15.従者と戦場と縛り付ける者
争いと言う名の蹂躙です。
アイシャの過去になります。
力には代償があります。そのお話です。
それとこの話で序章は終わりです。
お気づきかと思いますがアイシャさんはギリシャ神話をモチーフにしています。
皆様に楽しんで頂ければ嬉しいです。
『どの様な事があろうともグラウザム家は帝国には屈しない』
そう旦那様は仰られていました。苦悩の判断とは理解しています。ですが、英雄と呼ばれる旦那様も人の身。そして、貴族なのですね。お国の為に旦那様はお嬢様を見殺しにすると決断されたようです。
それが人の英雄である旦那様の限界であり、答えなのですね。
木々の間から見下ろすと目の前には武装した人々。サーチした人数は5000ちょいですか。数人ばかり兵を捕まえて仲良くお話をさせて頂いて、得た情報は1時間もしないうちに戦争の為に更に2万の増援がこれから来るそうです。
私的にはその増援とも一戦したかったのですが今回はお嬢様の安全が優先です。だから、増援が来る前に終わらせましょう。
『へぇ〜、貴方の名前アイシャって言うの?可愛い名前だね!私はシュアって言うのよ。これからよろしくね!』
今でもそう名乗ったお嬢様の事が何故だか忘れられないのです。
私はシュア・グラウザムを知っています。それは私がアイシャに生まれ変わる、ずっと前からです。
一方的に知っているだけなのに初めてお会いした時、私はその笑顔に違和感を感じました。
その違和感は側にお仕えし始めると理解しました。
この世界の常識を疑問に感じながら受け入れる姿。
7歳にして、様々な知識を吸収し、貴族として求められる気質を身につけてしまう異常さ。
目の前にいるのは私の知らないシュア・グラウザムです。彼女も転生者なのでしょう。
それが私とお嬢様の始まりです。
この世界が私の知る物語と同じだと知ったのは私が自由になってからです。
この世界に生まれ変わり、気が付いた時には数年間も狭く暗いレーディングと呼ばれた牢の中で私は居ない存在として扱われ過ごしました。
やはり、この世界でも居場所はありませんでした。
初めて会った親は私を殺すように命令をしてからすぐに目の前から消えました。殺されそうになった私はそこから逃げ出しました。
前世も散々弄ばれて、惨めに何もかも奪われつくされて死にました。
どの世界でも人は人を見下し、どうしようない生き物だと思います。
世界が変わって新しくなっても人と言う生き物は同じです。
身辺が新しくなった以外は何も変わらない。
人が人である限り、世界が変わっても人は人でしかなった。
そう、私も他人もーー
ですから私が人から化け物へと堕ちるのは必然でしょう。
あの女神もその事を理解していたから私を選んだ。その結果、自分の命が奪われる事も分かっていたはず。それでもこの世界を憎み恨んでいたからこそ女神は私をこの世界に呼んだのだから。
弱ければ奪われ、強ければ奪える。前世も今世も世界が変わってもこの事だけは変わらない。
醜く色合わせた私の世界でただ奪い合う殺戮の中に身を堕とし、戦う事で自分の生を感じ、奪う事で自分を満たす事ができました。
それが今までの私です。
気付いた時には既に遅く私は他者から奪う事以外、何も出来ない存在になっていました。
「さて、お嬢様に何事も無くて良かったです。帝国も交渉の為の人質だと流石に理解していたようですね」
お嬢様を人質にする為に帝国兵達はグラウザム領内でお嬢様に仕えていたグラウザム家の護衛達を殺し誘拐しました。
私が知る物語でお嬢様が狙われ誘拐される話は無かったはずです。これは私がお嬢様の為に良い様に干渉し過ぎた所為ですね。
この空間に居た帝国兵達を始末して、気を失っているお嬢様の無事を確認します。お嬢様は眠る様に寝ています。
この空間に私は結界をはり、お嬢様の安全を確保すると本格的に行動を開始します。
……皆様、私から奪おうとして生きて帰れるとは思わないで下さないね?
『お前には戦争は出来ない』
そう旦那様から言葉を頂きました。
『お前は殺戮しか知らぬ。奪い合いの中で狂い壊れ笑う。例え戦争で活躍しても英雄になれない争いに飢えた獣だ。いや、化物か。お前が敵側に居なくて良かったと私は切に思う』
旦那様の言葉は的を得てます。
世界を恨み人を怨み、私は奪う事しか出来ない化物。
でも、一度堕ちた私を変えてくれたのがお嬢様です。お嬢様に出会わなければ、あの女神の望んだ未来の通りにこの世界を死ぬまで蹂躙していたと思います。
お嬢様に仕えようと思ったのは純粋に私が知る前世で憧れた物語の登場人物に近づきたかったそれだけです。
その感情に気づいた時、私もまだ人で在りたい気持ちを捨てきれていなかったのだと知りました。
本当に近づくだけでしたのに私はお嬢様と過ごし、どんどんお嬢様に引き込まれました。初めは憧れと嫉妬でした。私と同じ存在なのに違う生き方をしている。
……あぁ、奪いたい。
その感情は私が生まれてから、ずっと共にしている欲求です。
ですが、お嬢様からどれだけ奪ってもお嬢様から奪いきれません。
いつの間にか、私はお嬢様の全てが欲しくて奪いたいと思うようになりました。
「ば、化物がっ⁉︎」
「怯むな!敵は1人だ!囲め!囲め!」
「相手の獲物は短剣だけだ!怯むな!殺れ!」
お嬢様の事を考えていましたらいつの間にか私の周りに沢山の敵が集まり始めましたね。
ですが集まってもらった方が好都合です。
私は距離を置いて私の出方を伺う離れた敵に向かってただ両手に持つダガーを踊るように振るうだけです。
「なっ⁉︎相手は見えない斬撃を飛ばすぞ!」
「どうなってんだ!兵士達が何故死んでいる⁉︎」
「た、助けてくれぇ!」
私の一撃が見えない彼等は私から離れようと統一を乱れますが逆に狙いが定めやすくなりますね。
私の剣術は魔力を刃に変え、どんな獲物も斬る。
私はダガーに魔力をこめて一回転する。100メートルにも伸びる魔刃の剣と言うスキルを発動させます。
……今ので300人程度ですか。
辺りは私を中心に一気に見やすくなりましたね。
さて、敵の残りの数は半分を切った位ですか。
私が短剣を構えると周りの敵達の顔には絶望が張り付いてました。
『帝国との戦争に真正面から付き合う愚か者になる必要がない。互いに理由が無ければ民兵達の死は無駄になる。お前にその事を教えても理解は難しいだろうな』
旦那様に一度、戦争するのなら一方的に蹂躙をして奪えばいいとお話をした事がありました。
『お前は単純で羨ましい。だが、それは憎しみや悲しみしか残らない。戦争とは単純そうで単純では無いのだ。両国の人の死が絡むのだ。なるべく人を殺さず、帝国の重要人物を捕虜にして、降伏させる。国の為に戦ってくれた民兵の為にも戦争で利益を生まなければ、愚かな争いに付き合う必要はない。帝国は領土が欲しい。我々は利益が欲しい。だから、戦争に付き合う。もっと専門的な話をお前が理解するとは思ってはいない。今の話も理解しろとは言わない。ただ覚えておけ』
旦那様が言った言葉は覚えています。
帝国は戦争をしなければ国が纏まりません。彼等は大国になるまでに沢山の血を流し、国を奪い過ぎたからです。だから、旦那様もそれを理解して帝国と戦争をしています。
面倒な皇帝をこちらから討ち取りましょうと提案したら旦那様は溜息をついてましたね。
『もっとも怖しいのは皇帝が討ち取られた場合だ。帝国内の崩壊で王国の被害がどれほどに及ぶか分からぬ。大国の内戦ほど怖しいモノは無い。互いに譲れない戦いになるほど、死人がたくさん出してしまう。把握して脅威では無い今の状態が続くのが王国にも良い現状だ』
ですが、その結果がお嬢様を自領で奪われ、お嬢様を返して欲しければこれから行う隣の領土侵略する遠征に手出しをするなと脅されたのです。
この世界の戦争は綺麗です。
人の死に理由を付け、戦いに意味を持たせます。まるでスポーツをしているかのようです。
……違う。本来はそうじゃ無い。
戦争は誰が正しいのかを決めるのでは無く、誰が生き残るのかを決めるだけです。
帝国のやり方を卑怯と憤り言った旦那様の家臣達。帝国を責めるのは違います。
戦争は綺麗事じゃありません。
長年ずっと帝国より優位に立っていたからこその油断です。平和ボケと言う言葉をこの世界で思い出すとは思いませんでした。
「貴様!何者だ!帝国軍にこれだけの事をして生きて帰れるとは思うなよ!皇帝より預かりし我が剣の錆にしてやる!この部隊の隊長を務めているブリュっびぁばぁっ⁉︎」
「た、隊長⁉︎隊長が殺られたぞ!」
「だ、ダメだ!もう撤退だ!」
戦争はただ他者から全てを奪い蹂躙するだけ。
そこに兵法や複雑な策略はいらない。最も単純なものが最良です。
そう、圧倒的な力で命を奪うだけ。簡単でしょ?
旦那様が間違いを犯してしまったのは難しい考えを立て、貴族として賢く振る舞おうとしたからです。
争いの場に理屈はいらない。本能でただ心のままに動くだけ。
今の私の様に逃げ回る敵たちをただ斬り刻むだけです。
すると急に目の前が一瞬光ると遅れて辺りが爆発します。その光に周りの離れた敵も私も巻き込まれてしまいます。
「やったか⁉︎」
「化物を仕留めたぞ!」
「帝国軍舐めんなよ!」
爆煙で周りが見えませんが遠くから喜びの声が聞こえますね。
この威力のある攻撃は魔力砲の亜種の武器でしょうか?遠くにサーチで調べると魔力切れの兵士が100人近くいますね。
思ったより魔力砲でのダメージは大きいですね。右腕が取れてしまってます。
部分損失の状態はHPを大幅に削ってしまうのです。
ステータスを見てもまだHPの半分はありますが早いうちに終わらせますか。
「なっ⁉︎まだ死んでないぞ!」
「ば、化物だ!」
「お、お助けを!」
煙が消え、私がまだ生きている事に周りは騒然とします。そんなのをお構えなしに私は魔力砲がある方向に左手を向けて「灰になれ」と呟くと離れた場所で炎が上がり、轟音と共に爆風が遅れてこちらに来ます。
サーチで敵の消滅を確認します。
私は沢山の視線を受け止め、ニヤッと笑いかけ、残った左手でダガーを握り締めると残りの敵達へ向かいます。
旦那様の言う通りですね。私に戦争は出来ません。一方的な蹂躙になってしまいます。
ステータスや鑑定などの能力は人の命を軽くします。他人も自分もです。
全てがデータ化してあり、人の生き死にを数字で見れます。まるでゲームの中に入ったかのような錯覚です。
女神から奪った力を使えば使うほど人から外れ、私が化物へ近づいていくのが分かります。
私は昔から物語の主人公に憧れていました。
物語の主人公たちはどうして、強大な力を受け入れて、幸せに生きていけるのでしょうか?
どうして、嫌われても理不尽な事があっても真っ直ぐでいられるのでしょうか?
嫌われ続けても側には本当の自分を理解してくれる仲間がいます。
そして、同じ境遇なのに私は物語の主人公達とどうして違うのでしょうか。
私は何を間違ったのでしょうか?
本当は1人で居るのは、もう嫌なのです。
この世界に来てから何も変わらず、私はずっと独りぼっちで前の世界も今の世界も私を受け入れようとはしなかった。
でも私は誰かに受け入れて欲しくて、認めて貰いたくて、私はここにいるよって、奪えば奪う程人から踏み外れて行く。
私は誰とも相容れない存在。
必要とされない私は本当にこの世界で生きていると言えるのでしょうか?
だから、私は私が生きていける場所を求めました。求めて出た答えが互いが奪い合い生を確かめ合う争いの世界。
だけど、満たされるのは一瞬だけ。
女神が望んだように私はこの世界を喰らい尽くす獣の様に満足出来なかった。
『ねぇ、アイシャの本当の笑顔を見せてほしいな』
だけど、些細な事が人によっては救われる事だってあります。
『もう!確かにいつも笑っているけど私が言っているのは違うわ!アイシャはただ笑っているだけでしょう?』
初めはお嬢様が何の事を言っているか分かりませんでした。
『私はちゃんとアイシャに笑いかけているいるのよ。私は貴方の前に立ってしっかりと見ているよ?アイシャはいつになったら私を見て、本当に笑いかけてくれるの?』
お嬢様は私が誰にも心を開いていないのに気がついていたのです。
『う〜ん。ねぇアイシャ、私が今からアイシャに楽しい世界を見せてあげるわ!屋敷から脱走するのを手伝って!たまには悪い事をしてもバチは当たらないと思うの!この事は私とアイシャの秘密よ』
戸惑う私をお嬢様は引っ張って外に連れ出されました。
それから、お嬢様は心の底から楽しそうに私へ話しかけ、領地の事を一生懸命に私に教えてくれます。
同じ転生者なのにこの世界を楽しんでいるのが分かります。
そして、お嬢様と見る世界はいつもの色褪せた世界では無く、色鮮やかに映るお嬢様と見る新しい世界でした。
どういう意図で私に話したのかは分かりません。ですが、あの時、差し出された手によって私が救われたのは確かです。
初めて誰かから必要とされ見てくれたのです。
だから、私はお嬢様の全てを奪います。
「兵たちは居らんのか⁉︎何がどうなって居るんだ!何故だ!何故誰もいない!何故全滅している!」
「父上!降伏しましょう!俺たちは帝国貴族の由緒あるディスピア家の者だ!貴様の勝ちだ。俺たちを捕虜にするがいいさ!」
主犯の貴族を残して全て始末を終えました。生き残って居るのは後2人のみ。
「何を言っているのです?何故私が貴方たちを生かさないといけないのですか?貴方たちは仲良く旦那様と戦争ゴッコでもしていたら良かったものを私のお嬢様に手を出してしまったのですから生かす理由がありません」
そう答えると狼狽え息子は私に命乞いを始めます。
「俺たちはディスピア家だぞ⁉︎金なら沢山ある!なんなら欲しいものを集めてやる事も可能だ!俺たち帝国貴族ならな!そうだ!なんなら貴様を雇ってやってもいいぞ!それに俺たちが死んだら帝国が黙っていないぞ!」
必死に言う姿を見て私は薄ら笑いを浮かべます。
「それは好都合です。旦那様から帝国を蹂躙するなと命令されてましたし帝国には興味はありませんでした。ですが私のお嬢様に手を出したとなれば話は別です。1匹残らず奪い尽くしてあげますよ」
そう言って短剣を向けると息子は小さく悲鳴をあげる。
「いいか。我々を殺しても必ず蘇って貴様を殺してやる!絶対だ!クソがっ!」
「ふふっ、アンデットになったらもう一度殺してあげるから安心しなさい」
私の言葉を黙って聞いていた父親が口を開きました。
「命だけは助けてほしい。其方の大事な姫は丁重に扱っていた。殺す気もなかった。我々とてグラウザム家当主の怒りを買いたくはない。だからーー」
「……へぇ〜、面白い事を言いますね。ですが良いでしょう。1人は助けてあげましょう。確かに皆殺しにしてしまうより忠告する者を残すのもありですね。ではないとお嬢様にまた近づく輩が再度現れるかもしれませんものね」
そういうと父親の方がならばと口にして話し出します。
「わ、私だけでも助けてくれ!」
父上!と息子は突然の父親の裏切りに声を荒げます。私は2人に笑顔を貼り付けて、話しを続けます。
「では簡単な問題を出しますので答えて下さい。正解したら殺さないであげましょう」
そう言うと一呼吸置いて、私は問題を言います。
「犬はワンワン、猫はニャーニャーと鳴きますが人間はどの様になきますか?5秒でお答え下さいませ」
私の問題に2人は恐怖の表情を貼り付けて沈黙してしまいます。そのまま、5秒経ちましたので父親に近づきます。
「時間終了です。では、正解はーー」
にっこりとほほ笑みながら、私は左手の短剣を父親の足に素早く突き刺します。私からの攻撃を受けると最大20倍の痛覚を感じる事が出来るスキルがあります。叫ぶ前に気絶されては困りますので今回は5倍です。
「ぁんぎゃぁああぁあぁあっ⁉︎いんぎぃっ⁉︎あ、あぁあぁぁあ!」
凄い悲鳴が響きわたります。
グリグリと捻るように動かしてあげると途中で意識を失います。ヒールをかけて叩き起こし何回も繰り返してあげると、悲鳴も段々と弱くなり、数分もしないうちに反応しなくなりました。
「ん〜、痛覚の倍数減らしたのに思ったより壊れるのが早かったですね。二人共不正確ですがお父様の方は壊れたので貴方は生かしてあげます。ほら喜びなさい。見逃してあげます。さぁ行きなさい」
そういって彼の身体に移転のスキルの座標の印をつけます。
「お、俺にな、何をした!」
「何時でも貴方の元に行けるようにしました。だから、貴方が嘘の報告をしてもすぐに分かりますよ?」
ひぃっ⁉︎と声をあげ、ヨロヨロと歩き出し逃げ出します。
まだ増援が来るまで時間がありますね。
この世界の争いは優しすぎる。
元の世界ではもっと残忍な出来事は沢山ありました。
一つ例を挙げましたら、前世での串刺し公の話は有名です。
えぇ、丁度いいモノが沢山転がってますので再現が出来ますね。
増援の方々に私の知る世界の一部を紹介しましょう。
「アイシャの名で命ずる形あるモノよ、動き自らを串刺し地面へ貼り付けよ」
そう命ずると何千の屍は動き出します。帝国貴族の息子は突然動き出した屍たちを見て、私を見て声にならない悲鳴をあげて走って完全に逃げ出しました。
後は勝手に事が終わってます。
全てを終えた私はお嬢様の元へ戻りました。
結界を解き、お嬢様の眠りの異常状態を回復させるとゆっくりと目を覚まします。
お嬢様はまだ頭がぼうっとしているようです。
「大丈夫ですか?お嬢様」
私が話しかけるとお嬢様は少し目が覚めたようです。
「ダイ達はどうしました?」
「申し訳ありません。彼等はお嬢様を守りきれずに死にました」
私の言葉を聞いて、そうと呟くと悲しそうにします。
「ですが、こうしてお嬢様が無事だったのなら彼等は報われます。彼等ならお嬢様が悲しむ顔より笑顔でいて欲しいと願っていると思いますよ」
お嬢様は薄暗い部屋で頷き、少しの沈黙が続きます。
私が動こうとした瞬間、お嬢様は何かを思い出したように探します。そして、何かを見つけホッとします。
「あのね、いつも一緒に居てくれるアイシャの為に買い物していたの。一目見てから、この色はアイシャにぴったりだと思ってね、店主に無理言ってミサンガにして貰ったの。アイシャにはいつも感謝しているのよ。私からのプレゼントを受け取ってくれる?」
いつもそうやって私へ優しくしてくれます。私はもう、お嬢様から離れられないです。
お嬢様は藍色の糸で作られたミサンガを出します。私の瞳の色と同じです。
私は笑顔で答えます。
「お嬢様、ありがとうございます。私の持ち物に付けさせて頂きますね」
そう答えるとお嬢様は私の右手に渡そうとした瞬間固まります。
「ア……イシャ?み、右手が、右手がありません!どうしたのですか⁉︎」
そう言えば、お嬢様の事が心配だったのと時間が無かったので放置していました。右手を再生するのを後回しにしてしまったままでした。
私はどう説明しようと考えていたら、お嬢様は一生懸命に私にヒールをかけてくれます。
そして、ごめんなさいと泣いてしまいます。
「お嬢様、私は大丈夫ですよ。すぐに元どおりに出来ますし、これ位では死にませんので。これ以上魔法を使うと魔力切れをおこしますから止めて下さい」
そうお嬢様に言うと辛そうな表情で言葉にします。
「そう言う問題ではありません!貴方も私の大切な人です!アイシャが私の為に右手を失ったのに私は何もしてやれないのですか!どうして私はこんなにも無力なのですか!ヒール!」
何度も何度も魔法を繰り返し使い、とうとう魔力切れをおこしてしまいお嬢様は気を失ってしまいました。
だから、言ったのですが仕方ありませんね。
私は自分にリーフヒールをかけ、右手を再生させると両手でお嬢様を抱き抱えます。
きっと帰ったら右手の事を聞かれるでしょう。
今なら私がお嬢様と同じ存在だと伝えてもいい気がします。
お嬢様に私も転生者だと打ち明けましょう。
お嬢様の反応が楽しみです。
……。
………………。
…………………………。
「ーーシャ?アイシャ?」
ふと目を開けるとお嬢様が私を覗き込んでいました。
「珍しいわね?アイシャが眠っている姿を見せるのは」
……懐かしい記憶を思い出しました。あの後、私はお嬢様に転生者だと打ち明けましたけど、で?っと一言返されて会話が終わったんでしたね。良い想い出です。
そう言えば、帝国貴族を軸にして、帝国の城に忍び込んで皇帝たちを散々脅したら2週間もしないうちにあの帝国貴族は自殺しちゃいましたね。
旦那様もあの件は触れずに私をお嬢様の側に置いてくれます。
そして、私を影の部隊ドローミに配属させる事で私に鎖を付けたと思っていましたが壊すのも出し抜く事も簡単です。
「そうですね。たまには気を張らずにお嬢様の隣で眠るのも良いものですね」
本来なら自身の優秀な炎属性を特化させて、灼熱のシュアと呼ばれる筈だったお嬢様は私の右手の怪我以来、炎の魔法では無く、治癒の魔法を欠かさずに鍛錬されてます。光属性だったのがいつの間にか聖属性に上位属性へ変化させてしまうほど努力されてました。
今回の騒動はあの出来事が全ての事の始まりとも言えるでしょう。
あの日以来、帝国と8年間も停戦が続いてます。
お嬢様が学校に入学すると共にお嬢様をこの国から離れさせる動きがありました。あの出来事で帝国はお嬢様を完全に危険視して、恐れています。
それに王族を操りたい西の国は男爵令嬢の恋を応援するフリをして様々な事を国内に仕込んでます。
男爵令嬢もお嬢様を灼熱のシュアと呼んでいましたし、あの物語での出来事を有りもしないのに噂に流していましたので彼女も同じ転生者でしょう。そのおかげでお嬢様は無実の罪で僻地行きになったのですから感謝はします。
あの王子と男爵令嬢が婚約したら、この国は崩壊に近づくでしょう。
様々な思惑が重なりあって一つの事象に絡み付き、今回の出来事に繋がりました。
私はただお嬢様に不利にならないように利用し纏めただけです。
「お嬢様は殿下を本当にお好きでしたのでしょう?この結果で良かったのです?」
初めから王子によってお嬢様が貶められるのは知っていました。
ですからその前に私がお嬢様の為に王子の周りを処理しようと考え動きました。しかし、もう男爵令嬢へ心変わりしていて、既に手遅れでした。
お嬢様は人前では見せませんが今回の件は落ち込んでます。
よって王国は私の敵です。
旦那様にもお嬢様を任せる事は出来ません。
だから、私は王国からお嬢様を奪いました。ですが、旦那様は私の思惑に気づいていたようですね。
アレだけお嬢様の不利にはならないけどグラウザム家には不利になるように仕向けたのに旦那様はお嬢様を手放さなかった。あの出来事があったからでしょうね。
「最善を尽くしてこの結果だったのが私は不満がありますが」
ですから、ちゃんとお嬢様には伝えておきます。
本来なら旦那様からもお嬢様を奪える予定でしたので。
「それにしてもお嬢様は殿下に相当嫌われていますね。僻地へ送るだけじゃ飽き足らず、宗派の破門と来ると死ねと言っているモノですね。ーーー」
そこまで堕ちた王子には同情の余地はないです。何をやっても破滅の未来はもう逃れられないですし、男爵令嬢も西の国の仕込みで全てが勝手に潰れるでしょう。取り巻き達も騒動に利用されたとはいえ、引き返す選択肢はありました。しかし、それを選ばずに私のお嬢様に危害を加えようとした代償は高くつきますよ。
「私が動いてお嬢様の冤罪に気がついている者は割と多いようですよ。ーーー」
だから、私が皆様の為に舞台をそれぞれ整えました。
私とお嬢様は舞台の外側《僻地》にいますので皆様はちゃんと楽しんで私の用意した断罪に参加して下さいね。
だって、私は人から奪う事しかできないのですから。
皆様からも全てを奪わせて頂きます。
それに本当ならお嬢様の侍女は私ではなく違う方です。その場所も私が奪ったのです。
お嬢様からは悪役としての役割を奪い、王子との婚約を奪いました。そして、友人から奪い、グラウザム家から奪い、王国から奪いました。
僻地では私が居ないとお嬢様は生活出来ません。何故なら旦那様でさえ、生きていけるか怪しい場所なのですから。
私はお嬢様から守られた安全も奪いました。
ですが、安心して下さい。
お嬢様はずっと側に居ます。だから、誰にもお嬢様を奪わせません。
奪っていいのは私だけです。
今回付いてきたアラン様もお嬢様がまだ貴族の柵がある為、見逃してあげますが警告は欠かさずに向けます。
場合によっては不幸に遭ってもらいましょう。
あぁ、僻地に行くのが楽しみです。
何故ならーー
「これから行く僻地には人が住んでません」
やっとお嬢様を私のモノに出来るのです。
ずっとずっと欲しかったもの。
お嬢様の全てです。
まだ邪魔なモノがありますが概ね良好です。
私1人で見る世界はいつも色褪せています。ですがお嬢様と共にいる限り私にも世界に色が広がり綺麗な世界です。その世界が私を人として居させてくれます。
短剣の柄に巻いた藍色のミサンガはお嬢様から初めて与えられた物。
私を縛り付けようとした者は何人も居ました。どんな鎖でも私は壊してしまいます。
ですが、お嬢様から頂いたこのミサンガはずっと壊れる事なく私の半身に巻きついてます。
このミサンガがある限り私は化物ではなく人としてお嬢様の側にいる事ができます。
私は何もかも奪って奪って奪い尽くす化け物です。でもお嬢様はそんな私も受け入れてくれます。
お嬢様が居ないと私はただの奪うだけの化物です。
だから、お嬢様。これからも私アイシャ・フローズヴィトニルを支配して下さいませ。
力には代償があります。アイシャさんは奪う事しか出来ません。
シュアは知らずにそれを受け入れてます。
シュアからしたら与えられたと言う印象です。だから、2人は上手くいってます。
そして、アイシャさんはなろうで良く登場する嫌われ者転生者です。
そして、婚約破棄の真相です。
それぞれの思惑が重なっています。
王子にヒロインと取り巻きに加え、帝国と西の国の陰謀にアイシャも加担して、他にも話が進むと新しい思惑が分かるかもです。
アイシャさんを上手く文章に纏めれた自信が無いのですがアイシャさんの事が皆様に理解して頂けたらいいなぁと思います。
人物紹介と設定をお仕事が終わったら投稿しますね。
私の未熟な文章を呆れずに物語を楽しんで頂いてありがとうございます!




