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NPC24

 集落に辿り着いた。

 そこで話を聞く限りあの奴隷商人は盗賊もかねていたらしい。

 なら、焦って皆殺しにする必要もない雑魚だった。

 とはいえ、王国の騎士団が駆逐するまでに時間はかかったようだから、俺が殺したほうが都合が良かったようだ。

 なおかつ、謝礼がもらえたから良かった。


 宿屋を借りた。

 と言っても、大した設備ではない。部屋とベッドがあるだけどトイレは村の共同トイレだし風呂もない。

 カイル村では共同風呂もあったが、ここにはないようだ。

 問題は目の前にリーザがいるということだ。

「テメェ、何で正座してるんだよ」

「私は奴隷ですから」

 答えになっていない。

「良いからベッドに座れ」

 マットレスすらない薄い敷き布が置かれただけの木の枠組み。だが、正座で足裏の傷を圧迫する必要もないだろう。

 リーザが姿勢を崩そうとしなかったので、無理矢理座らせた。

「申し訳ありません、ご主人様」

「その呼び方止めろ」

 いや、本気で。


 とりあえずベッドに座らせた後に足裏の傷を見る。

 まあ、あれだけ走らせたのだから傷だらけだ。

 もっとも、そんなことに対して反省もなければ後悔もない。こいつの覚悟が見られたのだから、アフターサービス程度の気持ちで傷を見ただけだ。

 村にあった蒸留酒を使って消毒はした。とはいえ、傷口が剥き出しなのは問題なので、皮袋に入れていた布を足首に巻いた上で麻紐を使って軽く縛る。簡易的な包帯処理だ。後は自力で歩くこともできるだろう。

「あ、ありがとうございます」

「俺が勝手にやっただけだ」

 そういって離れれば、宿屋の女将にもらった水桶をベッド前に置き、身体を拭くための布をリーザに手渡す。

「あの、これは?」

「俺は大して汚れてねぇが、テメェは返り血浴びてドロドロだ。それを使って身体を拭いとけ」

 ついでに、代えの服くらい用意しておこう。俺みたいな黒尽くめならともかく、リーザの服は明らかに猟奇的だ。まあ、俺の服も血なまぐさいから洗濯は必要だが。

「え、でも・・・」

「俺は食い物をもらってくる。その間に身支度整えとけ」

 返事を受け取る前に、俺は扉を開いて部屋の外に出る。


 観光目的の村というよりも、収穫した作物を王都に売りにいくという性質の村のため商店のようなものはなかった。そこはカイル村と同じだったが、あそことここの違いは俺が村民であるかそうでないかだ。

 村民であれば衣服くらい貸してくれるのだろうが、俺は完全に余所者だ。

 道を歩いている村人に話しかけたところで不審げな視線でよそよそしくされるだけに終わった。

 くそ、盗賊の変りに皆殺しにしてやろうか?

 なんて冗談を考えてしまう。


 何の収穫もなく宿に戻ったところで女将が俺に話しかけてくる。三十台半ばくらいのふっくらとした女だ。

「どこ行ってたのさ?」

「連れの服を買おうと思ったが、ここにはそういう店なんかないんだな」

 俺の言葉に女将は笑う。

「そりゃそうだよ。ここは王都と違うから基本的には自給自足なんだ。服が欲しけりゃ王都に買いに行くか自分で作るしかないんだ」

「つっても、あんな血塗れのままにさせらんねぇだろ」

 そういえば、女将は頷いてカウンターの上にあった何かを俺に手渡す。

「そういうと思って用意してたんだけど、お兄ちゃんが外に出てってしまったから渡しそびれちゃったんだよね」

 受け取ったのは布製の巻頭衣だ。作りは粗末だが汚れのようなものはなかった。

「生憎こんなものしかないけど、ないよりはましだろ?」

「ああ、すまねぇな」

 短く礼を言って部屋に向かおうとすると、後ろからかけられた声に振り返れば、

「脱がすのはいいけど食事持って行く時までには終わらせとくんだよ?」

「何もしねぇよ!」


 部屋に戻って服を渡してから部屋の外に出る。扉の向こうから着替えが終わったと声がかかり部屋の中に戻ればベッドに腰掛けたリーザがこちらに視線を向けていた。

「なんだ?」

「食事が来るまで時間はありますよ?」

 その言葉をシカトして、部屋中央のテーブルセットの椅子に座る。ちなみにコートは女将に渡して洗濯してもらう事にした。

「テメェはなにを言ってるのか理解してんのかよ?」

「私は十夜の奴隷になりましたから」

 俺は奴隷なんて求めてないんだが。

「それとも不能なんですか?」

「言って良い事と悪いことあるからな?!」

 言っておくが正常だ。

 とはいえ、そんな気になれないのも事実だ。

 なぜなら、女というものを意識した瞬間、俺の意識はカイル村に飛ぶ。

 それだけなら良い。だけど、砕けた入り口に荒れた室内。鼻を刺す血の臭い。

そして、見てはいけない瞳が俺を捉え、

「っ!」

 椅子から崩れ落ちて俺は膝を突く。

「十夜?!」

 目の前が歪んだ。

 意識しなくともまぶたに涙が浮かび喉の奥に酸味を感じる。だが、それ以上に心臓を締め付けるような痛みが何よりも辛かった。

「くそが・・・」

 握り締めた椅子の足をまるで抵抗を覚えず握りつぶしてしまう。

 畜生、我ながらメンタル弱いな。

 だが、こんなもの、胸の奥にある殺意で塗りつぶしてしまえばなんとでも・・・


 ふわりと、何かが俺の身体を包んだ。

 思わず振り払いそうになる。

 だが、それより前に、鼓膜を叩く声と、頭に触れる吐息が合った。

「大丈夫です」

 噛み締めた歯が音を鳴らす。

「俺に触れるな・・・」

「今はそのままでいてください」

 気がつけば俺は頭を抱え込まれていた。

 振りほどくのは簡単だったが、なぜかそうしようと思えなかった。


「何があったか話してくれてもいいんですよ?」

「それこそノーサンキューだ」

 抱きしめられたままそれだけ言う。

 つーか、この体勢やばくないか? 確かに胸は薄いとはいえ、

「何か考えましたか?」

 なぜか背筋がぞっとした。

 だけど、そんなことはおくびにも出さずに、

「そろそろ・・・」

 離してくれ。そう言おうとした直後、扉が開き、

「お待たせ、大してうまくもない食事を持ってきたよー」

 ループしたい。そう思った。




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