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029 本物のスパート

昇と泉の5000m勝負は…

残りあと4分の1です。


「くそ…これ以上はペースが上がらん…」


 ワシと佐野泉の5000mの勝負。


 諸々の事情があって、何が何でも勝たなあかんけど…

 ラストのスプリント勝負では勝ち目がない。

 なのに…限界までスピードを上げても引き離せない。


 …そしてレースはそのまま残り800mを切った。


 ワシは目一杯やのに泉は遅れない。

 しかも真後ろにおるから表情がまるで見えない。

 相手の状態がわからなければスパートはかけにくい。


 何が何でもここで引き離さなあかんのに…

 向かい風の一直線のコースで真後ろに付かれては

 勝負をかけるポイントがない…のやけど。。


 

『…あれ??』

「……これは??」


 …ここで文字通り…ちょっと風向きが変わった。

 さっきまでの向かい風が斜め向かいからの横風に。。


 ワシがちょっとだけ体をずらすと…

 泉の小さな身体が煽られる。。

 なんとかワシの斜め後ろにつこうとするけど…


「チャンスや…」


 ワシはコースの端を選んでスピードを上げた。

 この位置ならば泉はワシの斜め後ろには付けない。

 横風の影響を避けることはでけんハズや。


 …泉の表情が見えた。

 さっきまでとは違い明らかに苦しそう。

 風の煽りから立て直すのに精一杯という感じや。

 ここで引き離せれば…勝てるかも!!



 …けれど引き離せない。

 煽られても…バランスを崩してでもついてくる。


 …さすがは北摂の白兎。

 ここさえ凌げば勝てるって確信があるんやろう… 

 二人で並んだまま…ゴールが見えてきた。


 …そして残り200mを切ったところで…

 さっきまで後ろで喘いでいた泉が立て直した。

 前に出る。ラストスパートに入ったんや!!


 …せやけどこれならワシも譲らん。

 並走や!!

 ラスト100mならともかく200mなら…

 中距離選手にだって勝てる可能性はある!!



 …けど…それは慢心…

 本物のスパートはこの程度やなかったんや。。


 …残り100mを切って…

 泉はさらにもう一段階ギアを入れ直した。


 つまりさっきのはあくまでも仕掛けの初弾…

 本物のスパートの前段階。。


 間近で見たことないような鋭利な切れ味。。

 短距離走者スプリンターと見紛うほどのスピード感。。


 それが中距離走者の…本物のスパートなんや。


 頑張ったけど次元が違いすぎる。。

 ワシはやはり…泉には勝てんかった。。

 


 泉の記録は15分14秒。

 …ワシは15分16秒。


 前半抑えたせいかベストは出んかった。

 けど泉は後半を…なんと6分59秒でカバーした。

 こんな河川敷で13分台に匹敵するペースで。。


 ワシは…そんな選手と勝負ができたんや。。



『はは…天保山…あんた…やるやないか…』

「いや…泉…お前こそ…本物や…」


『…よう言うわ…ホンマ…危なかった…』

「けど…あのスパートはさすが…

 最後はまったく…勝てる気がせんかった…」


『…おおきに…ウチも目一杯…やったけどな…』

「…ああ。。こっちこそな。。」



 …泉がワシに握手を求めてきた。

 あの北摂の白兎が…ワシを認めてくれたんや。


 お互い息は絶え絶えやけど…


 気分は最高や。。

 こんなところでこんな形で実力を出し合える

 好敵手にめぐりあえるなんて…


 無謀な挑戦にエースとして臨むつもりやった

 ワシには…救われた気分でさえある。



 あれれ??

 負けたらどうなるかって思うてたけど…


 …なんかもう…どうでもええかな…



高め合い、力を出し合える好敵手。。

それこそが最高の仲間。。


けど…どうでもよくはない。。


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