◆ 1 ◆
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『世界をやり直した先の二〇〇七年』。
あなたがわたしのいる場所へと向かって旅をしているのを、わたしは見ている。
未来視で見ている。
そう。
これは、あなたの『今』。
未来視で見ているわたし自身の今を基準とするならば、まだ先の出来事になるけれど。
あなたからすれば、『今』。
あなたは今、十九歳。
『やり直す前の世界』では平和な国に生まれて柔和な顔をしていたあなたは、『今』では多くの傷跡と火傷跡が残る体で厳しい顔をしている。明るかった瞳は、灰色の憂いを帯びている。
世界を覆う分厚い粉塵の雲の下。
かつて死の砂漠と呼ばれた岩だらけの地を、あなたは一歩一歩、西へと歩いている。
皮肉なことに、世界を覆う粉塵の雲が日を遮っているお陰で『やり直す前の世界』よりも日中の暑さは幾分か和らげられていたかもしれない。けれど代わりに夜間の寒さは前にも増して体力を奪う。
そんな厳しい道のりを。一歩一歩。
あなたの少し先を歩くのは、ラキヤ。
わたしの妹。
わたしの、狂おしく愛おしい妹。
人間でいえば二十に満たないような外見。楽しげな少女の姿で、死んだ石の土地を楽しそうに軽やかに跳ねて歩いていく。
ふと、ラキヤは後を歩くあなたとの距離が離れてきているのに気づく。
無尽蔵に近いラキヤの体力に比べ、あなたの体力は、この世界でいかに鍛えられていても人のもの。それがわかっているあなたは、自分のペースで一歩一歩着実に歩いていく。
ラキヤは軽やかにUターンして、あなたの近くに戻ってくる。
楽しそうに笑う。
「何してるの? さっさと行こうよー♪」
明るい声。
天使のような声。
ああ……。
……あなたはラキヤに微笑を返して言う。
「ラキヤはいつも元気だな」
「えへへ。私はいつも元気ー♪」
あなたの微笑を見て、ラキヤはさらに楽しそうに笑う。その口には牙が見えている。
外見よりもさらに幼い、幼女のように無邪気なラキヤの表情。
人間とは違う、濃赤色の目。
そんなラキヤの目を見返すあなたの目に、少し陰りの表情が見える。ラキヤはそれに気づかないのだろうか? 少なくとも、表面上は気づいていないように見える。
「さあ行こう!
この道の先でー♪
お姉ちゃんが待っているー♪」
「はしゃぐなよ。転ぶぞ」
「転ばないもーん」
ラキヤはあなたの手を取り、握る。
あなたはきっと、その手にラキヤの燃えるような高温を感じていることだろう。
「さあ行こー♪
恋人のように手をつないで。
さあ行こー♪」
人間が触れ続けるには少々熱すぎるはずのラキヤの手を、けれど、あなたは離さない。
火傷跡が残る手で、あなたは優しくラキヤの手に触れ続ける。
ラキヤは嬉しそうにあなたの手を引っ張って、死の砂漠を西へ西へと歩いていく。