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王宮や貴族の庭園はシンメトリーを意識した庭が多い。
けれど、ターナ様に案内されて向かった中庭はアシンメトリーで設計されており、妖精が住んでいそうな色とりどりの花が咲いている。
よく見ると、草花の背の高さや配色など全てが計算し尽くされた素晴らしい庭園だった。
「ターナ様、なんて素敵なお庭なのでしょう」
「トレニア、気に入ってくれたかな? この足元に咲いている花はよく知っているよね?」
ターナ様は庭の植物の話をガゼボでお茶を飲みながら話してくれた。この庭園はとても素晴らしい。これは絶対目に焼き付けて帰らないと。私の様子を見ていたターナ様はクスリと笑った。
「トレニア、結婚すれば毎日この庭でお茶が出来る」
「まさか初デートで結婚の話が出るとは思わなかったです」
「トレニアにとっては驚いただろう。だが俺は一年以上も待っていたんだ。君を是非妻に迎えたい。生涯君だけを愛する事を誓う」
ターナ様はそう言って私の指にキスを落とした。
急転直下、世界が一変するとはきっとこのことを言うのね。
妖精の森に迷い込み、王子様からのプロポーズ。
婚姻という言葉。
憧れては心を痛めてきた。
もう一生ないと思っていたの。
私には縁がないと。
誰もが姉妹を優先する。
苦しい思い出が、蓋をしていた黒い感情が暴れ始め、涙が出てくる。
「トレニア? 嫌だったか?」
心配そうにターナ様は顔を覗き込み聞いてくれた。
「……いいえ。私は幸せになっても良いのかなって、こんなにも人に想われていたことがなくて、また姉や妹に大事な人を取られてしまうのかなって……。怖くて、不安で。上手く言えなくてごめんなさい」
ターナ様はそっと私を抱きしめた。
「大丈夫だ。俺はトレニアしか見ていない。どんな美女もトレニアには敵わない。この二年トレニアのことをしっかりと見てきたつもりだ。俺はトレニアが好きだ。それでは駄目か?」
「……ターナ様、嬉しいです」
「トレニア、今度の休みに復籍届を侯爵家に出しに行こう。俺も一緒に行く。何も心配しなくていい」
「……分かりました」
心のどこかで信じていいの?
またあの時のようになってしまうのではないの?
嬉しいという気持ちがあって、同時に不安も感じているの。
忘れようと必死になっていたあの時の痛みがまだ僅かに残っているのかもしれない。
そうして私は婚約のための書類や手紙を受け取り、ターナ様に送られて寮へと戻った。
初デートでまさかのプロポーズにローサはとても驚いていたけれど、「流石はお嬢様! 巷でいうチョロインですよね。あぁ、すぐに侯爵家へ知らせを出さないといけないですね!」と上機嫌で夕食を作っていた。




