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そうしてジョシュア様と話をしていると先生がクラスへと入ってきて授業が始まった。
初めて友人と商会に行くことが嬉しくて授業が上の空になってしまいそうになる。集中しなければいけないわ。私は自分を律しながらこの日の授業を受けた。
「トレニア嬢、さあ、いこうか」
「ジョシュア様、よろしくお願いします」
「ジョシュア様、トレニア嬢、ごきげんよう」
「皆様、ごきげんよう」
私は一礼し、ジョシュア様のエスコートでクラスを出た。
私達は馬車停まりからジョシュア様の馬車に乗せてもらい、商会まで向かった。
「トレニア嬢、いつもと雰囲気が違うね」
「落ち着かず、申し訳ありません。嬉しくてつい」
ジョシュア様に笑顔が溢れた。
「トレニア嬢を連れ出せて良かった。君は学院でも勉強ばかりだからみんなが心配していたんだ」
「そうなのですか?」
「ああ。みんなは君に何も言わないが、とても心配している。私もそのうちの一人だ」
「私は全然周りが見えていませんでしたね。気を付けますわ」
「いつもトレニア嬢は頑張っているだろう?偶にはこうして息抜きも必要だ。さあ、着いた。行こうか」
「はい」
私はジョシュア様に手を引かれ、商会へと入っていった。商会の中はとても明るく、様々な品物が所狭しと置かれていてとても賑やかな雰囲気だ。
学院から一番近いということもあって店内には学生の姿もちらほら見えている。
私は目的の黒のインク瓶を見つけ、手に取った。
あと、欲しいのは……。
考えながら並べられた商品を見ていると、猫を模した便箋を見つけた。デフォルメされた丸猫が描かれていた。私は誰に出す予定もないけれど、その可愛さについ手に取ってしまった。
「気に入った物が見つかったかい?」
「はいこの便箋が可愛くて」
「どれ、ああ。確かに女性が喜びそうな図柄だ。重いだろう、私が代わりに持つ」
「いえ、大丈夫ですわ。これくらい」
「いいから、こっちへ」
戸惑う私にジョシュア様は頬笑みながらそう言うと、私の持っていたインク瓶と便箋を受け取り、そのまま会計を済ませてしまった。
「あ、あのっ、ジョシュア様、支払いを……」
「これくらい何でもないのはトレニア嬢も分かっているだろう。気にしないでくれ。代わりにありがとうと言ってくれると嬉しい」
「……ありがとうございます」
「さあ、帰るか」
「そうですね」
馬車に乗り込んだ私達は商会の商品について話した。各領地から作られた商品が沢山置かれていてとても興味深かったことを彼と話をしているうちに馬車は寮の前まで到着していた。
「無理に付き合わせて悪かったな」
「いえ、私こそ息抜きの時間をいただいてありがとうございます」
「トレニア嬢、楽しかった。また明日」
「私もとても楽しく過ごせました。ジョシュア様、ありがとうございました。ではごきげんよう」
ジョシュア様は紙袋に入ったものを渡してくれる。私は一礼し、部屋へと戻っていった。
翌日からも私は変わることなく勉強を続け、試験の日が訪れた。
「トレニア嬢、おはよう。先週の試験のテストが今日返却されるらしい。成績も昼には玄関前に張り出されるって聞いた」
席に着いて朝の準備をしていると後ろから声を掛けられ振り向く。
「ジョシュア様。試験結果が分かるまでドキドキしますわ」
「私は駄目だろうな」
「ジョシュア様はいつも高成績ではありませんか」
「今回は難しかったからな」
ジョシュア様と試験について他愛もない話をしていると、ジョシュア様は思い出したように口を開いた。
「ところで試験後の長期休みはどうするんだ? 自分の家に帰るのか?」
「ジョシュア様、ご心配ありがとうございます。けれど私は邸に帰る予定は無いのでこのまま寮で過ごそうかと思っておりますの。私が邸に帰った所で姉の邪魔になりますし」
「そうか。では休みの間うちの領地へ招待しよう。どうだろうか? うちの領地は国内有数の保養地で気晴らしには丁度いいと思うんだ。君の事をもっと知りたい」
私はどうしようかと迷ったが、折角だしジョシュア様のご好意に甘える事にした。
「ありがとうございます。行っても宜しいのですか?」
私が返事するとジョシュア様は笑顔になり、『後で詳しい日時を連絡する』と彼は話をして席に着いた。保養地なんて初めてだから楽しみだわ。
貴族は年に何度か休みを利用して保養地など国内旅行をする人も多いのだが、私はずっと領地で過ごしていたので家族とのピクニックすら行った事がないの。
私は旅行する気分に浸りながら午前の授業をこなした。