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第3話 護衛(エスコート)の仕方

 そもそも、なぜあの邪神フィースは、やたらにトラックにこだわって俺を殺しに来たのだろうか。

『いくら神と言っても、無から結果を作り出せるわけではない。お主の死と言う結果の為には、それなりの事実が必要なのだ。その為に、トラックは街中において確実な殺傷力と、命中のさせやすい道具と言う事だろう』



 バイクじゃダメなんですか?

『完全な憑依(ひょうい)は難しいからの。自動二輪では、かなりの速度と正確な軌道修正が必須(ひっす)になる。乗用車も威力の問題で、法定速度では意外に死なないものだ』

 じゃぁ、工事現場で鉄骨が降って来るとか?

『鉄骨を持ち上げている工事現場を、見た事があるのか?』

 ……言われて見れば、全然見かけませんね。

『不景気じゃからの』

 しかも、地方なのでなおさら高層ビルなんか増える予定はなさそうだ。



 でも、小型トラックのこだわり様はなんなんですか?

 大型トラックでも、ダンプカーでもいいじゃないですか。

『その辺は車両数の問題だろうの。小型だと普通免許で運転できるから、日本国内で最も多く走っているトラックになる。それに、大型トラックだとお主もかなり遠くから警戒(けいかい)して車道から離れてしまうだろ?』

 なるほど……。確かにその通りですね。

 タンクローリーとか、あれでアタックされたら大参事間違いなしだから、見かけた瞬間に路地に走って逃げますよ。



 あぁ、でも即死転生系の物語なら、幼馴染(おさななじみ)とか、妹に殺される系もありますよ?

『お主は地元から離れてしまったではないか。距離的に数百キロ離れていると、そこまで特定の人物を誘導するのは、相当困難になる』

 そっか、俺が高校入学と共に、地方に引っ越した事がそんな形で、俺自身を守っていたのか。



「ちょっと、聞いているの!」

「おわ!?」

 突然の女の子の声に驚いてしまった。

 放課後の教室で自分の席に座ったまま、アマテラス様との脳内雑談に盛り上がっていたせいで、目の前の相手に意識が向いていなかった。



「す、すまない。ちょっと考え事をしていた」

「考え事ってあなたね! ガン無視しているかと思ったわよ!」

 かなりご立腹の様子で、俺の机に手を付いて女子生徒が抗議していた。

「ゆ、悠美(ゆみ)ちゃん。もういいよ……」

 そう言って、後ろから悠美(ゆみ)ちゃんとやらを止めようとしているのは、昨日出会った、井の頭公園じゃなくて、えーと…………。



「あぁ、いや、本当にごめん。悪気はなかったんだ。つい、ぼーっとしちゃう事が多くて。本当にすまない」

 今度からは、アマテラス様との脳内会話は、周りに人がいない時にしよう。

 携帯をなくすと、ちょっとした会話も意識ごと持っていかないと出来ないのは不便だ。やはり、携帯電話はこの後買いに行った方が良さそうだな。



「そうなの……? で、メールは見たんでしょ?」

 あまり納得していない感じの悠美(ゆみ)ちゃんが、もう一度俺に質問してくる。

「メール? あぁ、ごめん。昨日、携帯を壊してしまって、確認できないんだ」

「…………携帯、壊したの?」

 なぜか、悠美(ゆみ)ちゃんが見事にまでな不機嫌オーラを全開にしていた。

「あ、あぁ……」



「あなたね! メールを読んだけどメンドクサイからって、いい加減なこと言っているんじゃないでしょうね!!」

 叫ぶなり、俺の襟首(えりくび)につかみかかって来た。

「な、なんの話だよ!? 携帯が壊れた事は本当だぞ!」

「はぁ!? ずいぶんと都合よく壊れる携帯があったものね!」

 完全にお怒りモードで、俺の方は何に怒られているのかさっぱりだった。



「いいよもう、悠美(ゆみ)ちゃん……。私が、悪いんだから…………」

 止めに入るなり、なぜか彼女が目に涙をたたえていた。

「ど、どうしたんだよ。なんで君が泣くんだ!?」

「しらばっくれるの!? 携帯が壊れたなんて嘘までついて!」

 悠美ちゃんの両腕にますます力が入っていた。



「な、なんで、俺がそんな……嘘を吐くんだよ。この後、買い替えに、行こうと、思っているのに」

 ちょ、マジ苦しい。悠美(ゆみ)ちゃん本気すぎ……。

「今日、買い替えるの?」

 と、悠美ちゃんの腕から力が抜けた。

「そ、そうだよ。なんで、そんなに疑われてんだ?」

 言いながら、俺は鞄の中からコンビニ袋に入れた携帯電話の残骸を取り出した。

 正直、ここまで見事に壊れていたら、使わなくなった携帯を返す事に意味があるのかもよく分からなかったが、分別して棄てるのも面倒だったので持って来ていた。



「うわ! なにこれ!? どうやったら、こんな壊れ方するのよ!」

 ビニール袋の中身を見た悠美ちゃんが、驚きに声を上げていた。

 ちょっと落として割ったとかそういうレベルじゃなく、粉砕されているので、確かに驚くだろうな。

「い、いや、ちょっと……俺の代わりにトラックに()かれてしまって」

 く、苦しい言い訳!

 自分のことながら、嘘が下手くそすぎる。



「あ! 昨日のあの時の? そうだったんだね……私、気が付かなかった」

 と、昨日の彼女が納得顔で涙を引っ込める。

 えぇ、あの時点では俺も気が付けなかったので、問題ありませんよ……。

「え、なに? 昨日、トラックに轢かれそうになった時の事?」

「あぁ、そう。その時にね」

 邪神が腹の立つメール送って来たから、つい。



「しかし見事に壊れたわね。さすがに、素手で出来るレベルじゃないわね」

 ……なぜこんなに疑われなきゃいけないんだ。

「良かったね、彩羽(いろは)

「うん……」

 お、やっと名前が出てきた。

 昨日のこの子は、彩羽(いろは)と言う名前らしい。

 じゃぁ、苗字が井の頭だったのかな?



「そういえば、彩羽(いろは)さんって、苗字は何て読んだらいいのだっけ?」

 よし、苗字は知っているけど、読み方だけ分からないよ! と言う(ふう)(よそお)ったぞ!

「なんで、簡単な字が読めないのよ……」

 うぉぉ、悠美(ゆみ)ちゃんに全力で疑われている。

吉祥寺(きちじょうじ)だよ。吉祥寺、彩羽(いろは)です……」

 ……あかん。フルネームを教えてくれている。

 名前、覚えられていない事がバレバレのもよう……。

 しかも、井の頭公園どこにも関係ないし。



「まぁ、いいわよ……」

 なぜか悠美ちゃんから、お許しをもらった。

「携帯買い替えに行くのでしょ? なら、私たちも付いていって良い?」

「ダメだ」

「おい、こら! なぜ即答した!!」

 再び()め上げてくる悠美ちゃん。



「い、いや、これは、その。と、トラック事故に巻き込まれて、危ないと言うか!」

「ふざけるのもいい加減にしろよ! 言いたい事があるなら、はっきり言え!」

 言いたい事は、今、言ったんだけどな!

 しかも、吉祥寺(きちじょうじ)さんがまた目に涙をたたえ始めている!?

「と、とにかく、大勢で街中を歩くのは危険だから、ダメなんだよ!」



「まだ言うか! ……大勢じゃなければいいの?」

 守る人数は少なければ少ない程良い……。

「そ、そうだな。一人なら、なんとか大丈夫かもしれない」

「言ったわね! じゃぁ、彩羽(いろは)が着いていくわ!」

 うぐ……。

 出来れば、誰も連れて行かないのが一番なのですが。



「え! 私!?」

「他に居ないでしょ。……それに、チャンスじゃない」

 女子二人は、何やらこそこそ話しているし、なぜ俺の携帯電話がそんな注目を集めているのか意味が分からなかった。

「けど、天宮(あまみや)!」

 びしっと、悠美ちゃんが俺に指を差してくる。

彩羽(いろは)を泣かせるような事をしたら、あらゆる手段で復讐(ふくしゅう)するから覚悟しなさい!」

 あらゆる手段……。

 俺の脳内で、この三ヶ月間に襲ってきた数々の命の危険、な思い出が()(めぐ)った。

 最悪の走馬灯(そうまとう)だ……。



「わ、分かった! 吉祥寺(きちじょうじ)さんは、俺が全力で守るよ!」

 あの、年増邪神フィースの殺意の波動から、きっと守って見せる!

「ま、守る……っ!?」

「そ、そこまで言うとは、あなたも覚悟が決まった様ね……」

 吉祥寺(きちじょうじ)さんも、悠美(ゆみ)ちゃんさんも、驚いたようにそんな言葉を発していた。

 確かに、俺は少し覚悟が足りなかったのかも知れない。



 もし、この邪神の呪いを背負いながら、青春的なナニカをしたいと思うのならば、いつかは必ず通らなければならない道なのだろう。だとしたら、いつまで逃げてばかりではダメだ。

 全力で俺も生き残りつつ、周りの人々を守り抜くだけの力が必要だ。

「すまない。俺が甘かったんだ。きっと、守り抜くための力を、俺は身に付けてみせるよ!」

 立ち上がりつつ、邪神の呪いをまだ知らないとはいえ、吉祥寺さんに俺はそう宣言した。



「天宮くん、言うじゃない!」

「なんだよ、翔! お前、熱い奴じゃんか!」

「人を遠ざけているから、根暗なのかと思ってたわ」

「ちきしょうめ! 末永く爆発しやがれ!」

「俺達も、仕方ねぇから応援してやるぜ!」



 気が付けば、まだ教室に残っていた同級生達に囲まれていた。

 みな、俺達を励ましてくれていた。

 爆発だけは、なんか呪いの様な気がするが……。

 たかが携帯を買い替えるだけなのにこんなに応援を……いや、これは俺達と邪神フィースの戦いなのだ!

「みんな……。ありがとう! 俺も、全力でこの平和な日常を守ってみせるよ!」

 有り難い同級生達に、俺は(ちか)った。



   ***



 そして、気張(きば)って繁華街に出てきた分けだが、今日ぐらいは邪神のトラック攻撃は来ないだろう。

 ここ連日の連続攻撃や、一昨日の連続即死コンボは相当に力を使っているはずだからな。向こうもかなり必死なようだ。

 そもそも、あれだけの力があれば、邪神フィース自身が人々を助ければいいのに。

 いや、恐らく人間の精神や事象にちょっと干渉するぐらいじゃ、太刀打ちできない相手なのかも知れない。



「…………」

 そう考えると、幾ら邪神と言えど、俺が勇者になるのを断るのも悪い気がしてしまう。

 いやいや、いや!

 惑わされるな。

 相手は、いきなり殺しにかかって来た邪神フィースだ。

 きっと、いくつもの世界から勇者を拉致(らち)ってきては、ブラック企業のごとき使い捨て状態で奴隷(どれい)就労(しゅうろう)させるに決まっている!

 だが……、もし本当に大勢の人が死ぬほどの危機に(ひん)していたら…………。



「ね、ねぇ。翔くん?」

「あぁ。ごめんな、なんか携帯の買い替えなんかに付き合わせる事になってしまって」

「うんん。気にしないで……」

 全く。吉祥寺(きちじょうじ)さんには昨日から迷惑かけっぱなしだった。

 しかも、邪神の精神攻撃かと勘違いして、酷い態度をとってしまったし。

 あれ?



 忘れていた……。

 そ、そうだ。

 邪神の攻撃ではなかったと言う事は、

『別に……、翔くんなら…………嫌じゃないから』

 あれは! どういう意味だったんだろう!?



 恐る恐る吉祥寺さんの方に振り向くと、少し背の低い彼女が、見上げるようにこちらを見つめていた。そして、視線が合うと慌てて目をそらしている。

 微かに、頬を赤らめながら……。



 こ、これわぁ!?



 落ち着け自分。

 まずいぞ。

 初めてのトラック攻撃を受けた時ぶりに、俺の心臓が暴れている!?

 こんな冷静さを失った時に襲われたら、非常にマズイ。

 俺は必死に意識を集中させながら、周囲に視線を走らせる。



 大丈夫だ。

 ここは大通りの繁華街だが、ガードレールも街路樹も、地中電線用の変圧器も歩道横にあるので小型トラック程度なら、回避する手段が豊富だ。大型車両も特殊車両もくる気配はない。

 周囲に幼女の存在も感じない!

 いや、まさか!

 瞬間、俺が空を見上げた時には、既に間近まで影が迫って来ていた。

 しかも、姑息(こそく)な事に狙いは俺ではなく、吉祥寺さんの方だ。



「危ない!」

 下手に突き飛ばすのも危険と判断して、俺は吉祥寺さんの頭を抱き込んだ。

 即座に、頭上に魔力障壁を集中、展開させる。

 そこそこの質量を持った物体が魔力障壁に激突すると、陶器(とうき)の砕け散る音と砂が飛び散る。

「きゃぁ!」

 吉祥寺さんが悲鳴を上げていたが、何とか間に合った魔力障壁のおかげで、降ってきた植木鉢は防ぐことが出来た。



 しかし、植木鉢程度では俺を殺せるわけ、もっ!?

 油断した俺が魔力障壁を解除した瞬間だった。

 植木鉢の残骸が地面に落ち、再び上方が見えた時、今度は明らかな刃物が降って来ていた。

「タンデム弾頭おぉぉ!?」



 解除した魔力を集め直す暇はなかった。

 俺は生身の全力で、吉祥寺さんを抱えたまま地面に体を投げ出す。

「ぐあ!」

 しかし、全く間に合わず、降ってきた包丁が俺の左肩に突き刺さっていた。

「あうっ!? ……翔くん? 大丈夫?」

 ともに倒れ込んだまま、吉祥寺さんが心配して聞いてきていた。

「あ、あぁ。吉祥寺さんも、怪我はないか?」



 不覚をとった。

 大質量で力を使うトラックが無理なら、小さい質量でお手軽な攻撃手段に切り替えてきたようだ。

 俺は急いで起き上がりながら、頭上を確認する。

 流石に、次はなかった。

 いや! 今度は水平方向からか!?



「…………」

 周囲を確認したが、どうやら、攻撃は終わっているらしい。

 そろそろ、アマテラス様が察知(さっち)する頃だから、忍び込んだ邪神を叩き出してくれるだろう。

「翔くん! か、肩に包丁が!」

 怪我もなかったのか、立ち上がった吉祥寺さんが青い顔をして俺の左肩を指さしていた。



 確かに、同級生が肩から包丁生やしてたらショッキングだろうなと思う。

 トラックにひき殺されそうになり過ぎたので、無駄にショッキング耐性上がってきている自分に愕然(がくぜん)とする……。

 そう言えば最近、痛みを我慢するのも慣れてきているな…………。

 ついこの間まで、鉄片一つが刺さったぐらいで、泣き(わめ)いていたんだけどな。

 今は、泣き喚いていると、連続即死コンボの餌食(えじき)になる事が分かっているので、気合で我慢している。

 勿論、我慢しているのであって、すげー痛い事に変わりないけど。



 肩に刺さっていた包丁を、無造作に引き抜いて、歩道横の生垣の中に投げ捨てる。

 これは、邪神フィースのやった事なので、包丁を落とした人に罪はない……。

 俺はショックを受けている吉祥寺さんの手を握ると、何事もなかったようにその場を後にした。

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