皇都
「対吸血鬼の専門機関?」
(あれか、エクソシストか!聖書を鈍器代わりに殴って聖水という名の毒水をぶちまけるお仕事ですね!)
多大な勘違いをしている俺であった。
「ええ、そうです。吸血鬼による被害が増えるにあたって200年ほど前に設立された騎士団です。今となっては国の一騎士団より力があるといわれる教会の持つ主戦力ですね」
確かに、鬼族が人間の国家に迷惑をかけているということはあった。
この3年間で回った国々でも被害があり、俺が解決のために出向いた事件というものもある。
しかしそのほとんどはグールになりかけのはぐれ使徒やグールといったものであった。
(鬼族本人だったら、俺じゃかてねーよ。ははは)
その後、俺たちは一緒に皇都までいくことになり、そのまま俺の野営地で夜を明かした。
次の日俺たちは連れだって、皇都へむかった。
「そういえば、こんな皇都のちかくに盗賊なんて出没するのですね。聖パルティア皇国って結構治安が悪いのですか?」
「あれはですね、盗賊の格好をしていましたが多分盗賊ではありません」
「え?偽装?」
「ええ、今回私どもは北にあるアスキニスと鉄道をつなげる計画をしていまして。今回は、まず皇都から北にあるサンパウロまで線路を伸ばす予定なのです」
「あーなるほど。この2つの町の間の交易路を利用している商人で、この話に1枚噛めない大商人がいて逆恨みでウルさんを亡き者にしようとしているのですね」
「そうです。ご理解が早いようで、ロアン様も商人に向いているかもしれませんね。まぁあの盗賊も雇われ傭兵の扮装といったところでしょう。彼らも自分たちの利益も守るために必死なのですよ」
「はは、おだてないでください。商人なんてとてもとても。腹芸なんて無理ですから、すぐ顔に出るタイプです」
この程度なら、日本で大学に行っているような人たちならすぐ理解できるだろう。
もともと商人なんて大変そうなことはやる気がなかった。
「この話も実は費用面で話がこじれていまして、現段階では実現するかどうかあやしいのです。ですので、まさかこのような強引な手段に出てくるとは思いもよりませんでした。」
油断していましたとウルさんの言。
「あれ?鉄道なら物資の運行などで元などすぐに取れるのではないですか。ましてやアスキニスとつながるということはそこから3国との通商も可能ですとなれば、多少先行投資にお金を掛かっても莫大な利益が帰ってくると思うのですが」
「見た目は派手で便利なのですが、線路がすぐに歪んでしまって脱線事故が多いのですよ。本数が少なければ朝に見回って歪んでいる線路の取り換えなどができるのですが、元を取ろうと蒸気機関の数を増やすとどうしても」
いやはやと深刻そうな顔になる。
こちらにきて、この問題はたびたび聞くし解決策も知っていた。
なぜならこちらの線路には枕木はあるが砂利が引いてないからだ。
あれでは衝撃吸収の問題で地面が持たず線路が傷む。
日本だと、その砂利をカラスがいたずらで線路の上に並べていたなといらないことを思い出す。
「ああ、それなら解決法がありますよ。線路の下に砂利を引けばいいのです」
「は?砂利?」
ウルさんは信じられないという顔をしている。
「ええ、衝撃を分散して線路にかかる負担を減らすことができるのです。地面に縦穴を掘って砂利を引いた上に線路を引けば、相当長持ちするでしょう」
「本当にそれだけで、変わるものなのですか?砂利を引くなど話にも聞いたことがありません」
この世界の文明では理解できないといわれてもしょうがないだろう。
まして、俺みたいな専門職でもない見た目子供に言われれば、信用できないのはなおさらだ。
「それについては、僕はアドバイスくらいしかできませんよ。絶対の保証なんてだれもできませんしね」
自分で考えろと丸投げした。
この件で利益を得ようと思わなければ気楽なものだ。
「いえ、申し訳ありません。面白いアイディアありがとうございます。さっそく都に戻ったら職人と話し合ってみます」
はっとした表情をしたウルさんは、俺が言わんとしたことに気づいたのだろう。
商人の顔になってお礼を言ってきた。
「それで、ロアンさん皇都ではだれかお知り合いの家に泊まるのですか?宿に泊まる予定なのでしたらうちの家にいらしてください」
予定道理聞きたい言葉が聞けた。
これで衣食住にこまらないだろう。
線路の改良案はウルさんに価値のあるものとして受け取ってもらえたようだ。
ウルさんがこれから手に入れる利益と比べたら全く釣り合わないだろうが、何もせずに宿で金を払うよりはいい。
「お邪魔でないのでしたら厄介になります」
ウルさんの家について、その威容にびびっていた。
道中で仲良くなったカティに耳打ちする。
「ちょいちょい、カティの家金持ちだな」
「だーろー、皇都でも3本指に入る商会なんだぜ!かんがえてもみろよ、これが次男って理由だけで俺ものになんないんだぜ。やってらんねーよ」
「いや、理由の半分はカティに商才がないからじゃないのか」
「ぐふぅ。もっと優しくして、今どきの子はガラスのハートなんだから!」
「知らんし、いやー今日の夕飯なにかなーうまいものプリーズ」
家に入ると使用人がおり、俺の荷物を預かってくれた。
「ロアーン、先風呂入って来いってさー。一緒に入ろうぜ」
「お?風呂なんてあるのか。いいね、男はやっぱり裸の付き合いしないとな!」
俺たちは連れだって風呂場に向かった。
ウルさんは帰ってくるなりすぐに店の方に行ったらしい。忙しい人だ。
多分、列車の事だろうけど…
それは夕食の場の出来事であった。
風呂でさっぱりした俺たちは食卓についていた。
「なーなーロアン。今後の予定ってどうなってるんだ?この皇都でなんかやることあるの?」
「んーとくにはないねー。とりあえずニートする予定」
「にーと?」
「簡単に説明すると人のお金でぐだぐだ生活して、明日から本気出すっていいながらごろごろすること」
「いいなそれ!おれもなりたい」
「そうならでていきなさいカティ。うちはそんな子養いませんからね」
すかさず、一緒に食事をしていた恰幅のいいおばちゃんがいう。
カティのお母さんらしく、歳も40に手が届きそうだった。
いま食卓を囲んでいるのは、俺とカティとカティのお母さんに妹だった。
親父さんと長男は、2~3日帰らないと伝言があった。
鉄道のことで忙しいのだろう。
「うそっす。お母さま、俺、超働きますから!」
「おにいちゃんのばーか」
(うん、罵倒する幼女もアリだな)
「うっさい、メーディアはだまってろ。そんなことよりさ、ニートって結局はやることないってことだろ?俺と一緒に来月の神殿騎士団の試験うけないか?親父に言えば今からでもねじ込んでもらえると思うからさ」
メーディアちゃんがちょっと涙目になってお母さんに慰められている。
(あれだね、ちょっと涙目になっている幼女もいいよね)
「へ?本気で?俺が?他国の人なのに?」
吸血鬼である俺が、対吸血鬼専門部隊にはいっていいのだろうかという疑問が出てくる。ありかなしかで言えば、
「ありだな!予定もなかったし、ウルさんがいいっていうなら暇つぶしにいいな」
「うっし、そうこなくっちゃ。んじゃ明日から特訓しようぜ」
「特訓?なんの?」
「えっロアン強いじゃん。戦い方おしえてくれよ」
「や☆だ☆」
「えー、なんでよ」
「だって、どうせ騎士団はいったらいやっていうほど訓練するだろ?だったら生半可なことしているより、基礎体力つけた方が絶対いいって。あと、騎士団はいったら暇なんてないだろうし、せっかく皇都来たんだし観光したいわ」
後めんどくさいしとボソッと付け加える。
「なら観光案内はするから、俺と一緒に基礎体力つけよーぜー」
「んじゃ、俺が昔やっていたやつやるか。多分3時間くらいで終わるやつ」
俺は高校時代に部活でやっていた地獄の筋トレを思い出しながら言う。
(多分カティしぬな…)
今回は短いです。ただ3時間の筋トレって半端ないですよね