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NPC92

 目が覚める。

 正確に言うなら熱量に目が覚めた。

 何かが俺の身体に寄りかかっていた。

 不愉快なら振り払えば良い。薙ぎ払えば良い。叩き潰せば良い。

 だが、それは不快じゃなかった。

 生温かいからだが俺に覆いかぶさっていた。

「・・・誰だ?」

 場合によっては殺すレベルだ。もっとも、気付けなかった俺の方に問題があるんだけどな。

 そして、知る。

 俺に覆いかぶさっていたのはローゼだった。

 金色の豊かな髪に整った顔立ち。そして、視界に映るのはしなやかな体と豊満な乳房。それだけで俺の脳髄は沸騰しそうになる。

 いや、だって・・・こんなもの見たことないからな?

 しかも、へそになぞるラインもひたすらに細い。

 なおかつ、見せてはいけないものが色々見えている。

「おい」

 俺の声は弱い。状況が理解できていないからだ。

「私にはこれくらいしかできないのだ」

 頭上からの声だ。

 どこか泣きそうな声。

 俺はどうするべきなのか。

 まあ、ここで突き飛ばしたりするのは最悪の選択だってことくらいはわかるが、ほとんど何も知らないような人間とどうこうするほど飢えてもいない。それに、俺は・・・あいつのことが忘れられないんだ。だから、

「離れろ」

 言葉で突き放す。

 それだけでローゼは傷ついたような表情を浮かべて身体を離すが、それはローゼの都合であって俺には関係ない。

 しかし、いたたまれなかったから、傍らにおいていた毛布を渡して裸身を隠してやる。

「す、すまない」

「別に謝ることじゃねぇだろ。ところで他の二人はどうした?」

 聞いてみれば別の宿舎に移動してもらったようだ。

 とはいえ、ベッドの対面に座るローゼを改めてみる。

 暗闇の中でも顔を真っ赤にしていることもわかるし、短い時間で接しながらも、こんなことをするような人物とは思えなかった。しかも、こんな恥じらい方からして経験すらないのだろう。

 まあ、人のことはまったく言えねぇけどな。

「で、何のつもりだよ?」

 少なくとも一目惚れの可能性はないだろうし、考え付く可能性としては懐柔かなんかといったところだ。

 そう思いながら視線をローゼに向ければ、ようやく彼女と視線が交わる。そして、そのふくよかな唇が開き、

「私の婿になって欲しいのだ」

 予想の斜め上からの答えが返ってきた。


 自分で言いながら顔に熱が集中することを自覚する。そもそも、順番が逆だったのだ。自分の願いを伝えた後に身体を重ねるなら何の問題もないだろうし、いや、婚前でそういうのもどうかとは思うが、今はそこまで堅苦しいことでもないという話は聞きつつも・・・いや、そうじゃない。思考が暴走している。

「・・・なんで婿なんだ? つーか、俺は法国入れねぇって言っただろうが」

「そ、そこに関しては何とかなるのだ」

 事実だ。

 私は貴族であり騎士である。

 兵士は戦うためのものであり、衛士は守るために存在する。そして、騎士という役職は民を守るだけでなく、戦うためだけではなく、罪人を裁く権利を有している。

 つまり、複数の権限を持つ私は、この男の持つ罪を裁く、もしくは許す権利を持っているのだ。もちろん、罪の重さによっては相応の裁きを受けるか、その罪を返すための就労を果たさなければならないのだが、ともかく私は彼を許すことができ、結果として法国に入れることができるのだ。

「ふーん、そういうもんなのか」

 私の説明に納得はしてくれたようだが、続く質問はもっともなものだ。

「んで、なんでテメェは俺を婿にしたいとか言うわけのわからんことを言ったんだよ?」

 そこに関してはすごく言い辛い。というかはしたない女と思われてしまう。

「いや、そういうことの直前まで行ったんだから今更だろ?」

 そうやって言葉にされてしまうと自分がどこまでもふしだらな行為をしようとしていたのかと自覚してしまう。

「いいからさっさと言え」

 どうやら苛立ち始めたらしい。背筋に悪寒が走る。

「そ、それはだな・・・」

 十夜殿は気が短い上に男女差別をするつもりはないようだ。

「私が助けられたことに対する礼をと思い・・・」

「余計なお世話だ」

 そ、それは自覚している。

「だが、私とて一人の女。身体を重ねればその男と添い遂げたいと思うではないか」

「一方的過ぎる上に強制結婚エンドって最悪だな」

「仕方ないではないか!」

「逆ギレにもほどがある!」

 もっともな話だった。


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