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徒然超短編集

明石三太の切実(山椒短編集番外編)

作者: りったん

お借りしたお題はありません。

 明石あかし三太さんた。引っ込み思案な彼は、業界最大手の「三毛猫ハルナの光速便」に勤務していたが、ある事が切っ掛けで職を辞した。そして、生まれ故郷であるG県のS仁田町に戻っていた。以前から、両親にせがまれていた稼業を継ぐ決心をしたのだ。S仁田町はG県のかるたにも出てくるねぎ蒟蒻こんにゃくの名産地だ。三太の実家はその中でも指折りの農家である。本来なら、長男の一太いちたが継ぐはずだったが、一太は恋人と駆け落ちして、行方を眩ませてしまっている。そして、次男の二太にいたは生まれつき身体が弱くて、成人してからも入退院を繰り返している。そのため、東京で仕事に就いていた末っ子の三太にお呼びがかかったのだ。

 最初はかたくなに拒否していた三太であったが、ある事を境に考え方が変わった。それは、乳酸菌飲料のナクルトを販売しているナクルトレディの荒川真央に惹かれて告白し、彼女の心を酷く傷つけてしまった事である。一時は、その前に心を惹かれていた建設会社勤務の武藤綾子にもう一度アタックしようと考えた三太だったが、綾子の先輩である波野陽子に綾子には恋人がいる事を教えられ、諦める事にした。そこに至り、三太は両親の事を思い出し、実家に連絡を取ったのだ。両親は三太の想像以上に喜んでくれた。三太は両親の手放しの喜びようを感じ、東京を去る決心をした。

 会社の上司に辞意を伝えると、最初は引き止めようとしたが、三太の意志の固さに気づき、渋々承諾してくれた。ハルナ運輸は大手企業で、就職するのも大変だったのを思い出した三太だったが、後悔はなかった。それに東京にいると、未練ばかりが膨らんでいくとも思ったのだ。


 実家に戻ってから、数ヶ月が過ぎた。三太はすっかり稼業に馴染んでいた。子供の頃、兄達と一緒に手伝っていた頃の勘も戻り、むしろあの頃より機械化が進んだ分、作業は楽になったと感じた。そして、農協の会合に参加し、一階のロビーで青年団の人達と談笑していた時だった。

「只今戻りました!」

 聞き覚えのある女性の声が聞こえた。何気なくそちらに目を向けると、そこにいたのは、農協の保険のセールスレディとして働いている真央だった。真央は三太に気づかず、同僚達と熱心に仕事の話をしている。

「真央ちゃんも、お前と一緒で、東京から戻ってきたんだよ。前から知ってたっけ?」

 青年団の支部長が三太に囁いた。三太はギクッとして、

「いえ、前からは知っていません。東京でばったり会った事がありまして……」

「へえ、そうかや。奇遇だなあ。声かけてやれや、三太。きっと懐かしがるぜ」

 何も知らない支部長がニヤニヤして三太の脇腹を肘で小突いた。三太は苦笑いして、

「懐かしがるも何も、二三度仕事で顔を合わせただけでしたから、覚えてないと思いますよ」

 そんなやり取りをしていたのが聞こえたのか、真央が三太の方に視線を向けた。三太は真央の視線を感じ、俯いてしまった。

「お久しぶりです、明石さん」

 驚いた事に、真央は笑顔で近づき、三太に声をかけて来た。三太は驚いて顔を上げた。

「覚えてねえって、おめえもとぼけてる奴だなあ、三太。真央ちゃん、ちゃんとおめえの名前を言ったじゃねえかよ。もしかして、付き合ってたのか、おめえら?」

 支部長が悪乗りしたので、三太はビクッとした。

(そんな話をしたら、荒川さんがまた……)

 真央のトラウマが甦ると思ったが、真央は微笑んだままで、

「もう少しでそうなるところだったのですけど、私が仕事を辞めて、こっちに戻ってしまったんです」

 その言葉に三太は目を見開いて真央に視線を向けた。

「あの時のお返事、今からでも遅くないですか、明石さん?」

 真央はバツが悪そうに上目遣いで三太を見た。

「あ、荒川さん……」

 三太は目を潤ませて自分を見ている真央を立ち上がって見つめ返した。

ということでした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 律子さん、執筆お疲れ様でした。 続編ありますよね! この終わり方は納得できませんよ。三太らしくないもの!
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