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試験も終わった事で毎日授業をのんびり受けていると担任の先生から呼び出しがあった。
「先生、何かあったのですか?」
「トレニアさん。はい、これ。王宮からの呼び出し状よ。おめでとう。これから忙しくなりそうね」
受け取った手紙には一見するだけでも上質な手紙だ。赤い封蝋に王宮の印が押されている。
「先生、本当!? 手が震えてしまっているわ」
震える手で封を開けると、そこには合格の文字と手続きの日程が書かれていた。
「先生、ありがとう! 私、頑張った甲斐があったわ」
私は感極まって涙が頬を伝う。
「そうね。トレニアさんは誰にも負けないくらい頑張っていたわ。良かったわね。さぁ、今日は寮へ戻って王宮へ行く準備をしてきなさい」
先生に促されて私はお礼と共に寮へと戻った。部屋に入ってからはローサと父に手紙を書いて寮母さんに速達便で送ってもらった。
今日くらいは浮かれても良いと思うの。
今日は時間もまだまだあるし、街に出てお買い物をしよう。
美味しい物を食べたいわ!
そうそう、王宮へ上がる為には服も必要よね。平民ならドレスでなくても良い。あ、制服でいいのかな。買わなくていいかも。
なんだかんだと悩んだ挙句、商店で肉と野菜を買って帰ることにした。
よし、今日こそあのレシピを私の手で再現してみせるわ。保養地視察先の村長さんの奥様から教えて貰ったレシピ。まずは、こうやって切って、水に漬けておく? 肉はこうやって切るのね。ふむふむ。炒め煮ってこうやるのかしら? スープはこうね。調味料を入れてっと。
私がレシピ通りに作っていると扉を叩く音がする。
「お嬢様! ローサです! 手紙を貰って急いで来ました」
「ローサ! 良いところに来たわ!」
私は急いでローサを部屋へと迎え入れる。
「ちょうど良いわローサ、教えてちょうだい? このレシピなんだけど、ここまで作ったけど、最後がよく分からなくて」
ローサはスプーンを取り出し、味見をしている。
「お嬢様、とても上手く作れています。後は砂糖をもう少し入れて煮込むと味が落ち着いてきます」
かなり早めだけれど夕食の準備が出来たわ。
「お嬢様、侯爵様からお手紙をお持ちしました。旦那様からお嬢様が王宮へ上がるまでここに侍女として住むように仰せつかっております。よろしくおねがいしますね」
ローサから手紙を受け取り、開封する。
父からの手紙は元気でやっているか? お祝いの言葉とローサを数日付けるので足りない物はローサに言いなさいと書いてあった。
あと、ソニアがトレニアやトレニアのクラスメイトに迷惑をかけていると聞いた。すまない、と。
家族と離れたことで父は私に対して少し優しくなったように思える。
これくらいの距離でしか家族と上手くいかないのも悲しいわね。
私はローサと作った料理を一緒に食べ始める。
「ローサはこの味を覚えている? 私は初めて他の領地の家庭料理を食べて感動したの。野菜がこんなに美味しく食べられるなんて凄いわよね。
ガーランドの領地ではよく領民達に振る舞ってもらっていたわ。どれも愛情を感じる料理だったけど、領地が違えばこんなにも違うんだなって思うと感慨深いわ」
「……ルーカス様もジョシュア様も大馬鹿者です。こんなにトレニア様は素敵なのに。あいつら顔だけで選んで、今頃きっと後悔しているに違いないです。私がトレニア様を嫁に貰いたいくらいなのに。トレニア様、あいつらが後悔しているって話しかけてきたら絶対にざまぁ!って言ってやりましょうね」
ローサは泣きながら、文句を言いながら料理を食べている。
「ローサ、ありがとう。こんなに私を思ってくれるのはローサだけだわ。私もローサがお嫁さんになってくれれば凄く幸せなのに。世の中って上手くいかないものね」
私はローサと女同士愚痴を言い合いながら、褒めながら夜は更けていった。