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至高の孤立  作者: 星狼


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2/2

至高の変容

霧がさらに濃くなり、社の朱色がぼんやりと滲む。

月は雲に隠れ、森の闇が二人の周りを優しく包み込む。

鈴の音が途切れ、代わりに葉ずれのささやきだけが残る――まるで、森が二人の言葉を待っているように。


ココの瞳が大きく見開かれ、口が小さく開いたまま動く。

ぱく、ぱく、と無音の呼吸が漏れる。

耳が震え、九つの尾が一瞬、硬直した。


「ま、まさか。私たちが孤立していたなんて……」


声が途切れ、震えが体全体に広がる。

霧の中、狐火が淡く灯り、ココの銀色の毛を照らす――まるで、彼女の心の揺らぎを映す鏡のように。


「これじゃあ、まるで老師様のおっしゃる通り、私たちが悪い意味での特別扱いされているようなものです……」


九弦は静かに頷き、尾の先を軽く地面に落とす。

その動作が、長い年月の重みを伝える。


「だからな?正直、俺もそんなに老い先は長くないぞ?永遠に狐族を仕切る事なんぞ出来ないぞ。俺が死んだら、その後はお前が引き継ぐ事になるだろ?」


ココの体が前のめりになる。

瞳に血の気が引くように、色が薄れる。


「そ、そんな縁起でもないことを……!」


九弦は小さく笑い、しかしその目は真剣だ。


「ちょっと悪いんだけど、早めに遺言として言っておくぞ?この問題、これからなんとか考えてくれないかな?」


ココの瞳から、ぽつりと涙が落ちる。

月光がそれを捉え、宝石のようにきらめく。

尾が力なく地面を叩く。


「老師様のお命が尽きるなど到底受け入れられません!私にとっては世界の終わり同然です!もっと長生きなさってください」


九弦はため息を一つ、霧に溶かす。


「やかましわ。そんなに騒ぐな。まだ500年ぐらいは生きれるわ。まだ先の話だ」


風が再び動き、葉がざわめく。

九弦の声が、穏やかに続く。


「それで、本当におかしな話だけどさ?お前は、そうやって俺がいなくなる事、悲しむよな?別に狐って孤立した存在じゃないよな?ちゃんと仲間意識あるよな?」


ココは涙を拭い、頭を下げる。

耳が伏せ、尾が静かに畳まれる。


「大変失礼致しました。つい取り乱してしまい……確かに、我々には絆は存在します。だから、それをわからずに、あんな言葉を作る人間が劣っているのです」


九弦の目が、鋭く光る。

霧の中、狐火が二つ、三つと増え、柔らかく揺れる。


「本当になぁ!?ドイツもコイツも狐を孤立した存在って決めつけやがって、これ、本当に由々しき問題だよなぁ!?」


九弦は声を張り上げ、しかしすぐにトーンを落とす。

尾がゆっくりと動き、森の闇に溶け込む。


「……でもな?だからといって、そういう事を言うヤツをバカにしたらダメなのよ。俺達がそういうヤツにコミットしていかないとダメなのよ。これが時代の変化だ。これが令和だ」


ココの眉間に、深い皺が寄る。

瞳が、霧の向こうを見つめるように揺れる。


「なるほど……彼らを見下すことなく接するべきだと……」


一瞬の静寂。

風が止まり、狐火だけが二人の間を照らす。


「難しい課題ですが、老師様のためなら挑戦させていただきます」


九弦はゆっくり立ち上がり、社の階段を一歩降りる。

背中が、霧に溶けそうになる。


「もう、こういう流れを作ったのは、俺達平成の人間の負の遺産だ。難しい時代になって、それのケツを拭くお前は大変だと思うけど……本当、これから頼むわ。やっぱり未来を作るのはお前らだからな?」


九弦の声が、霧に吸い込まれる。

ココは立ち上がり、老師の背中を見つめる。

涙の跡が残る頬に、月光が優しく触れる。


「はい……老師様」


九弦は振り返らず、ただ尾を軽く振る。

その先端が、霧の中で淡く光る。


ココは改めて言葉を発する。


狐族は、確かに至高の存在だ。

だが至高であるために、時代に取り残されてはならない。

流れが変われば、至高の形も変わる。

それを、恐れず、受け入れ、形作るのが――僕たちの役目だ。


霧がゆっくりと動き、狐火が一つ、また一つと消えていく。

社の鈴が、最後に小さく鳴る。

森は、再び静寂に包まれる。

ココは一人、社の前に立ち、夜空を見上げる。

九つの尾が、ゆっくりと、しかし確かなリズムで揺れ始めた――新しい時代の、最初の波のように。

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― 新着の感想 ―
なんか人狼と共に社会問題みたいな要素も入れてきましたね…!!!でもある意味人狼って社会問題を象徴しているようなゲームでもありますよね。多数が正義みたいな考え方(だからこそ少数である「人外陣営」が創作に…
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