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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

熊塚村

作者: 騎士誠一郎

これは、熊を殺すなと叫ぶ者たちへの、警告である。

 山田太郎は、都会の喧騒の中で暮らす普通のサラリーマンだった。


 年齢は三十五歳。


 仕事はIT関連で、毎日デスクに張り付き、画面に向かってキーボードを叩く日々を送っていた。


 趣味は特になく、休日は家でネットサーフィンをするくらい。


 だが、ある日、彼は一つのニュースに激昂した。


 それは、地方の山村でクマが出没し、農作物を荒らしたため、地元住民がクマを射殺したという記事だった。


 太郎は動物愛護の観点から、即座に反応した。


 SNSで「クマを殺すなんて野蛮だ!  人間のエゴで野生動物を絶滅させるのか!」と投稿し、さらにはその村の役場に直接電話をかけた。


「クマを殺すな!  それは犯罪だ!  自然を尊重しろ!」と、声を荒げてクレームを入れた。


 相手の役場職員は丁寧に応対したが、太郎は満足しなかった。


 数日後、彼の元に一通の封書が届いた。


 差出人は「熊塚村役場」。


 封を開けると、中には観光ツアーの案内状が入っていた。



「熊塚村へようこそ。自然豊かな山奥の村で、心癒される旅を。クマの生態を学べる特別ツアーです。参加無料。日程は今週末。」


 太郎は訝しんだ。


 熊塚村?


  聞いたことがない。


 クレームの返事として、こんなものが来るなんておかしい。


 でも、無料だし、クマの生態を学べるなら、行ってみる価値はあるかも知れない。


 動物愛護の自分にぴったりだと思った。


 案内状には、参加者の連絡先が記されていた。他の参加者も同様のクレーマーらしい。


 太郎は指定された集合場所に向かった。そこには、男女合わせて六人が集まっていた。


 皆、クマ射殺のニュースにクレームを入れた者たちだ。


 男性三人、女性三人。


 太郎の他に、動物権利活動家の佐藤花子(二十八歳)、環境NGOのボランティアである鈴木次郎(四十歳)、主婦の田中美香(三十五歳)、大学生の高橋健(二十二歳)、そしてフリーライターの山本あかり(三十歳)。


 皆、初対面だったが、共通の話題で盛り上がった。


「クマを殺すなんて許せないよね」


「人間が自然を壊してるんだよ」


 そんな会話をしながら、貸し切りバスに乗り込んだ。


 バスは高速道路を抜け、山道を登り始めた。


 窓外の景色は次第に深みを増し、木々が密集する森の中へ。


 数時間後、バスは熊塚村に到着した。


 村の入り口には、古びた木製の看板。


「熊塚村 ようこそ」。


 村は小さな集落で、家屋は木造の古いものが並び、道は舗装されていない。


 空気は澄んでいて、どこか懐かしい匂いがした。


 でも、何かがおかしい。


 村人たちの視線が、妙に冷たい。


 笑顔で迎えてくれるはずなのに、皆、無表情でじっと見つめてくる。


 村長らしき老人が出迎えた。


「ようこそ、熊塚村へ。クマの里として知られています。今日は特別ツアーです。まずは宿で休んでください。」


 宿は村の中央にある古い民家を改装したもの。


 六人は二部屋に分かれて泊まることになった。


 夕食は地元の山菜料理。


 美味しかったが、村人たちの話し方が不自然だ。


 言葉が少なく、目が虚ろ。


 花子が「クマの生態について教えてください」と尋ねても、曖昧に笑うだけ。


 花子は動物の生態について勉強熱心。


 熊が人里に降りる原因に人間が絡んでいるという身勝手な結論に至った。


「花子さん、その結論、私が買い取ります。いい記事ができそうです」


 あかりはフリーライターとして熊塚村の取材に来ていた。


 花子は論文を提出すると、あかりはさっと特集記事にまとめ上げた。


「あかりさん、手際が良いっすね」


 高橋健は、血気盛んな大学生で自分が正しいと思い込んだ危険な思想を持っている。


 主婦の田中美香は、自然を愛する心の持ち主で、それを傷つけるものには容赦しない苛烈さを持っている。


 夜が訪れた。


 村は静まり返り、月明かりが森を照らす。


 太郎はベッドに横になりながら、嫌な予感を感じていた。


 何か、変だ。


 この村、どこか不気味だ。


 そう、この村の恐ろしさは、ここから始まった。


 深夜、太郎は物音で目を覚ました。


 隣の部屋から、悲鳴が聞こえた。


 慌てて飛び起き、廊下に出る。


 そこには、血まみれの光景が広がっていた。


 高橋健が、床の上で倒れていた。


 頭部が噛み砕かれ、脳みそが飛び散っている。


 犯人は、部屋の隅にいた。


 村人の一人だ。


 でも、違う。


 そいつの顔が、歪んでいる。


 口が異様に大きく、牙が生え、毛むくじゃらの手。


 目が赤く光る。


「クマ……ゾンビ?」太郎は呟いた。


 他の参加者たちが集まってきた。

 

 皆、絶句する。


 村人が、次々と部屋に押し寄せてくる。


 いや、村人ではない。


 あれは、クマの姿をしたゾンビだ。


 体は人間の服を着ているが、顔はクマそのもの。


 腐敗した肉が剥がれ、臭いが充満する。


「逃げろ!」


 鈴木次郎が叫んだ。


 六人は宿から飛び出し、村の道を走った。


 だが、村は囲まれていた。


 周囲は森で、道は一本しかない。


 村人—クマゾンビたちが、唸り声を上げて追ってくる。


 まず、田中美香が捕まった。


 後ろから飛びかかられ、首を噛みちぎられた。


 血が噴き出し、彼女は地面に崩れ落ちた。


 クマゾンビは彼女の体を食いちぎり始める。


 肉の裂ける音が響く。


 次は山本あかり。


 森に逃げ込もうとしたが、木陰から現れたゾンビに襲われ、腹を裂かれた。


 内臓が引きずり出され、彼女は苦悶の表情で息絶えた。


 残る四人。


 太郎、花子、鈴木、高橋—いや、高橋はもう死んでいた。


 残りは太郎、花子、鈴木、佐藤—待て、参加者は六人。


 太郎、花子、鈴木、美香、健、あかり。


 美香とあかりが死んだ。


 健も死んだ。残りは太郎、花子、鈴木。


 混乱の中、三人は村の神社に逃げ込んだ。


 古い社殿で、バリケードを張る。外では、クマゾンビたちが唸っている。


「なぜこんなことに……」


 花子が泣きながら言った。


 鈴木が思い出した。


「この村、熊塚村。昔の伝説がある。クマを崇拝する村で、クマを殺した者は呪われるって。俺、クレーム入れる前に調べてたけど、冗談だと思ってた。」


 鈴木は環境保護NGOのボランティアとして働いていたが、苛烈な指導が問題視され、熊駆除のクレームも行っていた。


 そんな彼が熊塚村から案内が届いたことに疑問を持ち、インターネットで調べたら、この村にはある秘密が隠されていた。


 太郎は震えた。


 自分たちがクレームを入れた村が、ここだったのか? 


 いや、クレームは別の村だったはず。


 でも、案内状は熊塚村から。


 すべて仕組まれていた?


 外のゾンビたちが、扉を叩き始めた。


 木が軋む。やがて、扉が破られた。


 鈴木が最初にやられた。


 クマの爪で胸を裂かれ、心臓を抉り出された。


 血が飛び散り、花子が悲鳴を上げる。


 花子は太郎の腕にしがみついた。


「助けて……」


 だが、ゾンビの一体が彼女の頭を掴み、噛みついた。


 頭蓋骨が砕ける音。


 花子の目が虚ろになり、倒れる。


 残ったのは太郎一人。


 ゾンビたちが彼を取り囲む。


 逃げ場はない。


 太郎はふと思った。


 これが、因果応報か。


 クマを殺すなと言った自分たち。


 でも、クマを殺した村人を非難した代償が、これか。


 最後のゾンビが、太郎の頭に牙を立てた。


 痛みと闇が訪れる。



 だが、太郎の意識はそこで途切れなかった。


 死の直前、彼の脳裏に村の歴史がフラッシュバックした。


 熊塚村の起源は江戸時代に遡る。


 村人はクマを神として崇め、毎年生贄を捧げていた。


 クマの霊が村を守ると信じていたのだ。


 だが、近代化とともに、クマの生息地が減り、村人はクマを射殺せざるを得なくなった。


 すると、呪いが始まった。


 死んだクマの霊が村人をゾンビ化させ、村は廃墟となった。


 しかし、村人は生き延びるために、外界のクレーマーを呼び寄せ、代わりの生贄にしていた。


 クレームを入れる者は、クマの霊に敵対する者。


 よって、罰を受ける。


 太郎は、そんな村の秘密を知ったが、遅かった。


 ゾンビたちは彼の体を食いちぎり、骨だけを残した。


 村は再び静かになった。


 次のクレーマーを待つために。


 次の生贄は、あなたかも知れない……。

 

「さぁ、次の生贄は誰かな?」

近年では、熊を殺すなとクレームをかける者たちが後を絶たないので、警告も兼ねて書いてみました!

ちょっとグロくてきつかったかも知れませんが、ご一読いただき、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
タイムリーで面白く読ませて頂きました。 短過ぎたのが勿体無く感じました。
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