114 佐野泉が戦う理由-3
陸上で頂点を目指すことになりながら
誰にも言えない秘密を抱えた泉。。
競技人生最後となるはずの中学での
陸上生活とは…
「…そこから先はボクらも知ってるよ。。
実際、大阪の中学陸上界は、
泉と放出を中心に回ってたから。」
「おいおい赤阪。…それは言いすぎだ。」
『…放出は畏まるけどな…
…ウチはそこは謙遜せぇへんよ。
だって800ではウチは大阪で無敗やで。。』
「…たしかに言われてみれば…(´・ω・)
俺も3000で佐野以外に負けた記憶は。。」
「…二人とも凄すぎだよ。。(^^;」
…赤阪に言われるまでもない。
この二人は大阪府では頭抜けた大物。。
扇町天馬をはじめ全国レベルの選手が溢れた
同世代の陸上界にあって…
無敗の王者として君臨し続けたんや。。
まぁ陸上での実績はその通りやけど…
今語るべきはそれでないわけで…
「それで泉は…どうなったん??
その…違和感とやらの行く末は…」
『…その頃ちょっと…な。。(#・ω・#)
ウチもまぁ…人並みに初恋とかあって…』
「初恋って相手は男??女??」
『…そんなん…言わすな!!(=`゜n゜´)ノ
ウチはあくまで女の子なんやからな!!』
「それで相手は誰??(;'∀')」
『…誰かはどうでもええやろ。。(#・n・#)
どうにもならんねんし…
告白なんかできるわけないんやし…』
そりゃ…そうやな。。(´・ω・`)
当時の泉は普通の男子中学生。
まして陸上中距離界の超有名選手。
強豪陸上部の男気溢れる主将。
…男に告白なんてありえん。
まして他人の気持ちを慮れる賢明で
頭のええ泉なら尚更。。(;n;)
だけど口には出せずとも、
気持ちには大きな変化が現れる。
違和感が…本物という確信が。。
『それで自分でもいろいろ調べて…
中二の冬やったか…
オトンに相談したんや。。』
「…なんて言った???」
『自分は性同一性障害かもしれん。。
…もしそうやったら…
その生き方を認めてほしいと…』
「……(/ω・\)」
言ってしまったんやな。。
後戻りのでけんその一言を…
それを聞いた親父さんは
驚愕…狼狽ながらも…
…こう言ったらしい。。
『…なんや複雑やけど…(´∀`)-ε
男が一度決めたことは貫かなあかん。
だからすぐ白黒つけよって。。』
「…(´゜д゜`)」
たしかに…複雑。。(-_-;)
男として生きられないという決意を
男なら貫けと言われても。。
とはいえ男は即断即決なわけで…
女々しく停滞はないわけで…
だって泉は男の娘ではあるけれど
性格は男前な漢なわけで…
というか男らしい潔さの有無に
性別は関係ないわけで…
だから泉はその日のうちに医者に
連れて行かれて、
その後しばらくして判定を受けた。。
…診断結果は【性同一性障害】。
だから泉は中学最後の大会で
何が何でも勝ちたかったらしい。
おそらくは男として出られる…
競技人生最後であろう試合やから。
…800mで中学日本一になる。。
それが佐野三兄弟の末弟たる…
花園の覇者や中学横綱と並び立つ…
…最低限と思ってたからや。。
そしてそれ相応の力をつけた泉は順当に
全国に勝ち進み予選を一位で通過。
800m決勝の舞台に立ったんやけど…
『…天保山ならどうする??(;v;)』
「…どうって何が??(・.・;)」
『…全国大会の決勝レース…
…あんたならどんな戦術をとる??』
「どうって…ワシは泉とタイプが違うで…」
『ならばもし予選一位通過の優勝候補が
151センチ38キロの軽量なら??
他はアンタ相当の大柄ばかりなら??』
「そりゃ…そうするやろな。。(;'c')」
そう。陸上競技には様々な呼び名がある。。
十種競技は<キングオブスポーツ>
400mや400mHは<殺人種目>…
そして800mは…【トラックの格闘技】
8人の選手が防具なしににぶつかりあい、
勝負処の時速はおよそ30キロ。。
原付並みの速度で走りながら、
体当たりも肘打ちも足掛さえある。
800mは…文字通りの格闘技なんや。。
でも今以上に軽量だった当時の泉なら…
そんな小兵が予選一位ならば
ライバルたちの取るべき戦略は自明の理。
戦術の得手も卑怯もへったくれもない。
勝つための最良を選択するのが道理。
走力だけでは戦えない中距離競技。
その軽量で肉弾戦に巻き込まれたなら…
集団でポケットでもされようものなら、
抗うことさえかなわない。(;_;)
小柄な優勝候補と大柄な競争者たち。。
その条件ならその流れは必然。
そんな展開に消耗させられた泉は…
…最後のレースを七位で終えた。。
つまり佐野三兄弟の名に恥じない結果を
残せなかった以上…
ここで競技生活は終えられない。。
でも今後それ以上を望むなら…
その競技で本気で勝ちたければ…
当たり負けしない筋力は必要不可欠。。
だから…悩んだ。。(´・ω・)
花園覇者の長兄に中学横綱の次兄。
そんな兄貴たちと同じ日本一の選手。。
それが勝手する贖罪なのに…
佐野三兄弟の末弟たる責務なのに…
でも身体を男らしくすることには
もう耐えられない。(;_;)
そして悩んだ末に泉の出した結論は…
…1500mか5000mに転向すること。
格闘要素の薄い長距離種目に転向する。
だから長距離選手として推薦した報緑に…
男子校の寮に入る決心をしたらしい。
そんな時…
『…オトンがウチに内緒で…(-v-;
警察のツテを使うて動いとったんや。。』
「…動いてたって何を??」
『…場末の赤字だらけの高校に…
女子として通えるよう手配してくれた。』
「…でも泉は報緑で…
陸上を続けるつもりやったんやろう??」
『けど…しゃぁないやん。。(;v;)
ウチは競技者の選択とは比較にならん
重い選択をしてしもたんやから。。』
「……(´゜v゜`)」
…その通りや。。
違和感を感じたとはいえ…
性同一性障害の診断を受けたとはいえ…
必ずしも心の性に従う必要はない。
男として競技者として生きるという
選択肢は残されていたはず。。
けど決めた以上…
男として決断した以上…
中途半端は認められない。
それが佐野家の道理。
だから報緑には断りの電話を入れ…
泉は天下茶屋に進学した。
泉から見れば陸上でも学力でも
レベルの釣り合わない高校に来た理由…
兄貴に負けない競技者であることをも
諦めてしまったのも実は…
男として道を貫くためやったんや。
だから泉は競技者としての可能性も
学業の成就もあるべき性別さえも捨て…
矛盾を抱えながらも天下茶屋高校で
平凡な女子高生を振る舞った。
そしてその裏で一人で走り続け、
卒業と同時に競技者の足跡を残して…
その後は本格的にその生き方を。。
『せやから…ありがとうな。(-v-;)』
「…なんで急にお礼??」
『実は…最後をどうするか迷ってた。。
アスリート佐野泉がどれ程かを示すのに
適当な幕引きが見えんかったから…』
「……たしかに。。」
『でもそれが都大路なら…
高校生ランナーの頂点なら…
今のウチには勿体ない舞台やから。。』
「……(・n・;)」
…最後の舞台。。
ワシらと違って本当に…
復活の可能性のない最後の最期。
佐野三兄弟の末弟。
アスリート・佐野泉に相応しい幕引き。
そのためにもワシらは…
都大路に行く以外にないやろな。
(; ・`n・´)
頂点たるランナー佐野泉…
MtFである佐野泉…
両立することはできずに泉は
心ならずもMtFの道を歩むことに。
そんな佐野泉の最後に残された
ランナーとしての一縷の希望。
それが…都大路。。
(・_・;)




