NPC35
「俺が憎いなら殺しに来い。だが、それができねぇならクソみたいな価値しかない涙流して諦めろ」
十夜が振るった刃から飛び散る血油が地面に広がる。
そして、少女は仇を見るというか仇そのものに憎悪を向けた視線を送った。
でも、彼は破顔する。
「良い殺意だ。でも、全然足りねぇよ。その程度で俺を殺せるのか?」
最低の笑顔だ。
あたしじゃなくても殴りかかりたくなる。でも、
「そんな、小便漏らしながら震えて仇取れんのかよ? それに殴る相手が違うだろうが。俺がテメェを救いにきたと勘違いしてんのか?」
言うなり十夜は少女の頭を踏みつける。少女は悔しそうに歯を食いしばりながら地面に手を当てている。立ち上がろうとしているけど力が足りないのだ。
「ここにいる奴らは皆殺しにしてやる。その後俺を殺したいなら力をつけろ」
くくくと笑っている。完全に悪役だ。というか悪だ。
あたしはもう一度斬りかかろうとして、
「次は殺すぞ主人公」
死にたくなった。
あまりの殺意に自殺したくなる。それだけの殺気にあたしの腰が抜けそうになる。
でも、あたしは足に力を入れて何とか耐える。
「おい、真白」
あたしは歯を食いしばることしかできない。
だけど、次の言葉は予想外だった。
「テメェには人を殺せないようだ」
事実だ。あたしに人は殺せそうにない。
だから、手足を斬るに留めていた。
「だから、俺が全員殺す。後腐れないようにな」
頭を殴られたような気持ちになった。
だって、ここにいる盗賊達は無理に生かしたって、同じことを繰り返す。捕らえて王国に送ったって死刑になるだけだ。でも、それはあたしが直接殺さなかっただけで、結局は同じことなのだ。
あたしが人を殺せなかったから、彼が肩代わりをして・・・しかも、恨まれるような発言までして・・・
「ここまでする必要があったのですか?」
「知るか」
俺は腰を下ろしていた。
周りを見回せば死体だらけだ。
焼いておかないと魔物の餌になって後々面倒なことになる。
一箇所にまとめた上で村の油を奪って焼き払った。
高価な油を手放すのを躊躇ったが、そこは殺意を向けるだけで解決した。
「とはいえ教えておいてやる」
「何をですか?」
燃え上がる死体を指差す。
「生かしておいたら同じことを繰り返す。きっちりぶっ殺して後の憂いを断って置く必要あるだろ」
いつか改心するかもしれない。そんな性善説は必要ない。捕らえて王都に突き出す方法もあるが、そんなことに対してコストをかける必要は一切ない。なら、速やかにぶち殺して灰にするほうがよっぽど効率的だ。
「なるほど、理解しました」
「いや、いきなり順応されても困るんだが」
悪即斬は必ずしも正しいわけじゃないからな?
「ですが、あの少女は十夜のことを睨んでますよ? 今後において後顧の憂いを経ちますか?」
「やめろ。つーか、テメェ出会って数日の俺の思考に染まるんじゃねぇ。俺の考え方は基本的に人でなしだ」
やれやれと首をすくめ俺はどうしたもんかと思考をめぐらす。
このまま集落の復興に力を貸す?
否だ。
あのクソガキだけじゃない悪意が俺に向けられている。まあ、感謝なんて望んでねぇから構わないが野宿するには装備が足りない。
「・・・待てよ?」
盗賊だって常に野宿しながら村を襲っているわけじゃない。つまりは、足もしくは近い何かがあるはずだ。当然馬車で村に乗り込むはずもない。つまりは拠点、もしくは馬車が近くにあるはずだ。
だが、拠点を置くにしろ人数が少なすぎた。なおかつ王都が近いなら場所が特定された時点で全滅は必死。なら、移動拠点が正解だ。
「リーザ、ここを離れるぞ」
「わかりました」
行って俺達が立ち上がれば、真白は慌てたように駆け寄ってくる。
「ちょっと、ここの人達をそのままにしていくつもり?」
「俺らはボランティアするつもりはねぇ。あの盗賊達が使っていた馬車なり何なりがあるはずだ。それを探す」
「それじゃ盗賊と変らないじゃない!」
こいつの頭の中はお花畑なのだろうか?
「じゃあ、テメェは折角あるかもしれない馬車もしくは資源を放置して、この集落の復興を無料で助けてやった上で、一人歩いて先に進むのか? 少なくとも俺はごめんだね。それとも、主人公様はこの村に永久就職して来るかもわからない盗賊に備え続けるのか?」
少なくとも、俺はそんな選択は選ばない。
俺は俺の目的のためだけに動く。




