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ベルッセンの鬼(仮)  作者: あかいひと
見習い騎士編
10/33

試験

 カリカリカリカリカリ

支給された鉛筆を右手に問題を解いている。俺だけではない。部屋にいる全員だ。カティもこの部屋にいる。

 いま、筆記試験の真最中で監督官はカンニング対策に目を光らしている。支給された鉛筆は丸い棒状の木の先端に黒鉛を付けており、なくなったら新しい黒鉛と交換するものだ。これは最近発明されたもので、高価なものなのだが神殿騎士団では惜しげもなくふるまっていた。

(なんか、筆記試験と聞いたから心配していたけど、簡単な四則演算に文章問題。小学生か中学生の算数レベルだな…聖典の問題は写すだけだから余裕だし)

 聖典を写すだけとはいえ、どこに何が書いてあるかわからなければ時間がかかってしまうのだが、持込み不可だと思い暗記しようとしていた俺には余裕であった。

 開始たいして時間もかからずに終わってしまい暇になった俺は、周囲を見回していた。

 受験者だけで総勢150名程度。合格者の数は決まっていない。筆記より実技が重要といわれている試験だが受験者はみな真剣だ。試験内容は試験直前に告知があり、実技試験内容はいまだに公表されていない。

 暇なのでボーッとしている俺は、頭を抱えながら試験を受けているロアンをみつけ、心の中でがんばれ!超がんばれ!とエールを送っていた。それを監督官にみられ、睨まれたので、鉛筆を置いて爆睡してやった。


「はい、やめ」

 短い号令とともに筆記試験が終了した。これから一時解散し、昼食後着替えてから広場に集合し、そこで午後の実技試験の説明を受けることになっている。

「なぁ、今の試験難しくなかったか?」

カティが青い顔をしながらこちらに歩いてくる。

「えっ」

「えっ」

俺とカティがそろって驚きの声を上げる。

「ロアン、この裏切り者!筆記試験あるってあれだけビビってたのに余裕ってどういうことだよ!」

「いや…お前商人の息子なんだから、四則演算ぐらいできろよ」

「HAHAHA。それができないから家から追い出されたに決まってるだろ」

「あーダメだ。こいつ、早く何とかしないと…」

 俺の周りには、カティの大声に反応して人が集まってきていた。しかたがないので、ちょっとこいとカティを引っ張って逃げ出す。

 二人は、カティのお母さんにつくってもらった弁当を片手に教会の中庭までやってきた。ほかにも、ちらほらと受験者の姿が見える。日光の強い日であったので、木陰で昼食をとろうとしたらそこには先客がいた。

 先客はかわいい女の子だった。赤茶色の髪の毛を片側でまとめ、ぱっちりとしたネコ目はやや鋭い印象を与えていた。

「あれ?モカじゃん。試験受けてたの?」

カティは女の子を見つけるとすぐに話しかけた。

「ん?カティ、ナンパ?」

「ばっか、違げえよ。こいつとは単なる幼馴染だよ。なんでこんなやつナンパしなきゃいけないんだよ」

「ただの腐れ縁よ」

カティはあわてて、モカと呼ばれた女の子は嫌そうに言った。

「おい、カティ。お前ふざけてんのか…」

「えっなに?俺なんかした?」

俺の剣幕にカティだけじゃなくモカまで驚いていた。

「お前はいま、全国の幼馴染にあこがれるお兄さんを敵に回したんだぞ!」

「はぁ?なにいってんだよ。幼馴染なんてそんないいもんじゃないぞ」

「うるさい、馬鹿野郎。どれだけの人が、『朝やさしく起こしてくれるイベントが無くてもいい。ただ、幼馴染の女の子がいて気さくに話してくれるだけでもいいから幼馴染がほしい』とそう願って枕を濡らしたと思っている!」

「いやいや、ないない」

「ないなんてことあるか!幼馴染がいる。幼馴染が女の子。その子がかわいい。これだけでも世界の(モテない)お兄さんに嫉妬の炎を燃え上がらすのに十分だというのに、ぞんざいに扱うとはな!」

「モカがかわいいとか。ただガサツなだけだって」

カティが鼻で笑う。

「そうだよね。カティは服屋のレナちゃんが好きだもんね」

「ばっか。おめーちげえよ」

焦って否定するカティだが、顔が真っ赤では説得力が皆無だった。

「ちょいちょいちょーい。レナちゃんとかきいてないぞ。俺にも言えないことなのかよ」

「レナは、大通りにある服屋の次女で、すっごいスタイルがいい子なんだよ」

モカがさらっとばらしてくれる。

「ほうほう、モカちゃんだってスタイルいいのに、レナちゃんはそんなにすごいの?」

「ほっほめても何も出ないですよーだ。それにモカでいいよ。えっと…」

 ちょっと顔を赤らめるモカがかわいい。

「あ、俺はロアンダール。ロアンでいいよ。でカティはその子に告白したのか?」

「できるわけないだろ!あのレナちゃんだぞ!」

置いてきぼりを食らっていたカティが反応する。

「できるできる。なんでそこであきらめんだよ。もしかしたら、おっけーもらえるかもしれないだろ?」

「ロアンは割と無責任にあおるんだね…レナはスタイルいいし、すっごい可憐だし、亜麻色の髪の毛を伸ばしてて、大通りの服屋の看板娘やってるの。だから、すごい人気でだれがレナを口説き落とすかって話になってくらいなの」

「『町のアイドル』ってことか」

うんうんと俺がうなずくとカティがほっとした顔をしている。

「じゃあ、騎士団の入団試験に合格したら告白だな」

「なんでそうなるんだよ!!」

「ちょっと、唾をとばさないでください。座ってください」

激昂するカティに冷静に手をかざして座らせる。

「さすがに、私もいきなり告白しても無理だと思うよ」

モカもカティをかばいにまわる。

「現状で無理だとしても今後できるようになるとは思えない。それに神殿騎士団になってしまえば忙しくて余計に会えなくなるわけだから、さらにレナちゃんが遠くなる。だから家事手伝いから神殿騎士団員にランクアップした今以外にチャンスなどない!つまり今以外だめだったらずっとだめってことだ!」

「あーそっか、そういうことか。カティがんばれ!」

モカを丸め込むことに成功した。

「いやいやいや。ないない。」

「お前、レナちゃんがほかの男に取られてもいいのか!?こうしている今もイケメンに口説かれているかもしれないというのに!」

「そうだよ。たしか肉屋のデリスさんも狙っているらしいしね」

『イケメンのデリスさん』とモカも悪乗りしてくる。カティは誰の目からでもわかるように頭を抱えて苦悩している。

(もうちょっとだな。カティはあほの子だからたのしいのう)

「それにな、神殿騎士団ということは対吸血鬼のエリート部隊!町の肉屋や魚屋なんかと格が違うステイタス!いけるにきまってるだろ!」

「そっそうか!俺がんばるよ、ロアン。絶対入団してレナちゃんに告白するよ!」

希望と期待を胸にカティは高らかに宣言した。カティはそのまま自分の世界へトリップしたようだ。俺は、この偉業を後々まで忘れることはなかった。

(それで、カティはレナちゃんとどれくらい仲いいの?むしろ面識とかある?)

(一応レナは友達だから、カティとも小さいころに私の幼馴染ってことで遊んだことはあるけど。覚えているか謎だわ)

俺とモカはカティに聞こえないようにひそひそ話をしている。

(そうかならよかった。男であろうと女であろうと人を肩書きだけで判断する奴はろくな奴がいないからな)

(ちょ。ロアンさっきと言っていること違うじゃない)

(それはあれだよ。時には残酷な真実よりもやさしい嘘をっていうじゃん)

(うそなの!?本人はやる気になっているからいいけど)

「あれ?どうしたの?」

自分の世界へのトリップから帰ってきたカティは不思議そうにきいてくる。

「いや、なんでもないよ。それより早く飯くおうぜ。時間もないし腹減った。」

昼の時間も迫ってきていたので、俺たちは仲良く3人で座って昼食をとることにした。

「モカってさー、なんで騎士団の試験うけてるの?なりたがってたっけ?」

「んー、私は魔法学んでいるのはしってるよね」

「あーなんかそんなこといってたね。そういえば、ロアンも魔法使えたよな」

カティは初めて会ったときの野営で、魔法でたき火に着火したことや消火していたことをおぼえていたようだ。

「魔法?ああ生活便利スキルな。あれは使えるわ」

「生活便利っていうな!魔法にだって、可能性はあるんだから!!」

モカは涙目になってしまう。そこにカティが口をはさむ。

「それで、魔法の可能性ってなんだよ?全自動家事魔法とかでも開発したのか?」

「生活関係からはなれろ。バカぁ!聞いて驚け」

 ふふん、とモカは小ぶりな胸を張る。

「私の師匠はね。とうとう『攻撃魔法』を開発したの!」



結局、モカから詳しいことを聞く前に昼休みは終わってしまった。俺たちが今何をしているかというと、午後の実技試験だ。運動場に集められた俺たちは、監督官からの短くもありがたい試験内容説明を受けた。

『日が落ちるまで、トラックを300周してこい』

これだけである。トラックは1週200m程度だから60000m約60キロである。だいたいこの時期は後3時間程度で日が落ちる。つまり箱根駅伝の区間記録並みの速度で3時間走り続けろということだ。

走り始めはまだ余力がある。これからのことを考えるとげんなりするが。走っているとふとモカが見える。走りやすい格好に着替えたのだろうか太ももがまぶしい。

(それにしても攻撃魔法か。普通は眉唾物なのだが、あの子の感じだと微妙なものってわけでもなさそうだな)

攻撃魔法は、各国で研究されているがいまだに実現したものはない。効率が悪すぎるのだ。遠距離攻撃はできない、近距離では刀剣の方が威力が高いとあってはなおさらだ。現在、銃火器の発達に伴い、その傾向は増しているといわれていた。やっぱり、人間の国でも魔法は生活便利スキルとしての評価の方が高い。

走り始めて2時間目に突入するとちらほらと脱落者がでた。女の子のモカはすでに走りすぎて倒れて、医務室に運びこまれている。ほかのギブアップしたものは、運動場から外に出されている。

(魔法使いだって言っていたし、体力なさそうだしな…)

カティは、なんとかまだついてきているがきつそうだ。最初は話していたが、今はもう話す余裕もなさそうだ。俺も実際きつい。

(これほど、日光が恨めしいと思うことなんて今までなかった…)

夜間であれば、60キロくらいなんてこともないし3時間もかからないだろう。それに、旅に出る前に本家に行って手に入った2つめの固有異能である『韋駄天』がある。単純に移動速度が2倍になるというものだ。これを見たときに、韋駄天とか日本の神じゃないのかよ!って突っ込んだものだ。しかも、韋駄天が早く走るって俗説じゃなかったっけ…

だが、今はお日様が頭の上でがんばっている。固有異能なんてつかえないし、体力だって常人並みに落ちている。

3時間目に突入すると、残っているのは3人だけだった。俺とカティともう一人だ。俺は体力の限界を迎えて顎が上がってしまっているし、カティは『レナ、レナ、レナ』とブツブツ言いながらふらふらになってついてきている。正直、きもい。

最後の一人は、ペースダウンして時間内に300周間に合いそうな俺やカティと違って、いまだにペースを保っている。こいつと張り合うのは無益だと判断した俺は、カティと並走した。

「大丈夫か?もう少しで日が暮れる。それまでの辛抱だ」

 カティは、声を出す余裕もないらしく、首のかくかくさせて俺と並走する。これは、別にカティのためだけではなく、カティの存在が俺の支えにもなる。体力の限界を超えているのはカティだけではない。俺もいつ倒れてもおかしくなかった。

「そこまでだ」

 太陽が地面に着いたときに、短く号令がかかった。俺とカティはへなへなとその場に倒れて大の字に寝ころんだ。肩で大きく息をして、しゃべる余裕すらなかった。日が落ちてきたことにより、割とはやい速度で俺の体は回復していった。

 そこへ、最後の一人(化け物)が歩いてきた。

「どうやら、最後まで走りぬいたのは俺たちだけみたいだな」

「300周も走りぬいた化け物はお前だけだよ。俺は262周だし、カティは238周だ」

 少し落ち着いたので、上半身を起こした。

「お前…数えていたのか?途中から自分でも何週目かわからなくなっていたぞ」

「あー俺はロアンダール。ロアンでいいよ。んでこっちがカティ」

 くいっと指だけでカティを指す。

「そうか、俺はヘルマンだ。これからよろしくな」

「ん?これから?合否もわかってないのにか?」

「なにをいっている。毎年数十名とる試験で、俺たちを落として誰をとるっていうのだ。神殿騎士団の入団試験はコネや裏金で入れるほど甘くない」

「そういわれればそうだな、これからよろしく頼む」

 立ち上がるとヘルマンとがっちり握手をした。その隣でカティは見事に気絶していたが…


生足ってすごくいいと思うんだ。

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