王妃はそのまま馬車へと向かわずに薔薇園の方へ歩き出すので私はついて行く。

人気がない場所で王妃は立ち止まり振り向くと微笑みを浮かべた。



「ここは誰も居ないわ。昔みたいにお姉さんと呼んで」



舞踏会とは別人の様に柔らかな口調で話すサブリナ王妃……いや、サブリナお姉様。



「はい、お姉様。ご無沙汰しております」



娘が居なくなってから半年、お姉様にも会うのは半年振りになるわね。



「ごめんなさいね。私の我儘で貴方に似たあの子を私の娘にしたかったのに、無断で息子が事を進めて気付いた時には手遅れだったの。もう息子の廃嫡は覚悟しているわ」



お姉様は昔から優しくて家族想いだった。

哀しげに微笑むお姉様を見ると心が痛む。

殺伐とした一族が家族として纏っていたのはお姉様が居たからだ。

だからこそ、お姉様の想いを壊した甥が許せない。


家族想いのお姉様が実の息子の廃嫡を決断させた罰は重い。


ウィルは友として国王を支えているが私は優しいお姉様が憂いる事のない様に支えたい。



「貴方が王妃だったら国はもっと良くなったでしょうね」



そう話すお姉様に私はゆっくりと首を横に振る。



「私が王妃になったら今以上の発展はありませんでした。それに私はお姉様の為に動いてます。ヴァイスハイト家は国が出来た時からずっと王族と国を支えてきた一族ですが私はお姉様の力になりたいと思っています。それが国の為に繋がります」



私がそう伝えるとお姉様はまた柔らかく微笑む。

私もつられて微笑み照れ臭くなる。



「今夜の月は綺麗だ。だけどソフィア婦人の美しさには敵わない。そうは思いませんかサブリナ王妃よ」



急に背後から声が聞こえ、とっさに振り向くと見覚えのある方で私は目を細める。



「ありがとうアラン。口説くのならもう少し歳を重ねてからにして頂戴」



それは残念と呟くアラン。

娘の護衛を引き受けてくれたゲドゥルド家の嫡男の登場に私とお姉様は警戒する。

セントーとインが私達の前に現れ攻撃態勢に入る。



「おや、歓迎されてないみたいですね。悲しいな。少なくともソフィア婦人やサブリナ王妃には危害を加える気は無いですよ」



ゲドゥルド家は王国に仕えて浅いがすぐに貴族派の筆頭になった実力派の貴族であり、いくら息子と言え、油断すると危険ね。



「そうかしら?貴方の事を評価しているからの扱いよ」



アランは獰猛な笑みを浮かべる。



「嬉しそうねぇ、俺の事を武力で評価してくれるんだ。悪いけど俺は自分が強くないのを知っている。だから、頭を使って勝負をするんだ。俺たちゲドゥルド家やグラウザム家も自分達が優秀じゃないから行動や見る視線が違う。敵は常に自分達を出し抜いていると考え動いている。ヴァイスハイト家は優秀だ。だけどその驕りが王国最大貴族であるのに特化しない理由だ。」



「……何が言いたいのかしら?」



アランの背後に護衛が現れる。護衛が何かを呟くとニヤリとするアランに危険を感じて、お姉様を庇うように立つと目の前でセントとインがアランの護衛達に斬りつけられてしまった。

とっさの事で反応出来なかった。

私が睨み付けるとアランは倒れた2人を指差す。

2人を見てみると顔が無い人形になっていた。



「ダミーパペット、これは西の国の諜報員たちが扱う戦闘の出来ない人形で王国で見分けきるのはグラウザム家の家臣位ですね。ソフィア婦人も優秀さを信用し過ぎると危険な目に遭いますよ」



アランの言いたい事は分かる。だけどそれより気になってしまって口にする。



「……ダミーパペット?」



初めて聞く単語に反応してしまう。お姉様は知っているのか怪訝な表情を浮かべた。



「ソフィア婦人の付き人の安全を確保しましたから攻撃しました。それと先程からのご無礼お許し下さい。西の国に情報が伝わっている状態では下手な話も出来ませんので」



頭を下げるアランに私とお姉様は警戒を解く。



「しかし、貴方が私を助ける理由が分からないわ。貴方の言葉を聞く限りグラウザム家に戻れば問題無かった筈よね?」



そう尋ねるとアランは笑顔を見せる。



「私を貴方の手駒にしませんか?」



その言葉に私はお姉様と顔を見合わせてしまう。



「少し良いかしら?貴族派である貴方がソフィアに仕えると言う意味で間違ってない?」



お姉様が先に疑問に思った事を口にします。

ゲドゥルド家とグラウザム家は仲が良い。グラウザム家はその所為で貴族派に近い中立派と周りからは思われているが当主も私も国王派に近い。

都合が良いのでそのままにしていた。



「えぇ、簡単に言えばそうですね。貴族同士に利益が無ければ交渉はない。今のままではソフィア婦人も私の言葉の意図は疑問ばかり浮かびますよね?簡単な事です。貴方の娘を私に下さい。私はゲドゥルド家の嫡男ですが優秀な弟もいるのでグラウザム家と行く事は可能です。むしろ、父上はグラウザム家に対して好意的ですので全面的に協力をしてくれると思います。ソフィア婦人、貴方も悪くない話ですよ。貴方の息子が家を継ぐのであれば私は家臣になり、グラウザム家の守りを固めます。貴方の娘が継ぐのであれば彼女を支えます。貴方なら自分の娘の優秀さをご存知だと思うのでこれ以上は言葉は要りませんよね?」



……悪くはない話ね。

護衛中に娘の事を知り、それだけの価値を認めての言葉よね。



「しかし、娘はもう王都へ踏み入れる事は出来ないわ。貴方が僻地に行くのかしら?」



私の言葉にニヤリと笑うアラン。



「国王は2度に渡り僻地に騎士達の遠征を送ってますが砂漠で全滅しています。僻地の危険性に漸く気が付いた重鎮や国王はソフィア婦人の息子がいる特殊部隊が派遣されました。ですから、その逆です。お気づきだと思いますが今の王国は危うい状態です。今までバランス良く保たれていたモノが貴方の娘が居なくなり壊れてしまいました。もう限界がきています。ならば、元に戻してしまえば良いのですよ。ただ、多少は変わってしまいますが彼女ならこの現状を変える事は出来るでしょうね。あの規格外の従者に人脈も含めて、それだけの力にがありますから。そして、私もその人脈の1人になる予定です。漸く彼女の冤罪も証明出来ます。後は場を整えるだけです。サブリナ王妃には申し訳ないが後始末はお願いします」



お姉様も考える素振りを見せ、分かったわと答える。


私は先程のアランの言葉に少し気になったので聞いてみる。



「貴方はアイシャの事を知っているの?」



アランは笑顔を辞めて肩を抱きしめ話しだす。



「彼女があの赤い悪魔ですよ。そして、護衛中にも何度も殺されるかと思いました。彼女の従者で無ければ私は殺されていたと思います。アイシャと言う従者かいぶつはシュアと言う主人かいぬしが居なければドラゴンよりも凶悪です。そして、その従者は主人を貶めた王国に対して良くない感情を抱いている。危険な僻地にいつまでも主人である彼女を留めて死なれてしまったら王国が滅ぶ可能性も考えた方がいいです。それ程危険な人物です」



何かを思い出した様で怯えて語るアランに私もお姉様も口を閉ざしてしまう。

しかし、ウィルが娘の従者にしたのか分かったわ。そして、娘の誘拐された報告の裏も予想がついた。

そうなると、西の国と帝国の思惑を絡めたのは彼女の可能性が高いわね。

危険だけど扱いによっては安全ね。

……そっか、裏の取れないグラウザム家の家臣みたいね。


沈黙した場でアランは話を変える。



「知ってますか?我々ゲドゥルド家は民と共に生きてきた一族だから西の国を捨て王国へ付いた。西の国はこの国の100年先の文明を築いていると言われています。その発展にはネメシスと呼ばれる指導者の存在がいます。そして、いつの間にか管理された生活に民は疑問を持たずにただ生きている。王国から見る今の西の国は領民も恐ろしいと感じてます。だから、ゲドゥルド家は西の国から民を守る為に今も戦っています。そして、10年以上前の出来事ですがフローズヴィトニル家が当主を残して全て殺害された事件がありました。フローズヴィトニル家とは西の国の公爵家で王族の親族になります。西の国の王族は特殊で子供も1人しか産まず血筋を大切にしている一族です。ですから、王族殺しの罪でその犯人を国を挙げて捜しています。但し、犯人は殺してはいけないそうです。そして、その者が王国にいるとネメシスが発言しています。それが王国との争いの火種にもなっています。ネメシスは人々の心を操るのが得意です。近々、西の国から仕掛けて来るでしょう。その時は私を使って下さい。必ずお役に立てるでしょう」



そう話してアランは気を失っているセントー、インを私に預け去って行った。

お姉様も色々得た情報を纏める為に解散となった。






今日は色々とあったわ。

家に着いて執務室にまた篭る。

やはり、自身で社交場に出なければ得られない情報もあるわね。

娘も国も外交も色々あり過ぎて纏めきれないわね。



「「主人様、今回の失態をしてしまい申し訳ありません」」



セントー、インが目の前にスッと現れる。

どうやら、気が付いたようね。良かったわ。

深々と下げる2人に私は声をかける。



「頭を上げなさい。2人が無事で良かったわ。今回の事で私も考えが変わったわ。ザック、いるのでしょう?」



スッと部屋に入ってくる使用人に2人は睨む。



「この2人は私の大事な従者なの。グラウザム家の家臣である貴方に2人を預けても良いかしら?」



その言葉に2人は反対を言います。



「主人様!我々ショッカーズ家は二君にまみえずです。主人様以外に仕えたくありません!」



「インフィルの言う通りです。次はこの様な失態はしません!もう一度チャンスを下さい!」



言葉は嬉しいがこれは2人の為でもある。

私の意図にザックは気付いた様で2人に嘲笑うかのように話す。



「おやおや、主人の前で失態を犯した従者が泣き落としとは情けない。私なら君たちに比べると3倍の働きが出来る。それに実家送りでは無く、成長出来るチャンスを与えると言う主人の言葉も理解出来ないとは情けない」



挑発的に誘うザックに2人はやりますと意気込みを入れる。



「なら、手始めにドゥムコプス家の情報を集めてきて頂戴。……ザック、貴方もお願い出来るかしら?」



3人は御意と言うとセントー、インはスッと消えた。ザックに負けない気で動いているのね。

ザックは残り私の前に歩いてきます。



「奥様、貴方はヴァイスハイト家三女ではなく、グラウザム家当主の婦人です。家を護る者として主君である貴方の命令に従うのは当然であります。ただ、我々も与えられた事だけ考えて動く人形ではありません。それが我々グラウザム家の強みでもあります。それだけはお忘れない様にお願い致します」



それだけを言い残し消えます。


……私もまだまだね。

今回の事で失ったモノも多いけど得たものも多い。

だけど、娘は取り返させて貰うわよ。





そう思った矢先だった。

舞踏会から3日経ち、執務室に篭る生活をまた続ける私に慌てて入って来たのはセントー、インだった。



「お、ぉおお奥様大変です!クラーゲン領にあるドゥムコプス地域が西の国に占領されました!」



「男爵家はあの令嬢を残して全員殺されております!領民も占領されてからは分かりません!それと令嬢はクラーゲン家に捕まっており、数日もしないうちに領地の一部を奪われた原因を作った罪で処刑されます!わた、私たちも巻き込まれそうになって逃げてきたので情報は見つけきれないまま男爵家は占領されてしまいました!申し訳御座いません!」



……思ったより早かったわね。いや、探られる前に行動したのね。



「2人が無事なら良いわ。相手の規模とか分かるかしら?」



そう聞くと2人して涙目になり、申し訳御座いません!と深々と頭を下げる。



「まぁ、良いわ。それより、先に色々とやるべき事が出来たわね。まずは何から取り掛かろうかしら?」



考えようとした瞬間にドアのノックがなり、返事をするとザックが戻って来た。彼も無事で良かった。

2人を見ながらザックは溜息を吐き、私へ振り向き話しだす。



「多少聞いていると思いますがドゥムコプス地域が西の国に占領されました。魔術機動隊と呼ばれる軍隊が千人と規模は小さいですがゴーレム部隊もありジァイアントゴーレムも数体居ました。他にも我々の知らない武器を複数確認しました。如何されますか?」



確認を入れるザックに私は少し考え伝える。



「分かった。まずはグラウザム家に通達を出して頂戴。戦の準備を整えているのですぐに迎えるでしょう?ザンビ家かズムズ家の者に今回は指揮を取ってもらいましょう。それとゲドゥルド家にもお願い。すぐにアラン・ゲドゥルドにも通達ね」



私がそう伝えるとザックは一つ提案がありますと言うので聞く。



「ザンビ家やズムズ家よりもジークとすぐに連絡が取れますので彼に任せましょう。それに時間をかけるよりすぐに終わらせた方が宜しいと思います」



「ジークってジオングラン家の当主よね。彼の一族は帝国との戦争の中心核よね。呼んでも良いのかしら?」



「大丈夫です。彼ならば人形相手ならば久々に本気を出して暴れられると喜んで参加するでしょう」



ウィルの参謀で戦では前に出ないと聞いた事があるけどウィルと同じタイプのようね。



「分かったわ。それでお願いするわ」



「それと男爵家の裏の取れた情報です。西の国との契約書や様々な計画書も既に入手済みです」



貰った情報に目を通すと自然と笑みがこぼれてしまう。



「ザック、ありがとう。それとクラーゲン家にアナスタシア・ドゥムコプスの延命の手紙を早急に出して頂戴」



そう伝えるとザックはスッと消えた。



「主人様、あの令嬢を生かす理由がありません。何故延命の手紙を出すのですか?」



セントーが不思議そうに聞く。



「ねぇ、民たちはすぐに死を強請るわ。そう簡単には死なせませんよ。貴族だからどんな罪を犯しても命が助かる?軽い刑?そんな生温い事を貴族が許すはずが無いのにね。民たちが軽い刑だと思い込み民たちが流す黒い噂、扱い、沢山の悪意が彼女への罰になるわ。しかもこれは罰ではないの。だからね、ずっと続くの。私の娘を嵌めて簡単には終わらせませんわ。民が創る彼女の物語がどう語られるか楽しみだわ」



貴方は王国一の悪女として語り継がれるのよ。

頑張ってね。


本日のショッカーズ家の心の声

ザック

「君たちの3倍は仕事出来るぞ!」



セントー.イン

「「イィーーー!!」」


セントー.イン

「「情報集めれませんでした!」」


ザック

「頼まれた情報どころか主人に必要になる情報まで持って来たが君たちはなんだい?」


セントー.イン

「「イィーー!!」」


セントレアさんとインフィルさんは女性です!


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