NPC16
野営したテントから出て空を見上げた。
まだまだ、朝には早かったけれど、遠くに見える太陽は雲の切れ間から差してすごくきれいだった。
日本にいた頃はそんなことは思いもしなかったけど、ただ、純粋に美しいと思った。
『そんな時に申し訳ないね』
空から声が落ちてきた。そう思った。
上から聞こえるとかじゃなくて、落ちてきた。そう聞こえた。
あたしは頭が悪いから文学的な表現なんてできないけどそう聞こえた。
だからこそ、あたしは空に顔を向ける。
「誰?」
『ふむ。誰と聞かれても、この場合私には答えるべき名前はないのだよ。正確に言うなら言ってはいけないというのが答えであり、これからの君の未来を左右することでもある』
まったく言っている意味がわからない。
『混乱してるかね? それも当然だろう。いきなりわけのわからない世界に叩き込まれて勇者扱いだ。私が君の立場なら、世界を滅ぼすことから始めよう』
もう少し、平和的に生きて欲しかった。
『とはいえ、君の疑問も納得している。何で私なのか? ということだろうが答えは簡単だ』
な、何でなの?
『君の運が悪かったからだ』
即座に剣を引き抜いて空へ投げつけた。
当然、落下して地面に刺さったけど。
『無駄な体力を使ったところで君に意味はあるのかね? それで気が済むというなら私は止めないでおこう。しかし、私としては推奨しない。君の限りある力と体力と運命は今後に向けて温存しとくべきだ。そして、おせっかいかもしれないが、君の疑問は言葉にするべきだ。それに対して私は真摯に答えよう。答えれるべき範囲内という制約は付くが』
あたしは思わず溜息をつく。
『溜息はよくない。幸せが逃げるというからね』
ストレートなのか迂遠なのかはっきりして欲しかった。というか、なんで、そんな俗説まで知っているのだと思う。相手は日本人? でも、そんなことはどうでもいい。あたしは、常に思っている疑問を口にする。
「あたしはどうしたら日本に帰れるの?」
当然の質問。だけど、答えるまでに少しの間があった。
『君は帰りたいのかね?』
「当たり前でしょ」
問われるまでもない。
退屈かも知れない。
だけど、それが何より大切なんだと今は思っている。
友達との何気ない会話。
家族とのたわいない話。
どちらも今のあたしにないものだ。
といっても、家族との会話というのはかなり特殊だけど、あたしはそれを取り戻したいと思っていた。
『なら、君は魔王を倒すしかない。本来ならそれは悪手だ。とはいえ、現状でできることはそれだけだ。だけど言っておこう、それは正解ではないのだ。むしろ、君を追い詰めることになるかもしれない』
どっちよ。
そう思ったけど口にしない。
どちらにせよ、あたしのするべきことは決まっているのだ。
「あたしは必ず日本に帰る」
『うむ。私もそれを期待しよう。だからこそ、助言しよう』
「何を?」
自分でも驚くくらいの冷たい声。
『君はこれから何度も死ぬ。そして、その度に世界は巻き戻る。だけど、君の記憶と経験だけは残り続ける。これは呪いだと思って欲しい。そして、その呪いを君に与えたのは私だ。存分に憎んでくれ』
あたしはどう思ったらいいのかな?
『恨めばいい。殺したいと思うといい。私はそれだけのことをこれから君に課す』
わかったよ。だけど、せめてあなたの名前を教えて、今後の気持ちをまとめるために。
『ふむ、なら伝えておこう。私の名前は・・・・・・・・』
あたしの意識はまた覚醒した。




