NPC11
目を覚ました。
頭に張り付いた木片が鬱陶しい。
だけど、そんなこと構わず台所にあったナイフを手に取る。
「・・・・・」
躊躇わず己の首を切り裂いた。
痛みは一瞬だ。
それ以上に頚動脈を切り裂いたからこそ脳に供給されるはずの酸素が途絶し、暗くなっていく視界と寒さを覚え始める身体に違和感を感じる。
それは恐怖じゃなかった。
ああ、こんなものか。というものでしかなかった。
今までは気が狂うような痛みの中での繰り返しだった。だけど、今回は違う。
しばらく世界は暗闇に包まれた。
そして、俺は、
「・・・・・」
自分の家で倒れたまま意識を取り戻す。そして、視界に映るのは廃墟だ。
あの、クソ野郎の言っていたことは事実だ。
俺はもうあの牧歌的な風景に戻れない。
「は、ははは」
乾いた笑いが漏れた。
万が一があったらと思ってしまった。
当然、それは裏切られた。
「ああ、良かった」
本当にそう思う。
俺はこの煮えたぎる殺意を忘れなくて良いらしい。
良かった。本当に良かった。
だけど、なぜか涙が流れた。
ひとしきり泣いた後、俺は立ち上がった。
いつの間にか沈もうとしていた夕日が目に染みる。
だけど、今はどうでも良い。
立ち上がった俺は呟く。
「ステータスオープン」
固有名 吹雪 十夜
職業 //
レベル//
ステータス
力 0
体力0
素早0
知能0
魔力0
固有スキル
/////。輪廻(擬似)。殺意拡散。
レベルが消えた。
ステータスはむしろ下がっていた。
というかまったく気にしないが。
固有スキルっていうものが気になる。
斜線はともかく輪廻って言うのは主人公でないらしい俺の繰り返しのことだろう。とはいえ、擬似っていうのはどういうことだ?
まあいい、その後の殺意拡散というのは納得できる。
俺の殺意が極まった時、シルファは気配を感じていた。要は威圧の気配を撒き散らすようなものだ。
でも、それだけだ。
大した能力じゃないようだな。
だけどなにより、俺の名前はカールじゃなかった。
シルファの馬鹿は何を思って俺の名前を間違えたのか。
でも、そんなことすらどうでも良い。
俺は村を漁る。
どこぞの勇者だと思ったが、何かを得ないと始まらない。
現時点ではデスサイズも砕けている。
素手では何かにしろ限界がある。
だから、武器と防具を探す。
結果としてろくなものがなかった。
所詮は街路の途中にある村だ。金だけは手に入った。お前に倫理観はないのかという脳内突っ込みが入ったが、そんなのは知ったことではない。死人に金は必要ない。生き残った俺はこれを元手にどこかで武器を手に入れるしかないだろう。
衣服はいくらでもある。もっとも交換したものは黒く染め直したが。
そういえばあまりにもどうでも良いが髪の色が変わっていた。
あまりの体験に髪の色が変わることがあるらしいのは書物で知っていた。
大体は白く染まるらしい。
だけど、俺の場合は違った。
元々は黒髪だった。
なのに、俺の髪は色素が抜けて金髪だった。
なんだよ、この中途半端。
金の髪で黒尽くめの痩身。マントがなかったので代わりにロングコートを着込んだ。
まるでハロウィンの仮装のようだ。ん? ハロウィンてなんだ?
まあいい、武器も防具もないが準備は整った。
俺の家には屋根がないので長老の家を目指す。なんせ、あそこは宿屋代わりになるらしいしな。
なぜかデスサイズが存在した。砕け散ったはずなのに。
なんにせよ、武器があるのありがたい。とはいえ、これから進む上で武器を抜き身で持っているのはよろしくない。当て布を用意した上でそれを刃部分に巻きつける。本来なら鞘の一つもほしいところだが残念ながら存在しない以上はこうするしかない。
とはいえ、今日はもう休みたかった。
色々な意味で疲れた。
長老の家は宿屋の変りになるというだけあって大きなベッドがあった。当然、屋根も無事だ。
なんとも埃っぽいベッドに身を横たえながら俺は考える。
どうすれば良い? どうすればあのクソ野郎を殺せる?
殺意だけなら満タンだ。
だが、届かせる手段が欲しい。
とはいえ、それが思いつかないのも事実だ。
「待てよ?」
シルファのクソ野郎は俺のことを主人公じゃないといった。なら、逆に言うなら主人公がいるっていうことじゃないか。
「なるほどな」
意図的な発言か過失かは想像つかない。しかし、これはまたヒントの一つにもなった。
主人公ってなんなんだろうな?
魔物がいるんなら魔王だっているだろう。魔王がいるなら勇者だっているだろう。つまりはそういうことなのだろう。少なくとも魔王を主人公とは呼ばない。つまりは勇者がいるっていう仮説が成り立つ。
そして、更なる問題が一つ。
シルファのクソ野郎にとって勇者とはなんなのか?
あいつの性格自体は捻じ曲がっているがイコール魔王もしくは魔王側とは断定できない。正解は誰の味方でもないって気がするが即断は悪手だ。
「まずは主人公とかいうのに接触する必要があるか」
どこにいるのかすらさっぱりわからないがヒントはある。
恐らくこの村を通過するだろう。そうでなければ村の略歴なんて読めないし、死体の情報なんて読み取れはしない。なぜならそれは、誰かがそれを読み取ることを前提としているからだ。
その読み取れる奴を待つか、それとも先に行くか。
「決まってんだろ」
先に進んでシルファの思惑を台無しにしてやるんだよ!
だから、目標は決まったからこそ、俺は目を閉じる。
まったく眠れる気はしなかったが、予想以上に疲弊していた身体は思ったよりも早く、眠りの中に落ちていった。




