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065 一蓮托生

駅伝名門を退学した傷だらけの転校生に

みなみが無慈悲な言葉をぶつけましたけど…


 な…なんということを…

 …みなみのヤツ…なんて酷いこと言いやがる。。


 チームを棄権させ、心のありように苦しんでる男に…

 それだけは言うたらあかんやろう!??


 …これはあかん…とりあえず話の流れをかえんと…


 ここまで発言してへんのは…

 …あと一人だけ??

 


「なぁその…浜寺はどう思うんや??」

「…そう言われても俺はスイマーやから。。

 ぶっちゃけコイツの過去も実績も知らんし…

 このレースに出たら壊れるかもしれんって状況で

 試合に臨んだケースも知らんからな。。」


 …そりゃそうやろうな…

 けど陸上でもこんなケースは滅多にはないんや。

 ワシかてこんなん未経験やで。。


 …なのにここにはその実例が二人もおる。


 アキレス腱を切っても走りきったモノ…

 膝の棚落ちを起こして棄権したモノ…


 それをもう一度走らせるなんてできるんか??



「…なぁ放出さんよ。俺はお前さんのことは知らんが…

 ここにおるのは多かれ少なかれ似たような連中なんやで。」

「…浜寺くんだったな。…似てるって何がだ??」


「俺等はみんな一度は目指す場所を失った不器用な人間や。。

 お前さんも…今の心持ちで走れる場所はあるんか??」

「…走れる場所??」


「ああ。自分が壊れることを恐れる以上に…

 周囲に重荷を背負わせることを恐れてるお前さんのことや。

 もう一度誰かを傷つけるのが怖くて堪らんのやろう??」

「…それは…そうかもしれん。。」


「そんなお前さんが偶然に転校した先が…

 そんな事情をすべて承知した上で…

 それでもお前さんを必要としてるんや。。

 それを…偶然と言えるのかな??」

「…」



 …昼休み終了のチャイムが鳴った…

 さすがにまだ結論は出そうにないけど…


 この状況をどうやって纏めればええんや??

 とりあえずこの場はお開きと思ったら…



 傷だらけの男は…答えを出そうとしていた。。



「…みんなの意見は…わかったよ…」

「放出くん…そんなに結論は急がんでも…」


「けど俺かて走りたい…すぐにでも復帰したい…

 ただな…どうしてもその…」

「…ただ??」


「俺は阿倍野とは違ってその…臆病なんだ。。」

「そんなん…誰かって…」


「臆病だから…壊れかけの状況でムリはできない。。

 だからまたどこかでブレーキをかけるかもしれない…

 でももし…もしそうなったら俺は……」

「……」



 …みんな…さすがに沈黙してしもうた。。


 もしホンマにそうなったら放出くんは体以上に…

 心が崩壊してしまうやろう。。


 後輩を守れなかった自責の念ゆえに…

 播州工業を棄権させてしまった重すぎる過去…

 そんな経験をもう一度なんて絶対に耐えられない。


 だから誰も声をかけられない。。

 結論など出せない。。


 …なのに…




「だから難波さんだったな…確認させてくれるか??」

『…何をや…』


「本当に危ないと思ったら俺は…緩めて構わないのか??」



 …なっ…

 放出くん…なんてことを…


 ワシは…耳を疑った。

 泉も赤阪も能勢も浜寺も…顔を伏せた。

 遥は…耳を塞いで震えながら背中を向けてしもた…


 だってそれは…

 放出京喬ほどの男がそれを口にする意味は…



『…さっきも言うたはずや。。

 ウチは…仲間を壊してまで勝ちたいとは言わんよ。』


「仮にそれが駅伝本番のレース途中でもか??」

『…かまわん。。』


「それが…ゴール前の競り合いの中でもか!?」

『…かまわん!!』


「もしそれが…都大路出場のかかった局面でもか!!?」


『…ああ。だってアンタが仲間を案じるのと同じくらい…

 こいつらは仲間を慮れるヤツばかりなんや。

 …仲間の誰かが壊れるときはチームが終わるとき…

 それぐらいの覚悟はとっくにできとるよ。

 …だからかまわん。一蓮托生や。。』

「……ぐぅっ…」



 …放出くんは…人目も憚らず泣いた。。


 遥は膝を折ってしばらく立ち上がれそうにもない。

 男たちも…全員泣いてたと思う。


 …駅伝部を作って…

 …こんなに辛い思いをするとは思わんかった…


 …みなみのヤツ…なんで不思議そうな顔をしとるんや??

 こいつホンマにわかってないんやろうか??



 …いつ潰れるかわからない故障への怖れ…

 それ以上に…仲間の思いを壊すかもしれない恐怖…


 だが今をおいて表舞台に立てる可能性がない以上…

 全てを受け入れてくれる場所が与えられた以上…


 一切の重荷を背負ったうえで復帰する。

 もう…他に選択肢はない。。


 

 だけどアスリートである限り…

 放出京喬である限り…


 途中で緩めることは決してないやろう。。

 みなみとの約束は…空手形も同然。 


 …ならば行きつく先は…


 都大路にたどり着くために壊れるまで戦うか…

 その前に…すべてが壊れてしまうか…


 いずれにしても…尽きる以外の行先はない。。



 …つまり放出くんは受け入れたんや。

 選手生命の余命宣告を…



 …そしてワシらも受け入れなあかんねや。


 余命宣告を受けた男との…

 一蓮托生を。。。




自分で書いてて泣けてきた。。


もし自分が同じ立場なら…

こんな決断…できないだろうな。。

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