014 天下茶屋の襷をかけさせたる。
スタミナゼロのスプリンターを…
どうやって駅伝部に引き込むのか。。
「そんなことない??…って何が??」
『短距離と長距離は違う、ってことがや。』
「ち…違うに決まってるだろう??お前は素人か?」
…スプリンターに長距離走をさせる??
駅伝部に入れる??
いくら人材不足でも適性が…
…能勢は半分呆れている。
なのにみなみ…全く動じる様子がない。
『能勢くんやな。あんたのことは調べたで。』
「…俺のことを調べた??どこで??」
『図書室に陸上部の日誌があったから…借りたんや。』
「はぁ??それで俺のことを読んだのか??」
…なんやて??
そういえば日誌がなくなったって聞いたことあったけど…
なんで図書室で貸し出しなんかしてんねん??
…金欠の学校が図書室の本を集めとるとは聞いてたけど…
陸上部の日誌まで置いてんのか???
…さすがにあり得んやろう???
『能勢くんは元々100メートルの選手やったんやて??』
「…だからどうした?」
『それが400でも通用すると知って…
死に物狂いで距離を伸ばしたそうやな。違うか??』
「…だからどうした!??」
『そこまでして400を走りたかった理由は何や!?』
「…それは…」
…その答は…日誌に書いてあったらしい。。
能勢は…入学直後の試合でリレーメンバーから漏れた。
それは小学生で校内の代表に選ばれて以来…
常にリレーの中心メンバーやった能勢にとって…
学校名を背負うのが当然やった男にとって…
…大きな屈辱やったらしい。。
…けど試合当日、400メートルの選手にけが人が出て…
能勢は急遽マイルリレーのメンバーに入れられて…
そこで好成績を残したことがきっかけで…
マイルの中心選手になると心に決めたらしい。。
…だって能勢は…
「そうだよ…。俺は学校名を背負うのが誇りなんだ。。」
「どういうことや??」
「俺は…個人種目が好きで陸上を始めたわけじゃない。。
団体競技で…学校の代表として戦いたいんだよ。。
…でも自分でも驚くくらいに不器用でな…
野球もサッカーもバスケも…笑えるほど下手クソなんだ。。
けど学校名を背負って戦いたいって気持ちが抑えられなくて…
…リレーメンバーに…拘ってたんだよ。。」
「…じゃぁ…駅伝は??」
「…やってみたい。駅伝選手は…本当はずっと羨ましかった。。
けど俺には…野球やバスケ以上に向いてないから…」
「…そう…やったんか。。」
…そう。人には向き不向きがある。
事実、長距離選手の筋肉がきれいな赤色なのに対し、
短距離選手の筋肉は白色の割合が強い。
回遊するマグロの赤身と俊敏に動く白身魚。。
人間の筋肉にも同様の違いがあるらしい。。
これは努力では変えられない生まれつきの適性。。
けど…それだけが絶対というのでもない…
『でもな…高校駅伝はそうでもないんや。。
七人全員を長距離選手で揃えられるのは強豪だけ。
最短区間のほとんどは…短距離か中距離の選手なんや。』
「ほ…本当かよ!?大げさじゃないのか??」
「…たしかにそうやな。。
最短区間…三キロに長距離の専門家は。。」
「…たしかに多くはないと思うよ。。」
「……」
…これ…大げさではあるがウソでもない。。
…最短区間の三キロには、
…名門でさえ中距離選手が起用されることは多い。
…けど能勢は400の選手…短距離選手や。
さすがにスプリンターを起用するケースは多くない。。
つまり本当にできるかは全くの未知数。。
でも未知数なら…かけてみる価値は充分にある!!
『騙されたと思ってやってみぃ??きっと…できるって。』
「そんなこと言って。…騙す気満々じゃねぇの??」
『…かもな。…けど後悔だけはさせへんから…
絶対に…天下茶屋の襷だけはかけさせたるからな。』
「…天下茶屋の襷か。。…それは…断れねぇな。。」
…こうしてまた一人…仲間が増えた。
ただし最短区間…3キロ限定の条件付。
だって今のところその3キロさえ完走でけへんねんから…
駅伝部を立ち上げてわずか2日目で部員は三人。。
頭数としては順調やけど。。
…万年補欠にスタミナゼロのスプリンターって…
こんなんでホンマに…戦えるんやろか??
ちなみに短距離走者も鍛えれば体力はつきます。
が…本当の問題は別のところにあるんです。。




