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ベルッセンの鬼(仮)  作者: あかいひと
プロローグ
3/33

翌朝

目が覚めると、俺はキングサイズのベッドにシルクの羽毛布団に包まれていた。

窓からは夕日が差し込み、太陽が空を茜色に染めていた。

そろそろ夕方のようだ。


「えーっと、夢じゃなかったのね」


昨日のことを思い出しながら、ちょっとうれしいようなやるせないような気持になっていた。


「せっかくいい大学はいったのにな…全部無駄か。」


口ではいっていても俺はまんざらでもなかった。

望んで入った大学であったが在学中に目標を失っていたため、順風満帆とは言い切れない状況にあった。

仲のいい友達はいたが、大学での他人の行動をネタに足を引っ張ろうとするどろどろとした人間関係にうんざりしていたこともあった。


「あっちでは、嫁もいなかったしなー。吸血鬼って不老不死っぽいし、魔法とかもあるし、太陽にあたって死ぬわけじゃないしけっこうたのしいかも」


一人ベッドの上でにやける俺だった。


コンコンコン


「ロアン様起きておいででしょうか?」


ノックとともにアリダの声が聞こえた。


「あー、えー、ど…どうぞ?」


慣れていないのでなぜか疑問形で答えてしまった。

ガチャリと音とともにアリダはおばちゃんメイドを従えて部屋にはいってきた。


「おはようございます。ロアン様」

「おはようございます。お坊ちゃま」

「おはよう、アリダさん。あとおばちゃ・・・」

「おやおや、まぁまぁ。私にも挨拶してくれるのですか。本当にお代りになられましたね。ですが私はヴァイヴァという名前ですよ。」


おばちゃんと最後まで言わせてもらえなかった。なんでこう、ここの人たちは押しが強いのだ?国柄なのか?


「うん、おはよう。ヴァイヴァさん」


そうこう言っているうちにおばちゃんメイドが服を取り出してきてベッドの上に置いた。どこから出してきたし…


「ロアン様。今日のご予定ですが、食後にこれからロアン様の魔法と武術の家庭教師となる先生との挨拶をしていただきます。」

「あれ?家庭教師なの?贅沢だねー」


シャイボーイな俺は、一対一での授業というものに若干の抵抗を覚えた。

ボーイっていう歳でもないけどさ。

一応こっちでは15歳だしボーイでもいいじゃない!中身は21だけど…

アリダは無駄口をたたかずに、着替えを手伝ってくれた。

シルクのシャツにスラックスという割とラフな格好だった。







着替えが終わって食堂に顔を出すとパパンが座って待っていた。家族は俺とパパンだけなので食事は二人きりでするようだ。


「おはようございます。お父様。」


(お父様だって、うちの親父にも行ったことないのになー。)


自分のことながら目の前の20代にしか見えないパパンにいうのは違和感バリバリであった。


「ああ、おはよう」


それだけこたえて、パパンは黙って食事をはじめてしまった。


(なにこれ、超気まずい。パパンどんだけ子どもとコミュニケーション能力ないんだよ。どうにかしてくれよ)


俺たちは気まずい沈黙の中使用人に見守られながら朝食(?)をとっていた。


「あの、お父様」

「なんだ?」


すぐに返事が返ってくる。食いつきだけはいいなパパン…


「本家へ行くそうなのですが、本家は遠いのですか?」

「ああ、本家へは馬車で2日かかる」


これだけで会話が終わってしまった。


(ぱ・・・パパーン。こうもうちょっとだな!会話ってやっぱキャッチボールでしょうが!もっとないの?なにかないの!?というか移動手段馬車だと…2日間この空気の中馬車で移動するのかよ…たすけてよ、ママン)


まわりで使用人たちがハラハラしているのが手に取るようにわかる。

使用人たちは主人の会話に割り込むような不作法もせず見守っているが、もう俺は余裕で泣きが入っていた。

食事はいいものなのだろうがこの重苦しい空気のせいで味が全然わからなかった。

結局、パパンと会話したのがこれだけで終わってしまった。







精神的に疲労して自分の部屋で休んでいると再びドアがノックされた。


「は~い。どうぞ」


二度目であるので多少はさまになった返事ができたと思う。返事をかえすとアリダがドアを開けて入ってきた。


「ロアン様。そろそろ家庭教師のサラ様がおみえになります。応接間へご案内するのでおまちください」


あいかわらず、アリダには俺に選択肢をあたえるということがないようだ。

なんか力関係が出来上がっている気がする。

まぁ、反抗する気もないけどね…


「はいはいっと。そういえば、魔法とか武術以外のことは誰がおしえてくれるの?他にもくるわけ?」

「いえ、その件につきましては、ほかの方にお願いすると問題が発生しそうなので特例として私が担当することになりました。」

「なるほど、俺はこっちの常識ないもんなぁ」


アリダについて部屋をでて応接間へ向かった。


「それで、サラさんは魔法使えるのだし、鬼族の人?」

「はい、そうです。このたびロアン様が三立の儀を終えるにあたって家庭教師の件をミリン家に依頼したところ、サラ様が快く承諾してくださいました。ロアン様も失礼の無いようにお願いします。」

「そんなこといったって、こっちの礼儀とかしらないよー。」

「それならば私に話を合わせてくれるだけでいいです。よけいなことを言わないでくださいね。対策として今日の午後から本家へ行くまでの間、私と行儀作法の訓練をいたしましょう。」


完全に藪蛇だった。しばらくはスローライフを楽しめるかと思っていたのに、いきなり花嫁修業とは…でもあたいまけない!



応接間に入った俺は、ぼけっとしながら暖炉の上にある風景画を見ていた。そうすると外から馬のいななく声が聞こえてくる。


(噂のサラさんがきたのかな。サラっていうのだから女性の人だよね。あっ…やばい、俺の名前ってなんだっけ。まさか黒柳 慶一です、とかあっちの名前を名乗るわけにはいかないしなあ。ロアン…うーん、わかんね)


割と追いつめられてうんうん言っているとドアがノックされてアリダと背の低い男装した女の子が入ってきた。そのため、席を立って挨拶をしようとすると、アリダ目線で制されていた。


「ロアン様。こちらが、家庭教師をしていただく、サラ・ミリン様です。」

「サラ・ミリンです。」


紹介された女の子は家庭教師らしい。

見た目は背が低くかわいらしい女の子だった。

髪の毛は燃えるような赤で、地球にもいた茶色がかった赤とは全く違った。

その髪を後ろで軽く縛って背中に垂らしていた。

そして、ウエストは引き締まっており寸胴というわけではないが、胸が断崖絶壁だった。ふつう女性なら胸がないといっても多少はあるものだがものの見事にない。


(幼女か。でも家庭教師役ってことは子供じゃないのだし、いわゆる合法ロリってやつか。すげえな鬼族って)


「そしてサラ様。こちらがラドヴィラ家の次期当主であるロアンダール様です。」

「ロアンダールと申します。」


アリダが紹介してくれたおかげで自分の名前がわからないという間抜けなことをさらさずに済んだ。


「ふむ。君がロアン君か。話と聞いていたイメージが違うな。いきなりそんな失礼な視線を受けるとは思わなかったぞ。」


どうやら俺の視線はバレバレのようである。女性ってそういうのするどいですよねー。


「だ…だって、合法ロリ…」


普通にぶんなぐられました。予備動作なしからいきなり腹にパンチをもらった俺は、体をくの字におりながらあえいでいると上から声が降ってきた。


「君はなんと言おうとしたのかな?私はこれでも今年で182になるのだけどね」

その声に恐怖を覚えた俺は苦しさを無視して、というか鬼族の特性なのか痛みはすぐ引いたのだが、背筋を伸ばして直立不動の姿勢になった。

「いえ、教官殿!とても美しくて素敵であります!」

「んむ、よろしい」


意外にサラさんは、ノリノリだった。


(怒っているっていうより、上下関係をわからされた感じだな…これがしつけってやつか。反抗する気が起こらねえ…)


「よ…よろしくお願いします」


俺に尻尾があったら完全に垂れていただろう、こっちの世界に来て負け犬っぷりが半端ない。


「それではサラ様。これからお部屋にご案内いたします。お荷物の方も、先に運び入れさせております」

「あ…あれ?サラさ…教官殿もこれからこの屋敷に住むのですか?」


名前で呼ぼうとしたらサラさんに睨まれてしまった。呼称は教官殿で決定らしい。


「ミリン家はラドヴィラ家から馬車で3日程度離れております。ですのでロラン様が成人するまでサラ様にはラドヴィラ家に住んでみっちりと鍛えていただくことになります」


とても良い笑顔でアリダに宣言されてしまった。

サラさんもうんうんとうなずいている。


「ではサラ様お荷物のかたづけもあるでしょうから、こちらへどうぞ」


俺が何か言う前に、サラさんはアリダに連れられて行ってしまった。特にやることもなくなった俺は、自分の部屋に戻ることにした。


(なんか、ほんとに顔合わせだけだったな。サラさんも悪い人じゃないっぽいしいっか)









部屋に戻った俺はやることが無かったので、自分の体についていろいろ調べてみた。

爪や牙は、ほんとに自由自在に伸び縮みができた。

耳を動かせるようになった時のような、なんで今まで着なかったのか不思議な感覚(?)といった感じだった。

次に爪の強度チェックをしてみた。

そしたら切れる切れる。机だろうが大理石の床だろうが金属の水差しまで簡単に切れてしまった。


(鬼族こえー。これだけですごい武器じゃないか…金属まで余裕で切れるなんて…よし!お次は筋力チェーック。ふはははは)


なんとなく楽しくなってノリノリになってきた俺は、キングサイズのベットを持ち上げてみることにした。

ずっ。割かし簡単にもちあがってしまった。

これならもしかしてと思い力を入れてみるとベッドの四肢を完全に持ち上げることに成功した。

ただその時、持っている部分からミシミシミシとゆかいな音が聞こえたのであわてて下ろすことになったが。


(やっべ、普通に持ち上がった。これ車とかでも普通に持つ挙げれるレベルだな。握力も結構あるみたいだし10円玉折り曲げるとか、リンゴを握りつぶせるとかできるかも。うへへへへ)


残念ながらここには10円玉もリンゴもないので目についた金属製の水差し君に犠牲になってもらうことにした。

水差しの中身を窓から捨てると片手に持って、ミスターなんちゃらよろしくヘアッと掛け声をかけながら力を込めてみる。

水差しは特に抵抗もなくぐにぐにと変形させることができた。

なんだか、楽しくなってきたのでそのまま水差しを変形させて遊びだす。

(よし、これで鶴でも作るか!まず頭をこうして羽の部分を爪で切り裂いて、あと模様もつけて…)


熱中しすぎた俺は、ノックの音にも気づかなかった。


ガチャリ


「失礼します」


アリダが返事も聞かずに入ってきた。

俺にはプライベート空間なんて存在しないのですね…

アリダは入室して部屋の微妙な変化に鋭く気づき目を厳しくいかつらせた。


「ロアン様、いったいなにをしでかしておいでですか?」


俺は、悪さをお母さんに見つけられた子供よろしくばつが悪い顔になった。


「いあー、暇だったからできることとできないことを調べてみようかなっておもったらなぜか鶴つくる作業に…てへっ」


ちょっとかわいく言ってみた。やっぱりいい年して『てへっ』はないか『てへっ』は…

アリダはあきれ顔になっていた。


「さすがに『てへっ』はないと思われます」


(ちくそう。的確に傷をえぐってくるなこの人!どSすぎるわ)


「それと、ロアン様は三立の儀を終えたばかりですので、身体能力に関してはこれから徐々に強くなっていくものです。いま、調べたところで1年後に同じということではありませんよ。成長期なのですから。それに鬼族は、歳を経ることに能力は強大にないって行きます」


衝撃の事実をアリダから教えてもらった。


「はぁ?まだ強くなるの?鬼族ってどれだけよ…」

「いえ、この程度普通ですよ?それならば力比べをしてみますか?」


誘われるがままにアリダの差し出した手を俺はつかんだ。


「ちょっ。いっ痛い痛い痛い。」


アリダが握った手に力をくわえるとその力の強さに俺は膝をついてしまった。こちらも力を入れて反撃しようとしたが、全く相手にならない。アリダは俺の悲鳴をひとしきり堪能すると手を放してくれた。


(痛すぎるわ…っていうかアリダさんはSすぎるよ。超うれしそうだったもん。)


「このように成人した鬼族と三立の儀を終えた直後の鬼族では力の差が全然違います。ロアン様もサラ様のもとでしっかりと鍛えていただければ、私など相手にならないほどになると思いますよ。」

「ふーふーふー。握りつぶされるかと思った」


俺は赤くなった手をさすりながら涙目になっていた。


「大丈夫ですよ。たとえ握りつぶされたとしても治りますから」


とてもいい笑顔のアリダだった。


「そ…それで、アリダさんはどうしてここに?」


(なんだろうもうこの人に勝てる気がしないのだけど…)


「はい、昼食の準備が整いましたので、呼びに参りました。昼食後は、私と礼儀作法の勉強ですので、よろしくおねがいしますね」

「は~い。わかりましたー」


もう、いやな予感以外何もしない俺であった…


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