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ベルッセンの鬼(仮)  作者: あかいひと
見習い騎士編
11/33

帰郷

旅行と風邪のダブルコンボで更新が遅れました。申し訳!

 試験が終わって次の日、俺はラドヴィラの実家にいったん戻ることにした。試験結果の発表までには1ヶ月かかる。なんでも、合格者の身元を洗いざらい調査するためらしい。その間カティの家でごろごろしていてもいいが、久々に帰郷して現状報告することにした。

 丁寧にあいさつをして昼ごろに皇都を出発した俺は、そのまま夜まで歩き続け夜からは固有異能『韋駄天』を使用し走った。そして、火が明けると適当なところで休み夜型生活になった。

 こうして、馬で1週間程度かかる道のりを4日で走破することができた。とくにルーベンス地方に入り、周りの目を気にする必要がなくなり街道を爆走できたのが大きい。ラドヴィラの家にたどり着いたときには、空にまだ星が瞬いていた。

「おかえりなさいませ、ロアン様」

 何の連絡も入れていないのにアリダが家の前で俺を出迎えてくれる。

(アリダさんの執事スキルは高いな…なんで帰ってくるのがわかったんだよ)

そうひとりごちながら、あいさつを済ませると屋敷にはいっていく。そうすると、階段の踊り場にいつぞやのようにパパンとリーディアがよりそって立っていた。

「…おかえり」

俺があいさつすると、パパンは顔を少し赤らめながらそういって去って行った。後ろではリーディアが少し苦笑しながら目で挨拶をして後を追っていく。

「ルーベン様は、ロアン様が旅に出てから全く帰らないのでずっと心配しておりました。昨日やっと気配を察知して、ロアン様が帰ってくると上機嫌でした」

(なるほど、帰ってくるのに気づいたのはパパンか…)

「全く帰らないって、1年に1度は帰っていたと思うんだけど…」

「それだけ、大切に思っておられるということですよ。息子LOVEですからね」

「ツンデレが悪化している感ならあった!」

それには、こたえず微笑みながら夕飯でもどうですかとうながしてきた。食事もまだだった俺は久々の実家の食事に期待しながら旅の垢を落とすのであった。



 風呂に入ってさっぱりした俺が食卓に着くと、そこにはパパの姿があった。もちろんのこといつも道理あまりしゃべらなかったが、こちらには旅の報告があるので久々に親子の交流|(?)になった。リーディアもアリダも後ろに控えている。一緒に食事をした方が楽しいのにと思うが、この人たちには反対されるし、アリダには逆らえる気がしない。

「…そういうことで、神殿騎士団の入団試験を受けました。多分ですが合格して、しばらく働くことになると思います」

「そうか、元気ならいい。あまり危ないことはするなよ」

 吸血鬼のくせに対吸血鬼専門機関に属することにした俺も俺だが、それを聞いて眉をぴくりともさせないパパンも相当なものだった。ありがたいことに心配はすれども、拘束する気が無いらしい。

 話題がなくなり、いつもの沈黙が落ちた時、苦し紛れにエマちゃんやヴラド君の話を出すと、珍しくパパンは顔をしかめた。

「エマ嬢のことだが、今は隣のエルフェミア領に領主としている」

「エルフェミア!?あのエルフェミアですか?」

 エルフェミアは俺にとって鬼門だった。こちらの世界にきて初めて、いや人生26年を通して初めて死を意識した。同時に、鬼族として高い能力を得た俺の鼻っ面もへし折られもした。それは、数百年と生き老成した鬼族との戦闘だった。サラさんが助けに入ってくれなかったら確実に死んでいただろう。今でもあの時の恐怖がよみがえる。

「そうだ。あの事件であの領地は領主を失った。代わりの領主を本家から出すことは別に珍しいことではないが…」

歯切れが悪い。エマはまだ16歳だ。三立の儀を終えたとはいえ、まだ正式に一人前の鬼族とみとめられるほどではない。本家には、もっと歳を重ね一人前とされる鬼族がいるはずだ。

現在も家庭教師がエマにつき、その合間に領主としての仕事をしているらしい。ただでさえエルフェミアは前の領主によって荒らされた領地だ。苦労も多いだろう。

「どうしてそのようなことになったのですか?」

 鬼族は、数も大して多くないことからすべてが親戚だ。これにより明確な政治・法律・納税といったものはないが、本家と分家の関係は、王族と臣下の関係に近い。本家の家長ともなれば、それ相応の権力をもちすべての鬼族に対して影響を持つ。このため、そこには権力争いといったものが発生する。

現在、鬼族にしては珍しいことなのだが、本家の家長は妻を3人もっている。いや、持っていたといった方が正しい。この3人の中でエマ・ヴラドの母親が5年前に亡くなっているからだ。

分家の介入を一切許さない本家は、跡目争いにおける後見人は母親以外ありえない。この状況で母親はいなくなるということは後ろ盾がなくなるということだ。そのために、エマとヴラドは跡目争いに敗れ、いわくつきの領地に押し込められたという話だ。

「ですが、逆に良かったのかもしれませんね。あの二人であれば、特に本家の家長の座に興味を示さないでしょう。逆にこれで、彼らの安全は保障されましたし」

「そうだな、ロアン。あの二人の様子でも見に行ってあげたらどうだ?本家と違っていきやすいだろう」

「そうします。アリダさん二人に訪問することを告げる旨をお願いします」

 かしこまりましたとアリダが答えるころには、外はお日様が高く上り、いい時間になっていた。



 馬車に揺られながらいつも思う。鬼族にとって日中よりも断然に夜間の方が快適に過ごせる。なぜ、その快適な時間を馬車に揺られなければならないのか…このまま、エルフェミア領に着くころには朝日が見えているだろう。果てしなく何かを無駄にしているような、そんな不安気持ちになりながらいる。あ、正直いうと馬車の中が死ぬほど暇なのです。

 結局馬車がエルフェミア領についたのは、朝焼けがきれいにみえるころだった。エルフェミアの屋敷についた俺は、昔を思い出してドキリとしたが、玄関のところで出迎えてくれる姉弟をみつけてうれしくなった。

 俺は、姉弟の姿を見て馬車から飛び出しそうになる自分をぐっとこらえた。特殊な性癖を開花させてくれちゃったりした彼女らだが、今では感謝している。別にロリコンにしてくれたことをというわけではない。



 それは、本家で三立の儀を終わらして帰ってきてからのことだった。初めは、サラさんやアリダの講義についていくことでいっぱいで余裕などなかった。しかし、人間慣れる生き物で3か月すると精神的にも肉体的にも余裕が出てきた。その結果、余計なことを考え出す。

『なぜ、こんな所に来てしまったのか』

『日本に帰れるのか』

『体が鬼族になってしまったのはなぜか?人間に戻れるのか』

などなど取り留めもなく不安を感じていた。それにとどめを刺したのが、アリダの一言だった。

その日、いつものようにアリダによる外国語講座をうけていたのだが、ちょっとした休憩時間に俺がロアンとは違うという話になった。俺が以前の記憶は持たないがロアン本人であると譲らないアリダに対して別人だと思っている俺と喧々諤々に議論を繰り広げた。

「ならば、ルーベン様そっくりの黒髪も黒目も彫りの深い整った顔立ちもあなたが以前から持っているものだというのですか?」

「は?」

 黒髪黒目はいい。だが、日本人は彫りの深い顔はしていない。友達にはインチキフランス人みたいな彫りの深い奴もいたが、少なくとも俺はちがったはずだ。しかも特徴のない顔とはいわれたが決して整った顔立ちなどしてはいなかった。

 この時、ぞっと背筋が凍える感触を今でも覚えている。勝ち誇った顔をしているアリダにも気づかず鏡を凝視することしかできなかった。

もはや自分が誰なのか日本で生きていた記憶が本当にあったことなのか信じられなくなっていた。『黒柳 慶一』なんて人間は存在しないし、ロアンを助けるために擬似的に作られたウソの情報ではないのか。日本なんて存在せずにただの絵空事だったのではないか。それから恐怖で眠れない日々が続き、食事もろくにとれなかった。体力は低下し、体重もおちていた。そのために、訓練中に倒れることもざらであった。

 そんな俺を救ってくれたのがエマとヴラドだった。俺が教えた、『本当の名前』を信じて、無邪気なまでに俺の語る日本というものを信じてくれたのだ。ただそれだけのことだったのに、嬉しかった。

 今では、俺の中では自分は『黒柳慶一』から『ロアンダール・ラドヴィラ』に転生し、三立の儀の間に若干の混乱を伴いながら前世の記憶を取り戻したということにしている。本当のところは分からないが、あの二人が信じる俺でいようと心に決めた。



 結局館の前に馬車を止めるまで我慢できたが、嬉しさのあまり馬車から降りると二人に抱き着いてしまった。完全に欧米人のノリである。俺だって、こっちの世界で数年たったんだしそれなりに染まるのだよ!それに一応鬼族だしいいと思う。ぎりぎりセーフだ…と思う。

「ロアンさん。苦しいです」

どうやらアウトだったらしい。

「おっと、すまん。久しぶりだったから…つい…な!」

 それにしてもエマはまた綺麗になっている。前回あったのが旅に出る前の3年前だったから今は16になる。成長期を迎えて彼女は劇的な変化をしていた。子供から大人へ、だけど大人になりきれない瑞々しい美しさを持っていた。妖艶さや色気といったものは皆無な人形のような美、だけどそこに宿る強い意志を持った目と裏表のないまぶしい笑顔によってそれが人であることを示していた。

(さすが、俺に幼女趣味(カルマ)を背負わせただけあるな。順調に美人に育っている。将来この子が、『私この人と結婚するの』とか言って男連れて来たら泣き崩れるかもしれん…いや、本家の人間だし家同士の結婚とかになるのかな。うーん、すでに婚約者とかいたり?…どちらにしろ耐えられそうにないな)

「おにいちゃん、久しぶり」

 そういって、ヴラドが抱き着いてきた。

「おー、ヴラドか。大きくなったな。ヴラドは相変わらずかわいいなー」

 そういいながらヴラドの頭を撫で繰り回す。超絶癒される。うふふふふふふ。

 ヴラドは今年で13歳になるはずだ。人間が人生で一番あほになる年齢になってしまったが、ヴラドの持つ可愛さにまったく陰りがない。俺もこれくらいの年齢に友達の家に集まってエロ本観賞会とかやったな…そいつが親父の秘蔵の輸入物…げふんげふん、いやなんでもない。全くあれは子供が見るものではないぞ!モザイクの半分はやさしさでできています。

「ふむ、久しぶりに会っていきなり婦女子に抱きつくとはな。変態に育ったものだ。なあ?(ボウ)

 その声に反応して、俺の頭がギギギっとふりむく。そこには、ここにいないはずの人がいた。それは、燃えるような紅い髪をして、まるで幼女と見間違うような背の高さと断崖絶壁を持った鬼族だった。

「サラ先生」

「きょ・・・教官殿!?」


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