057 選ばれた人だけの場所だから。。
新入部員の阿倍野遥。。
どういう子なんだろう??
「ようし…ラスト上げていけ!!」
「おお!!」
「よしええで!!みんなええ調子やないか!!」
…みんな張り切っとる。
実際、目標はみんなそれなりに達成されとる。
女子部員が入ると、男のやる気は違ってくるらしい。
ただ…問題はその遥や。
実力者やと聞いてた割にはその走力は今一つ。。
この程度では中学女子でもそれ程とは…
…ケガはもう回復したと本人は言うてたけど…
もう一つ万全ではないのかな??
ていうか故障個所も知らんで確認のしようもない。
「なぁ泉。」
『…何や!??』
「ちょっと聞きたいことがあるんやけど…」
『…だから何や!??』
「…だから…その…」
『…あぁ!??はっきりせぇや!!』
「もう…いいです。。(-_-;」
あと…もう一つ問題がある。。
このところ泉がちょっと不機嫌なんや。
…みんなが遥をチヤホヤするのが気に入らんみたい。
《女子部員なら前からおるやろ》…って感じ。。
特にみんなが<遥ちゃん>って呼ぶのがアカンみたいで…
試しに<泉ちゃん>って呼んだら余計に不機嫌になって…
結局…遥を呼び捨てにして調整することになった。。
…泉って…メンドくさいヤツなんや。。
女心も分かりにくいけど泉はそれ以上に分かりにくい。。
とりあえず刺激はせん方がええみたいやから…
ケガのことは…遥本人から聞いた方がええみたい。
「なぁ遥…その…ケガの具合はどうなんや??」
『大丈夫ですよ天保山先輩。(^v^
もう痛みもないし…二年も前のことですから…』
「…どこを痛めたんや??泉は教えてくれへんから…」
『説明するより…見せた方が早いですよね。。』
…と言うと遥はジャージの裾をめくった。
ヤラシイ意味はないんやけど…ワシは目を背けてもた。
だって遥の右足には…痛々しいまでの手術跡が…
「お前…それまさか…」
『そうです。アキレス腱を切っちゃいました。(^v^』
「そう。。切っちゃたの…って簡単に言うな!!」
『ですからその…パッチーンって。』
「だから…そういうことは簡単に言うなって…」
『だって思ったより簡単に切れちゃたっもんですから…
パッチーンって。。いい音したんですよ。』
「…いい音って…そんなん絶対に聞きとぅないわ!!」
まさか…アキレス腱断裂とは。。
アスリートなら誰もが忌み嫌う乾いた破裂音…
自分で聞いてしもたんやな。。
…まだ中学生の将来有望な陸上選手が…
しかも女の子がこんな痛々しい手術跡まで残して…
そりゃ…泉も軽々しくは答えられんワケや。。
…けど手術跡のことは言わんとこ。。
傷跡に関してはワシの方が痛々しいやろうから。
…それにしても…アキレス腱断裂!??
Σ('◉⌓◉’)
『…驚くでしょうね。でも私の出身中学は強豪で…
特にその年は男女アベック優勝が狙える年だったので…
駅伝選手のほとんどは故障を押して出てたんです。』
「でも断裂って…そこまでやるの??」
『はい。主将は滅私奉公が信条の方でしたから…
個人の都合でチームに迷惑をかけるなって…』
「それで何も言えずに…致命的な故障をするまで…」
『というか…それが当たり前だったんです。』
…主将の言うことも分かるけど…
なんやそれ??今は軍国主義やないど!??
その結果、一人の有望な女子選手を潰した!?
もちろん許されることやないけど…
その主将かて中学生。…責任はとれんやろうな…
「それで主将のこと…遥はどう思ってるの??」
『佐野先輩にも言いましたが…恨んではいませんよ。
むしろ…感謝してます。。』
「…感謝??なんで??(。・ω・。)」
『だって最後まで戦わせてもらえましたから…
あの程度で潰れる私が…本気で走れたんです。。
遅かれ早かれ道を絶たれるはずだった私が…』
「…道を絶たれる??何の道を??」
『陸上選手としての将来…そして…都大路…』
「アホ言うな!!:(;゛゜'ω゜'):
都大路ぐらいそんだけ頑張れば普通は…」
『…普通では…行けないんです。』
「えっ??」
『ほとんどは諦めるか…道を絶たれるんです。。
だって都大路は…選ばれた人だけの場所ですから…』
…そこまで言うと遥は静かに涙をこぼした。。
女々しい涙やない。…潔い涙やと思う。
…競技生活5年目…
故障経験のないワシには分からんけど…
ここまで言わすほど都大路は重いモノなんか??
選手生命を…将来をかける価値ある場所なんか??
ワシらが目指す都大路とはやっぱり…
普通では辿り着けない場所なんやろうか??
それほどまでに…重いのかな??
どんな競技でもそうですが、
目指す場所に辿り着ける人は
ほんの一握りです。。
戦って敗れる者だけでなく、
戦いの場に辿り着けなかった
者も少なくありません。。




