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 卒業パーティーの騒ぎで紹介が遅れました。


 私、トレニア・ガーランド、只今十六歳です。ガーランド侯爵家の次女として生まれ、姉ほどの美しい容姿には恵まれなかったが、跡取りとして厳しく育てられたの。


 学院での成績は常にトップ十に入っているわ。


 そして先ほど断罪劇で注目の的となった姉のグリシーヌは今年で十八歳になる。


 傾国の美女とも言われるほどの美貌の持ち主で、幼少期より第二王子のディラン殿下の婚約者として過ごしていたわ。


 姉は長年王子殿下の婚約者として教育を受けてきたおかげか、頭脳明晰ではあるものの、プライドが高く、我儘で口煩い。着飾る事が大好きでよく舞踏会やお茶会に顔を出している。


 妹のソニアは十四歳。


 姉のグリシーヌに負けず劣らずの美しさで社交界にはまだデビューをしていないのにも拘わらず、釣書の山を築いているわ。


 ソニアは姉以上に甘やかされて育ったためか淑女としての振る舞いが恐ろしいほどできておらず、我儘で奔放な性格をしている。将来はどこか嫁に行くことになるけれど、心配が尽きないわ。


 父、マルス・ガーランド侯爵。母のファナ。美しい母に美しい姉と妹に囲まれた寡黙な父。一見幸せそうに見えてしまう。


 そう、残念ながら私だけはその中に入っていない。


 理由はというと、私は姉や妹より美しく無かったせいなのか、家を継ぐためなのかは分からないけれど、幼少期から一人領地で過ごし、従者や侍女に蝶よ花よと育てられた。



 数年前に学院があるからと王都に呼び戻された。

 私は学院の休みには領地に戻り、視察を繰り返していた。


 私自身、容姿は平均やや上だとは思っているのだけれど、姉も妹も人間離れした美しさのおかげで周りから『残念な二番目』や『可哀想な子』という評価だ。


 更に残念なことに我が家は美しい姉と妹を最優先にすることが当たり前になっている。




 家に帰ってはみたものの、邸内は慌ただしい雰囲気に包まれていて、誰も私が帰ったことに気づいていないようだ。


「戻ったわ」


 私は近くにいた従者にそう声だけをかけて部屋に戻った。


 私は特に話をすることもないし、ゆっくりと部屋で休んでいると、執事が部屋にやってきて話をする。


 これから父は姉と共に今後に向けての話し合いをするらしい。


 執事がわざわざ教えにきてくれたのには意図があるようにさえ思える。


 姉はこの先どうなるのかしら?


 先ほどの出来事を思い浮かべ重い溜息を吐いた。


 話し合いの結果は明日聞くとして、今日は部屋で夕食を摂り、そのままゆったりと部屋で寛ぐ事にした。



 翌朝一番に父は王宮へ向かった。我が家では私以外の人たちは慌ただしく動いているみたい。


 パタパタと忙しく動き回る侍女を捕まえて聞いた話だと、父は陛下に婚約破棄の話をするためだとか、姉の冤罪を晴らすために出かけたとかどうとか言っていたわ。


 父たちの話し合いを受けて従者たちは動いているようだ。


 ……誰もが私に何も教えてくれないのね。


 陰鬱な気分が私を包みながら一人部屋で過ごしている。


 なぜ部屋で過ごしているのかというと、学院は卒業パーティー後から生徒たちは二週間程休みに入ったからだ。


 この休みは新入生を向かえるための準備期間らしい。


 婚約破棄をされた姉はこれからどうするのかしら?

 父が王宮に抗議に出たけれど、家のためにディラン殿下とそのまま結婚する?


 でも、姉が不幸になることを父も母も喜ばないと思うのよね。


 婚約者を新たに選びなおすとしても姉と同じ歳の令息達は大方婚約者がいるもの。


 ……もしかして。

 いや、まさか、よね?


 答えは出ないまま不安な気持ちだけが募っていく。



 そうして数日もの間、私は一人静かに過ごしていた。


 だめね。そろそろ気分を変えなくては、と思っていたそんな時に父から『執務室へ来るように』と呼び出された。


 姉の話は決着がついたのかしら。


 ふうと気分の上がらない息を吐き、部屋を出る。私は蚊帳の外で報告を聞くだになりそうね。


 そう思いながら執務室の扉をノックする。


「お父様、ただいま参りました」


 私が執務室へ入ると、既にそこには家族が揃っており、なぜかその場に私の婚約者であるルーカス様がいた。


 家族みんなで談笑していたらしく、和やかな雰囲気が部屋を包んでいる。ルーカス様は私の婚約者だ。


 なぜこの場にいるのかしら。

 彼との婚姻はまだ先だったはずよ、ね?


 父の横には母が座り、向かいには妹と姉、そしてルーカス様が座っている。


 私は彼らを見て焦りと不安が溢れだすのを必死に抑える。

 嫌な予感しかしないわ。


「ルーカス様、お久しぶりですわ。お父様、私が呼ばれた理由は何でしょうか」

「あぁ、トレニアまず、座りなさい」


 私は父に促されるまま一番扉に近い席に座った。


 私は疑問に思いながらも口を開くことなく周りの様子を注意深く見回した。


 なぜグリシーヌ姉様は婚約破棄されたにも拘わらず笑顔なのだろうか。


 私はその笑顔に不安が滲みだした。

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