022 怖いもの知らずの二人…
性同一性障害ゆえに陸上をできない佐野泉。。
どうすれば…仲間に引き込めるのか。。
『…そういうことやから…悪いけど…』
「…ゴメン。他をあたってってみるから……」
残念やけどこういうデリケートな問題は…
ワシにはわからんのかもしれん。。
…男子駅伝部に入る。。
こんな簡単なことが泉にとっては…
その尊厳を脅かすことにさえなりかねない。。
けどこういう問題にまったく動じないヤツもおる。
…みなみや。
こいつ誰にでも容赦ないことを言うヤツやから…
傷つけるようなことせんかったらええけど…
『泉やったっけ。。あんたホンマにそんなに速いの??』
『…ええっと難波やっけ。話を聞いてなかった??』
『…聞くことは聞いてたけどな…
ウチはこいつらと違ってあんたの実績は知らんねや。』
『けど…ウソは言うてへんよ。。』
『事実としても昔話やろう??
今でも走れるかは…この目で見てみんとな。。』
『……(´・ω・`)??』
な…なんちゅう失礼な事を…
相手を…佐野泉を何者やと思ってるんや??
紛れもない大阪トップの中距離ランナーやぞ。。
『は…走れるよ。こう見えてそれなりに鍛えとるし。。
けどウチは…女のレベルやないからな。。』
『…どうかな??ホンマは下手な言い訳して…
…走られんのを隠してるんやない??
…ホンマはもう…錆びついたポンコツとか…』
「なっ…なんやと!!?」
…泉の声が…急に低くなった。。
…これが地声なんか??
小柄な彼(?)だけに男らしいとまではいわんが…
さっきまでとは違うドスの利いた男声や。。
きつい河内弁が…際立ってる。。
『ホンマに男の走りができるって聞いてるんやけど??
今では内股でヘナヘナ走るだけやないんかな??』
「難波ワレ…ワシにケンカ売っとんか??」
『…ふん。そんな怖い声してもムダや。。
ウチの目の前で、走れることを証明してみぃや。。』
「…ちっ。シロウトが分かるもんやないど。。」
『…そう言いな。ウチかて一応は陸上経験者や。。
どの程度のモンかぐらいは、見りゃわかると思うで。。』
「…経験者??ワシを見極められるレベルのか??」
『…丁度ええわ。もうすぐ体力測定があるやろ。』
「…まさかそこで走れとか??
…女相手にそんなチンケな場で本気になれるわけが…」
『せやな。じゃぁウチと1000メートルで勝負しよ。
今のアンタになら…ウチでも勝てるかもしれんしな。。』
「なっ…勝負やとぉ!??」
…な…なんちゅう挑発するんや??
相手は男子800m大阪府中学チャンピオン…
北摂の白兎こと佐野泉やぞ!!?
…学校では女生徒扱いとはいえ…
…女子高生が挑みかかれる相手やないんやぞ!!
だって…女のレベルやないというのは事実。。
800mベストタイムは日本記録よりはるかに上…
世界女王でさえ分が悪いやろう。。
それを…
…現役選手でもない心臓に持病のある女子高生が…
泉のもっとも得意とする中距離離走で勝負??
怖いモン知らずもここまで来たら…才能かも…
…それより泉や。
<このワシ>ってなんや??
声も口調も完全に男に戻っとるやないか。。
酷い侮辱をされてアスリートの感覚になったんか??
長髪に女子の制服着て…違和感ありまくりや!!
けど…どっちにしてもこんなもん勝負になるか!?
そもそもポンコツはどっちやねん!?
泉の本気を引き出すなんてムリに決まってる。。
…なのに泉はなんと…やる気のようで…
「そりゃ…おもろいがな。。
そこまで言うんならハンデ戦をやろうやないか。。」
『へぇ。北摂の白兎が女子を相手にハンデ戦??
…半端なハンデやったら笑われるで。』
「そうやな…それなら…」
『なら…?』
「一周や!!…ワレを一周差にしたる!!」
『…な…1000m走で…周回遅れ!??』
しゅ…周回遅れ!??
…中距離走でそんなん見たことない…
たしかにそれなら誰も笑わんやろうけど…
そんなもんハンデ戦とは言わんぞ!!
コイツ…みなみ以上の怖いモン知らずや。。
だってトラックは一周400メートル。。
1000mは…たったの二周と半分。。
つまり泉が1000m…二周半を走り切る前に…
みなみが600m…一周半を走ったら勝ち??
これは…およそ勝負とは言えん設定。。
走る距離はたったの六割って。。
…常識的には成立しえない勝負。。
でも…これで立場は逆になった。。
さっきまで負けて当然の立場やったみなみが
今度は勝って当然の立場になった。。
…いくら相手が別次元の実力者とはいえ…
男とか女とかその他諸々が異なるとはいえ…
勝負とさえ言えないこの条件で負けたりしたら
陸上経験者として…
…耐え難い屈辱やで。。
普通に考えればあり得ない条件。。
でも…一流が勝算のない提案をするのかな??




