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「殿下、エレノア様は王子妃教育を終えた姉と婚約破棄をしてまで手に入れた『真実の愛』なのでしょう? 私を巻き込むのはお止め下さいませ。私は今の生活を満喫しております。王子妃になるのは『真実の愛』であるエレノア様なのでしょう?
今更、グリシーヌの妹だからと私に面倒事を押し付けられても困ります。私はそもそも平民に降りた身です。
身分違いも甚だしいです『真実の愛』で結ばれたエレノア様が正妃になれるように支えるのがディラン殿下の愛ではないのですか?」
イライラしてつい指摘してしまったわ。
殿下ってこういう人だったのね。破れ鍋に綴じ蓋でグリシーヌ姉様とお似合いだったのではないかしら。
「……そう、だな」
ディラン殿下はぐっと言葉に詰まり、痛いところを突かれた顔をしている。
「他にご用がないようでしたら私は戻りますね」
全く。なんなの!?
『真実の愛』とか結婚とかもう沢山なのよ。
愛してやる?
その傲慢な考えにやはり嫌悪感を抱いてしまう。駄目よ、殿下にこれ以上嫌悪感を抱けば、言葉が口を衝いて出そうになるもの。
気持ちを持ち直すようにカップに口を付ける。
従者が淹れたお茶はとても芳醇な香りがし、鼻腔を上品に抜けていく。甘さも控えめでとても美味しいわ。ささくれ立った私の気持ちが少し収まった。
「お茶を淹れていただきありがとうございました。とても美味しかったですわ」
お茶を飲み干し、ディラン殿下は何か呟いていたけれど気付かないフリをし礼をしてからディラン殿下の執務室を後にした。
私は平民なんだから王族と結婚はできないのに。何だかモヤモヤが晴れないわ。
「お帰りトレニア薬師、どうした? イライラしおって」
「マード薬師長、聞いて下さい! 先程ディラン殿下が……」
マード薬師長に先程の話をして憂さ晴らしをする。マード薬師長は笑い飛ばし、「後で陛下に伝えておく」と言ってくれた。
殿下の『真実の愛』って小さいわ。
丸めた紙屑程度の価値しかないんじゃないかしら?
黙ってグリシーヌと結婚して、エレノア様を妾妃にすれば良かったのに。
ズバッと言ってやりたかったが、長い物には巻かれろ、権力者には媚びへつらえという貴族令嬢の精神が私の邪魔をしたわ。
まぁ、しっかりと言ったのだからもう来る事はないでしょう。




