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◆ 4 ◆

 ◆ 4 ◆


 あなたの名前。

 カザノ・タカホシ。風野高星。

『やり直す前の世界』で、わたしはあなたのことを愛を込めてカザンと呼んでいた。


 どういうことだろう?

 なぜ、初対面のはずのラキヤがあなたのことをカザンと呼んだのだろう。

 ラキヤもわたしと同じように『やり直す前の世界』の記憶があったのか。わたしがあなたのことをカザンと呼んでいたのを、聞いて覚えていたのか。

 きっと、そういうことなのだろう。

 なら、どの程度のことを覚えていたのか。いつ思い出したのか。最初から? それとも?


 あなたの名前を呼んだラキヤは、それまでの行動が嘘のように、あなたに従順になった。あなたの言葉を楽しそうに聞き、あなたの手に楽しそうに触れた。

 けれど、あなたのほうはその後、大変だった。

 レジスタンスの仲間に、ことの顛末を報告して説明しなければいけなかった。

 いわく、グループリーダーも含めて七名が殺されたが、『狂った魔女』はその後、戦意を失って自分と一緒にいる。


 当然、レジスタンスの人々はラキヤを危険視した。

 ラキヤを信用することは無かったし、あなたのことも不信の目で見た。

 あなたはレジスタンスの一員ではいられなくなった。


 レジスタンスの首領。フロディ・グラブラクス。

 ラキヤが殺したスペードの、その父親。

 あなたが彼と最初に会ったのがこのときだ。

 いかにも屈強な父親然とした彼は、反論を述べる他の部下をさがらせ、腹心の部下一名とあなたとラキヤだけを部屋に残した状態で、あなたに言った。

「私は、そこの魔女を許すわけにはいかない。

 スペードは私の家族であり、私の部下だった。手のかかる家族ではあり、手のかかる部下ではあったが……しかしそれでも家族であり、部下だった。

 もちろん、他の仲間たちのこともある。

 対外的にも、そして私個人の感情としても、許すことはできない。

 ゆえに。

 彼女が君と離れないというのなら、君を私たちの元に置いておくことはできない」

「カザン、カザン♪

 カザンはあたしと一緒にいてくれるよね?

 そこのおじさんは邪魔をするの?

 じゃあ、邪魔をできないように殺していい?」

「狂犬め……」

「っ!」

 突然、ラキヤが動いた。ただし、椅子に座ったまま微動だにしないフロディ・グラブラクスとは離れる方向に。

 それは、一瞬の動きだった。あなたからすると、自分の視界が一瞬で移動したように思えただろう。あなたはラキヤに抱きかかえられて、グラブラクスとは離れた部屋の隅に移動させられていた。

 ラキヤはさっきまでの無邪気な表情が嘘のように、ぎりぎりと歯を結んで、グラブラクスをにらんでいた。

 フロディ・グラブラクスは言った。

「……身の程を知る程度のことはできるようだな」

 あなたに目を移した。

「君。タカホシ君。

 選びたまえ。

 その魔女を連れてこの街を出て行くか、それとも、今ここで私が彼女を始末するのを見守るか。

 彼女を生かしておきたいなら、この街にいることはできない。そして、君は彼女の手綱を握る必要がある。彼女が今以上に私たちの害になるようなら、私は彼女をいつでも始末する。

 だが、君がうまく彼女を制御することができるのであれば……。

 私は、君たち二人をいつか利用できるかもしれない駒として考えよう。

 そのために、私はここでそこの魔女を見逃すという選択をしてもよい。

 ……スペードたちのことは、血気に逸った彼ら自身の落ち度でもある。私怨で彼女を始末することを、私はしない。

 さあ、選びたまえ」

「俺が選ぶんですか?」

「私は既にそう言った」

 このとき、あなたが何を考えたのか、わたしにはわからない。


 けれど、あなたはラキヤを見捨てたりはしなかった。

 ラキヤとともに、あなたは街を出た。


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