2.追放された令嬢の心情
王都から追放され住んでた家も離れ、貴族として何もかも失った私の心境は……
いやっふぅー!!
今日から学校に行かなくて良いのです!15歳を越えると成人なのですが才能ある者やお金がある平民は箔をつける為に学校に通います。貴族も更なる知識を得る為に学校に行く者も居ます。ですが、私や爵位の高い貴族は既に通わなくてもいい程の教育を受けていますので学校の運営や公務を任され、人脈作りに家臣集めに精を出します。
ですが本日より殿下の代わりに商人や富豪からの寄付や学校運営や行事を考えなくて良い、妃の教育もしなくて良い、決められた日常をこなす毎日からおさらば出来た事は素直に嬉しいです。
お父様にこの事が伝われば、本当に勘当どころじゃ無いでしょうね。しっかりと心に閉まっておきます。
しかし、これから殆どの雑務をこなしていた私が居なくなった学校はどうなるのでしょうね?もう私には関係は無いですが多少は気になります。
それにしても私があの令嬢に対して陰湿?嫌がらせ?虐めていた?
……皆様の所為でその様な時間は作れないのにいつしたのでしょうね?
それに一度だけ確かに注意をした事はあります。
私の婚約者である彼と率直な行動は控えて頂く様にお話はしましたがその頃には殿下も取り巻きも彼女に盲信的になっていた様で私の言葉が通じなかった。
……コレでも複数の言語を会得しているのにね。
あの状態は異常でした。
侍女のアイシャの言っていた事が世迷言では無く本当だと理解した瞬間でもあります。
私はアイシャと同じく転生者であるらしい。らしいとは私はそう言うのに疎く興味が無い。
アイシャの中でこの世界は物語の中にそっくりだと言う。アイシャと同じ世界の記憶を保持している私はこの世界に生まれて15年になるが人より経験や知識が豊富なだけで前世の記憶は過去の自分であるがそれだけで私はシュア・グラウザムです。貴族の令嬢として今まで生きてきました。
生まれた時から伯爵家としての自覚ある行動をする様に教育を受け過ごしていました。これ以上大変な事は無いだろうとタカをくくっていたのですが私が7歳の時、王妃候補へ選ばれてから日々は更に辛かったです。妃になる為に一日中、監視され、何もかも管理され、外相の知識や王族のマナーなど、全てを出来るようになる為の教育と心が何度折れそうになったのか分かりません。
そんな日々の救いが婚約者だった私の婚約者である王子です。一言で簡単に言えばイケメンで優しさが取り柄の彼は泣きそうになる私を陰で支えてくれました。好きになるなと言われる方が難しいと私は思います。
恋は人を変えると言いますものね。私も覚悟を決めて、この人と生涯を共に過ごす為に必要な事ならばと私は耐えました。耐え切った私は褒められても良いと思います。
「お嬢様は殿下を本当にお好きでしたのでしょう?この結果で良かったのです?」
私が考えに耽っていると声をかけられる。考えているタイミングがいい。
確かに私は彼の事が好きだ。今も愛していると言っても良い。
学園に入るまでの共に過ごしてきた時間は本当だった。この気持ちや想いも本物だ。
アイシャから聞いた私への婚約破棄を信じず彼を信じたが結果はこの通りだ。
一緒に国を豊かにしようや国を守ろうなどの沢山頂いたあの時の言葉は嘘だったのかと疑いたくもなる。アイシャが陰で色々と動いてくれた為、私は後ろめたい事は何一つない。
「アイシャ、私はこの結果に不満は無いわ。私は彼が好きよ。彼を信じ過ぎてこの状況なのよ。それに絶対的な王威の権力に逆らえない。勝ってはいけない。貴方が言う通りの未来になるのなら私にとってこの結末が最適でしょう。彼と一緒になれないのなら正直貴族社会にいるのは辛いわ。僻地でのんびりと過ごしていいのならこっちの生き方の方が楽だわ」
知らない誰かと婚約して与えられた役割を果たす為に生きるのはもう嫌なのです。私は彼だったから受け入れただけなのです。
「お嬢様がそう言うのなら構いません。最善を尽くしてこの結末だったのが私は不満でありますが」
アイシャはそう口にするが本当なら私は死ぬ運命だったはずだ。実際にその流れだったのを感じて私は怖かった。それが僻地送りで済んだのだからアイシャは優秀だ。
「それにしてもお嬢様は殿下に相当嫌われていますね。僻地へ送るだけじゃ飽き足らず、宗派の破門と来ると死ねと言っているモノですね」
私を仕留めるかの様に様々なお話が出て来ているのです。彼や取り巻き達の権力で私にトドメを刺しに来ていると言っても過言ではないです。
「遠回しに死刑と見て良いでしょう。殿下の権力は絶対的でありますが今回の刑を用意出来るのかは別です。しかし、あの男爵令嬢に集まってる方々は将来の中枢になるのでしょう?この団結力を今後も発揮して頂ければ嬉しいのですがね。それと教会と王族は互いに干渉しないのが鉄則ですが彼等は今回の件でどう捉えられるか理解しての行動でしょうかね?」
私に対しての断罪がきっと彼等を苦しめるでしょうね。もう私には関わらないと陛下と取り付けていますので関係無い話ですが。
「私が動いてお嬢様の冤罪に気がついている者は割と多いようですよ。ですが昔から王家を支える大貴族の一つである令嬢のお嬢様が冤罪でこの扱いをされているのを見て何も言い出せないのが状況です。王族に何かしらの思う所が出来ているのは確かです。陛下自身もでしょうね。王威が下がれば教会の活気が良くなります。しかし、冤罪のお嬢様を破門にしたら教会は調べもせずに信者を蔑ろにすると思われるでしょう。それに教会がそこまで質が落ちている事を示してます。教会と王族は対等と言われてますが国を纏めるのが王族ですから王族には逆らえません。お嬢様の冤罪を知っているならせめて教会の庇護を陛下が庇って下さると思いましたが違いましたね」
私への冤罪なんてどうでも良いのです。冤罪が解けても僻地でまったりライフを過ごすので。だから、彼や取り巻き達の処罰もお手柔らかにとお父様にお話をしたのですから。
「それは違うわ。あの学校で起きた出来事は貴族としての柵があるからこそ起こったのです。ならば助けにならなかった教会の庇護を今更無くなった所で私は困らないです。貴族としての柵もまだ多少ありますが陛下からお言葉を頂いた事により無くなりました。確かに庇護が無くなったと言えば周りから同情を得られるでしょう。だから、陛下は教会の情報を私が王都から出る前にすぐ報せて頂いたのだと私は思っております。それに仮にも私は罪人扱い。王族が決めた罪人を庇うとなると王威はもっと下がってしまうわ。王威と教会の信用が落ちた今、王都がどの様に変化して行くのかが楽しみですわ」
陛下と教会で既に水面下で何かやっているのかも知れませんね。
「……お嬢様って確か殿下の事が好きでしたよね?」
アイシャは恐る恐るといった口調で尋ねる。私は恋は冷めても嫌いにはなれなかった。
「そうね。好きだったわ。このような仕打ちをされた今も彼の事が嫌いかと聞かれたら嫌いじゃないわ。自分でもバカな女と思うわ。理屈じゃないのよ。だから、私は恋をして彼じゃない誰かを愛する未来を未だに想像が出来ないわ。失恋って初めての経験だからまだ恋の忘れ方を私は知らないわ。でも新しい地ですぐに新しい恋をして忘れるわ」
前世も含めて私は恋というモノの経験が浅い。こればかりはどうにもならない事実です。だから、略奪恋愛されたのでしょうね。アイシャの言葉を拝借するなら決められた運命ですね。恋愛に疎い私には打ち勝つ事は無理でしたね。
彼にはあの令嬢と幸せになって貰い、私は更に彼以外と彼以上の幸せを掴みとってみせましょう。それが私の彼への仕返しです。
「案外ドライな考えですね。ですがお嬢様、一つ伝えておきたい事があります」
そう言葉にして、実はと少し言いにくそうにアイシャは事実を口にする。
「これから行く領地は人が住んでません」
私はこの言葉に間抜けにも、へっ?と返答してしまった。
割と強かな令嬢です。