◆ 7 ◆
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やがて、ヴァルーエフの黒い木はようやく見えなくなる。
ラキヤはようやく立ち止まり、あなたもようやく息をつく。
呼吸を調える。
「逃げれた、のか?
いや、またすぐ見つかると考えるべきか。
泳がそうと判断された可能性もあるな」
「……」
「ラキヤ、今いる場所に見覚えはあるかい?
君の姉がいるはずのところまで、あとどのくらいか、わかるかい?」
「ん」
ラキヤは、憎々しげに背後をにらんでヴァルーエフの気配を探っていたようだ。けれど、あなたに話しかけられて唐突に無邪気な表情に戻る。
「そんなに遠くないよー♪
急ぐ?」
「そうか。なら急ごう」
沼地を越えて、続く廃墟の風景の中へ。
廃墟。
ここもまた、どこまでも廃墟。
あなたは言う。
「俺はもう、この廃墟だらけの世界を見慣れてしまったが。
でも。
こんな世界を変えるための何かを君の姉が知っているのなら、それは凄いことだな」
「……」
先を行くラキヤは楽しげに。
そして、振り返りもせずに言う。
「私はカザンがいればそれでいいよ。
他は全部、どうでもいい。
お姉ちゃんのことではどうでもよくはないけど。
でもそれもきっと、どうでもよくなる。すぐに。もう、すぐに」
そして。
ついに。
長い旅の果てに、あなたはわたしの元に来る。
あなたの前に、要塞聖堂が見えてくる。
朽ちかけた森を抜けた先。丘の上に。
丘の上に広がる廃墟の中に、それでもまだ形を残す、要塞聖堂が。
わたしのいる、建物が。
かつては中世に、町が襲われた際に人々が立てこもるための要塞としても使われた聖堂。
小さな城塞のような要塞聖堂。『やり直す前の世界』でも、わたしが買い取って暮らしていた建物。
外壁は塗料が剥げ落ちていて、白い建材の色がむき出しになっている。
窓は、そのすべてが失われて大きく穴を開けている。
「あれが、お姉ちゃんのいる城だよー♪」
ラキヤは、要塞聖堂を城と呼んでいた。
「結構大きいな。
閉じ込められてるって聞いてたけど、どこに閉じ込められてるんだろう」
あなたは独り言のつもりだったのだろう。
けれど、ラキヤは無邪気な笑顔で答える。
「地下!
地下にいるよー♪」
「そうか。地下があるのか。
地下への入り口の位置は分かるかい?」
「うん♪」
「良かった。
なら、あと気にするべきは……」
あなたは、周囲に注意深く目を向ける。
「パツァスの配下に見つからないように、ということだな。
ヴァルーエフにも、いつ見つかるか、わかったもんじゃないしな。既に、すぐ後ろにいるかもしれない。
あまり時間をかけたくないな」
「知らない♪
あんな奴、知らないー♪
ここまで来たんだし、後は真っ直ぐゴー♪」
「あ、おい」
「一緒に、ゴー♪」
ラキヤは楽しそうで、いてもたってもいられないという様子。
高温の彼女の手が、あなたの手をつかむ。
あなたはつられて、微笑する。
要塞聖堂の入り口の門の前に立つと。
「ただいまー♪」
ラキヤが、思いっきり門を蹴り開ける。
入ってすぐの大広間には。
白い肉塊が詰まっているのが見える。