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「トレニア様、おめでとうございます! 明日からの引っ越し作業は任せて下さい」


 ローサは満面の笑みを浮かべ準備に取り掛かろうとしている。


「ローサ、その事なんだけど、お願いがあるの。私は働きだして給料を貰うことになるわ。ローサが良ければ私の侍女として来月から王宮の寮に一緒に来て欲しいんだけど、駄目かな?」


 私の言葉を聞いたローサの手は止まり、震えている。


「トレニアお嬢様、私はお嬢様にお仕えしてもよろしいのですか?」

「勿論よ。是非、ローサにお願いしたいわ。あ、でもお父様に今から手紙を書くわ。お父様の許可が降りたらすぐにでも来て欲しいくらいよ?」

「そういう事でしたらすぐに書いて下さい。直ぐに侯爵家へ手紙を持っていきます!」


 そうして私はローサに追い立てられるようにお父様に手紙を書き、翌日は朝から引っ越しで沢山の荷物を運ぶことになった。



 さて、なんだかんだと引っ越しを済ませた私は現在、学院長室のソファに座っている。もちろん飛び級制度を使うためだ。


「トレニア君、君の成績は常にトップだ。将来の事を考えて飛び級をする生徒は過去にもいたが、君の場合、王宮から既に就職の辞令が来ている。


 薬師の仕事をしながら飛び級の試験は私としてもいかがな物かと考えていた。各教科の担当者とも話をしてここにある課題のレポートを提出する事で単位を認める事にした。今月末までに提出しに来なさい」

「学院長、ありがとうございます!」


 良かった。助かったわ! これなら週末に一気に終わらせられるわ。


「学院長先生、ありがとうございます。私、頑張ります」

「君は学院生活中、色々あって大変だっただろう。教師陣も大変君を心配していたぞ。平民にまでなってしまって……。私達には試験を課題に変える事しか出来ないが、頑張りなさい。応援している」


 学院長先生の温かい言葉に涙が出てきそうになる。


 本当に、色々、辛かった。苦しかった。


 その思いが一気に固く閉めた心の蓋が緩み、溢れそうになるのを必死で抑える。


「学院長先生。ありがとうございます。私、これからも頑張っていきます」


 私は頭を下げて新たな我が家へと戻った。ローサは来月から来てくれるかしら?


 私は少し寂しくなりながらも王宮の寮へ引っ越し、学院帰りの途中で買ったパンを齧りながら荷を解き新しい生活の準備をする。


 働きだしたら三食全て王宮の食堂を使っても良いらしい。王宮のご飯って美味しそうよね。楽しみだわ。


 そう思っていると扉を叩く音がした。


「ローサです!トレニアお嬢様、開けて下さい」


 私は急いで扉を開けるとそこにはローサが立っていた。


「トレニアお嬢様! パンを口に咥えたままじゃないですか!?」


 あっ、やば。ローサに見つかってしまったわ。


「あ、いや、これは、さ、平民を真似ようかなーなんて」

「もしや、私が居ない間はずっとこうだったのですね!? 私が来たからにはしっかりとした生活を送ってもらいますから」


 なんて事!?

 今日のローサは誰よりも怖いわ。


 私はコクコクと頷くしか出来なかった。そしてローサは部屋に入ると父の手紙を渡してくれた。


「侯爵様は今日から私がここで働く事を許して下さいました。そうそう、グリシーヌ様からトレニア様は学院寮からいつ帰ってくるのかを聞かれました。


 お茶会で良い人を紹介してあげなくちゃと張り切っていましたよ。グリシーヌ様はまだトレニア様が籍を抜けたことを知らない様子でした」


 ええ!?


 結婚式を不参加にした時点で気付くわよね、普通は。しかも誰を押し付ける気だったのかしら。なんせあの姉だからあまり良いとは思えない人を連れてきそうね。


 私はローサと話をしながら父の手紙を開封する。手紙には王宮薬師の就職おめでとうとローサを侍女にしても良い事が書いてあった。


 それと、現在も母は私に婚約者を充てがう事を諦めきれずに領地から色々と画策していたらしい。


 それに気付いた従者や侍女達が父に報告し、母は()()と見做され、現在は薬で()()()()()()()らしい。


 家族には薬師として王宮に就職したことや貴族籍を抜けていることを話していないと言っていたわ。


 私が帰って来ないのを未だに気づいていない時点で本当に碌でもないわ。私の存在は空気だったのね、と改めて思い知らされた。


 ジョシュア様は学院での私を知っているから平民になった事は分かっているだろうけど、ソニアに言っていない時点で仲は既に冷めているのかも知れないわ。


 そんな事を思いつつ、明日からの準備に追われて行った。


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