005 不器用な男や。。
高校駅伝大阪府地方予選。。
6位入賞を目標とする天下茶屋高校ですが…
13位でアンカーに襷が渡りました。
「無茶や…」
天下茶屋高校陸上部アンカーであるワシ…
天保山昇に課せられた目標は…
現在13位の順位を6位に上げること。。
つまりたった5キロで…7人を抜けということ。
それができなければ天下茶屋高校陸上部は…
…その瞬間…消滅する。。
…スタートして1キロ。
ようやく直前のランナーを捕える。。
…ワシは本来、花の一区だってつめられる実力。
つまり競り合う選手のほとんどは格下。
順位を上げるのは当然といえる。。
…しかし…相手も必死や。。
引き離そうにも簡単に離れてはくれない。。
…一人にいつまでも構ってなんかいられんのに…
2キロ地点でようやく2人目を捕えたけど…
さっき捕えた選手さえ引き離せてない。。
…あと5人も抜かなあかんのに…
…できなければ陸上部はなくなるのに…
…直前の選手さえはるか遠くにしか見えない。。
…くそ!!ワシの競技人生は…
…ここで終わるんか!?
…もう…ヤケクソじゃ。。
どうせ終わるならせめて最後まで攻め抜いて…
遠くに小さく見える背中を目指して…
ワシは…これまでにない無謀なペースで走った。
…自分でもわかってる。。
…こんなペースでは1キロももたんやろう。。
でも…どんなにムチャでも追いたい。
最後の最後まで…前を見据えたい。
…はるか遠かった選手の背中を見据えた時…
もう体力は限界やったはずなのに…
…体が重い…息が切れる…腰が浮き上がる…
…足がまるで地面を捉えていない…
…だけど空回りするような足が…軽い??
…疲れが…重さが…フワフワとした感じに変わる。
…視界は急に開けたような…ぼやけたような…
…何があったんや??
…ワシは今…何をしてるんやろう??
…体は限界のはずやのに…
…なぜか不思議なくらいに心地よい…
…奇妙なまでに足元に…地面を感じる。
…地方大会の数少ない観衆から大歓声が。。
…ラストわずか2キロを切って…
周囲に伍することのないランナーが一人!!
一人…二人…三人…
…ごぼう抜きや!!
信じがたいペースで追い上げる選手が一人!!
さらに大きな歓声が上がったけど…
あれれっ??
「キミ。。ゴールだよ!!」
「おい、天保山。。止まれ!!」
…短かすぎた。。
…信じがたいスピードで追い上げたのに…
…ゴールしたことにさえ気付かないのに…
「…あ、キャプテン…。
レースは…レースはどうなって…??」
「ああ。よくやった。…7位だよ。」
「…7位…でっか??」
「そうだ天保山!!お前は本当によく…」
「あかん…かったんでっか??」
「…そうだな。惜しかったけどな…」
「…そう…でっか。。」
「……」
…ワシは…
…それ以上は何も言わずその場を離れた。。
そもそも…ワシは仲間と話すことが殆どない。。
そんなワシが目標を果たせなかったのだから…
陸上部を…潰してしまったのだから…
…話せることなど何もない。
哀しみを分かちあうことはできない。。
笑いあうなど…以ての外や。。
…自分でもイヤになる性分…
…ホンマに…不器用やと自分でも思う。。
目標を果たせなかったとはいえ…
今日の走りは褒められることはあっても
責められるなどないはずやのに…
だって…6人も抜いたのだから…
しかもタイムは…15分13秒。
こんな河川敷の悪路で自己ベストを1分近くも
上回ったのだから…
…区間賞のおまけつきで…
実際に味わった感覚をもとに書いてみました。。
ただここには書きませんでしたが現実には
心地よさより…恐怖心が勝りました。。