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『初めてあなたに会った二〇〇七年』。

 そこから、『あなたが死んだ二〇十五年』までの八年間。


 人とは違う長い寿命を持つ魔女であるわたしにとって、生きていた時間の二%にも満たないその期間。

 わたしがどんなに幸福を感じていたか、『今』のあなたに伝えられたらと思う。


 初めて会ったとき、あなたは東洋から来た旅人だった。

 日本という平和な生国から遠く離れた地、わたしが住居としていた黒海の西にある国に来て、あなたは色々なことに戸惑っていた。荷物は盗まれ、金はニセ警官にほとんど取られていた。野犬が街中で人を襲う状況におののき、言葉がなかなか通じない人々の中で孤独に耐えていた。

 それでもあなたの心は真っ直ぐで、遠く離れた異国にどうにか順応しようと努力し、同時に、悪い習慣には染まらぬようにと誓う心の強さがあった。

 初めは、あなたの存在がわたしの中でこんなに大きなウェイトを占めることになるなんて信じなかった。

 たどたどしくわたしたちの国の言葉をしゃべるあなたと偶然に出会い、からかい、庇護し、わたしの城で一緒に過ごすようになって。

 互いに愛の言葉をささやくようになって。

 恥ずかしいことを言うようだけれど、わたしの八年間は薔薇色だった。


 あなたが死んだ二〇十五年。

 その後の、続く百年。


 わたしの人生は随分と空虚なものになった。耐えられないほどに。

 人々が地球を捨てて宇宙へ逃れた後も、わたしは空虚さに溺れたまま地球に残った。


 そこで、私は彼の企みに乗ってしまったのだ。

 そう、彼。

 テルモ・パツァス。

 科学者のような顔をした男。わたしと同じように人間とは違う、けれどわたしよりもさらに長命で、ほぼ不死の力を持った星神の男に。

 彼は言った。

「もう一度、世界をやり直したいんだ」

 この地球から去った人々を、地上にもう一度取り戻したい。

 人々が地球を捨てることのない歴史を作りたい。

 人々が地球を離れることのない歴史を作りたい。

 そう語る彼の言葉の、大部分は共感しなかったけれど。


 ただ、失われた人を取り戻したいと。

 それだけを、わたしは共感して手を貸した。


 ただ、もう一度あなたに会えるならと。そう思って。


 許して欲しい。

 わたしは、あなたの語った平和な故郷の話が好きだったのに。

 やり直した世界が、前よりもずっと良いものになるなんて、甘い考えだったのだ。


『今』。

『世界をやり直した先の二〇〇七年』。


 やり直す前の歴史なら、人類が宇宙に飛び出る手段を得てから既に約半世紀が経っていたはずの時代。

 けれど今、人類は宇宙を見上げる余裕もなく。

 地上から離れられずに。

 地球から離れられずに。


 世界の人口は五億にも届かず。

 やり直す前の世界の十分の一にも満たない。


 それが、わたしがやり直した先の世界。

『今』の、あなたの世界。


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