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064 なんて無慈悲なこと…

超大物の長距離ランナー

放出京喬が背負っている過去は…


それ以上に大きいようです。。



 …ここまできて急にみんな静かになった。


 さすがにあんな話を聞かされたら…

 もうすぐ昼休みは終わるのに…纏めようがない。。


 こんな時に何かを言うべきはコーチのみなみか…

 言い出しっぺのワシなんやけど…


 沈黙を破ったのは…意外な男たちやった。。



「あの…ボクの話で悪いんだけどさ…」


 …沈黙を破ったのは赤阪やった。。

 普段はおとなしい男やのになぜに突然??



「ボクはさ…競技者としての足跡を残したくて…

 …この駅伝部で頑張る道を選んだんだ。。

 だってボク程度では大学や社会人では通用しない。

 きっと今以上の機会は…もうないと思う。。」


「…赤阪くん。。…何が言いたい??」

「だから…きっとキミと同じなんだよ放出くん。。」

「…何が…同じ???」


「…この一年を待てばキミは大学で復帰できるの??

 将来また一線で走れる望みはあるの??

 だってその膝は…二度と治らないんだろう??」

「…それはそうだけど…」


「時間がたてば体力は落ちる。競技レベルは上がる。。

 それを補う鍛錬にその膝では耐えられない。。

 ボクと同じで…今しか機会はないんじゃないの??」

「……」


 …赤阪…なんてキツイことを。。


 たしかに放出くんの膝は一生治らない。。

 けどここで無理をしたら選手生命どころか…


 一生歩行困難さえありうる。。


 そんなん…皆だって分かってるはずやのに…



「俺も…赤阪と同意見だな。。」

「おい能勢。…お前までなんてことを…」


「なぁ放出くんよ…。キミほどのランナーが将来、

 一介のジョガーで満足できるのか??

 そんなに簡単に…表舞台から降りれるのか??」

「…それは…」


「…俺がキミなら降りないぜ。。

 北摂の白兎と泉北の黒豹が都大路に並び立つ…

 それ以上の舞台がいずれ巡って来ると思えるか??」

「……」


 …能勢…なんて厳しいことを…


 そりゃワシだってこの大物を何としても引き入れたい。

 けどそのせいでこれ程のランナーを潰してしもたら…


 どんな重い十字架を背負うことになるか…



 …けどよくよく考えたら…


 放出くんは既にその十字架をも背負うとるんや。

 自分が潰れればどれだけ人を傷つけるかを知っている。


 だからこそ…棄権という道を選んだかもしれん。。


 …でもその結果として自分自身は…

 また一つ大きな重荷を背負うことになってしもた。。


 この荷から少しでも解放するには…

 やはり復帰を勧めるしかないんやろうか??

 


『…その上で放出よ…改めて聞くで。。

 …ワレはどうしたい??復帰する気はないんか??』

「なぁ佐野…お前も俺と一緒にやりたいんか??」


『…一緒ってのはちょっと癪に障るが…

 ワレが復帰したいんなら…勘弁したろやないか。。』


「…じゃぁお前が俺の立場なら…やれるんか??」

『…ウチなら…やるやろうな。。

 仮にどうなろうと…走れる限りはやると思う。。』


「…仮に一生…もう二度と走れなくなってもか??」

『……ああ。仮に一生……松葉杖でもな……』



 泉…なんてエゲツないことを…

 放出くん…本気で悩んどるやないか。。


 陸上を諦めるために陸上部のない学校を選んだのに…

 転校初日にこんなことになるやなんて…


 でも彼は本当に走ることを止めたかったのか??

 それとも…別の理由があったのか??

 

 …どっちにしろ…これは追い詰めすぎや。。

 …こんな逃げ場はない状況では決断なんて無理やろう。


 だから…一度も発言してないヤツに聞いてみた。。



「なぁみなみ。コーチとしての意見はないか??」

『ウチは…みんなとはちょっと違うかな…』

「ほう。どう違うんや??」


 …これは期待できそうやな…

 ちょっとフォローしてみようか…



『もし放出くんが入ってくれるなら…彼は仲間や。。

 ウチは仲間を潰してまで都大路に行こうとは思わん。』

「…えっ??どういうことや??」


『もし入部してくれるなら…ムリはさせへん。

 潰れるまで走らすことはせぇへん。

 できる範囲で協力してくれたら…それでええよ。。』

「…みなみお前…それは…」


『潰れるまで頑張れとは言わん。だって前にも言うたけど…

 それで負けても一人のせいには絶対にせぇへんから…

 だから…ムリやと思うたら緩めてくれたらええ。』

「…な…なんてことを……」



 …なんて…なんて無慈悲なこと言うんや……


 …みなみお前…

 …自分が何を言うてるのか分かってるか!??


 さすがにみんな戸惑ってる。。

 さっきまで放出を責めてた泉でさえ…


 …表面的には優しい言葉かもしれんけど…

 他の誰よりずっと残酷なことを言うてるんやぞ!!



 緩めてもかまわない!??


 それだけは…放出京喬がそれだけはでけんことは…


 …分からんはずがないやろう!??




優しさと無慈悲は紙一重…


でも…分かっている人だけでは

前進しないこともあるのかも。。

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