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 ついに三年生となる前の休みに入った。


 去年の今頃は跡継ぎから下ろされた頃だったわね。家族と離れ、平民となった事だし、今は前を向いて頑張るしかないわ。


 それでも平民になる準備期間があったのは大きい。


 寮とはいえ一人暮らしをしながら料理の練習や街に出かけて買い物の練習はできた。


 今年は就職のために全力を出していきたい。考えているのは王宮薬師。


 難関だと言われている試験に落ちてしまったら王宮の侍女として働く予定なの。


 王宮の侍女は募集も多く結婚して辞める人も多いのでそれほど難しくはない。


 学院の先生達から『王宮薬師でも充分、合格はできるだろう』とお墨付きを貰ってはいるけれど、念には念を入れておかないとね。


 私が薬師を目指しているのは今のところ先生達しか知らない。一応薬師科を専攻していたけれど、領地が薬草の産地だからという理由にして卒業後の話をずっと濁していたの。


 先生には邪魔が入りそうなので最後まで黙っていて欲しいと頼んである。一番の敵はやはり家族なのよね。彼らなら私の足を引っ張り兼ねない。


 そういえば、今年、ソニアは入学するのかしら? 子供ができたとかどうとか言っていたわよね。


 デビュタントも今年だったはず。どうするのかしら? まぁ、私には関係無いけれど。



 さて、今日から王宮の薬草園に勉強しにいく日々が始まるわ。


「おはようございます。今日からまた一週間宜しくお願いします」

「トレニア嬢、おはよう」


 私が挨拶したのは薬草園を管理する薬師長のマード公爵という人だ。


 去年、私は先生の紹介で薬草園を見学し、ここで働きたいとマード薬師長にお願いしたのがきっかけとなり、マード薬師長の見習いとして薬草園の手入れを休み毎に手伝いに行くようになった。


 マード薬師長はよく受け入れてくれたなといつも思ってしまう。受け入れてくれた理由は元家のことが関係しているのだろうとは思っている。


「マード薬師長、おはようございます」

「トレニア、おはよう」


 マード薬師長に挨拶をしながら入っていく。薬師長は手紙を読んでいたようで手を止め顔をあげた。


「そうだ、マード薬師長。私、トレニア・ガーランドからただのトレニアになりましたので改めてよろしくおねがいします」


「そうか。貴族籍を抜けることにしたのか。おめでとうと言うべきかな。そしてまた一歩薬師に近づいたな」


 マード薬師長は笑顔でそう言った。


「薬師長、何故薬師に近づいたのですか?」

「王宮薬師というのは医師と同じで昼夜問わずに薬を処方しなければいけない。この貴族社会で年頃の娘が夜中も仕事だなんて非難されて当然だろう。


 だが君はそれを跳ね返す力を持ち合わせている。もちろんその部分も薬師や医師になる人は加味される。まぁ、薬師は医師ほどではないがね」


 マード薬師長は笑いながらお茶を淹れ飲みはじめた。


「ガーランド家からか……。ここにきたのはトレニア嬢の実力だろうな」


 彼はそう独り言を呟いた。


 私は薬師長と話をした後、植物を世話して午後からは薬師長による薬学の勉強し、寮に帰る。


 寮に帰ってからはというと教科の予習をする。本当に毎日勉強三昧ね。そうして一週間があっという間に過ぎて行った。



 学院が始まると三年生という事もあり、授業は少なめなのよね。そしてどういう理由かは分からないけれど、ソニアが入学していたわ。


 子供は流れてしまった?

 それとも、元々嘘を吐いていた……?  


 ソニアならありそうよね。とにかくソニアに近寄らないに越したことはないわ。


 そうそう、それとは別にローサが髪飾りの土台部分を持ってきてくれたの。


 あの日以来瓶に入ったままの貝殻達は戸棚に仕舞ったままにしていた。


 ローサと一緒に貝殻で髪飾りを作ったの。とても可愛くできたので普段使いにしている。


 私の長い髪の毛はローサに肩まで切ってもらった。ローサは自分のことのように泣きながら切ってくれた。


 私に何かあっても良いように、とその髪の毛をかつらにしてくれるらしい。


 いつもローサには迷惑をかけっぱなしね。


 でも短くなった髪はとても手入れが楽になった。頭がとても軽い。髪を洗うのも楽だもの。


 クラスメイトも短い髪の私を見て驚いていたわ。そして平民になった事も。もうここまでくると触れてはいけない話題のようにそっとしてくれている。


 ジョシュア様も髪を切ったことに驚いていた。父以外の家族には私が平民になったことを知らせていないのかもしれない。話題にも上らないでしょうし。


 さて、しんみりした話はその位にして、王宮の薬師試験まで残り二ヶ月を切ったわ。


 私は最後の追い込みとばかりに朝早くから夜遅くまで勉強に明け暮れている。女を捨てたの? と言われてもおかしくない程身嗜みは最低限のことしかしていないかも。


 短くなった髪にはローサと作った髪飾りを着けている。


 ジョシュア様への当て付けではないわよ? 


 物に罪はないのだから。でも私の女をサボっている様子を見たらローサは絶対怒り狂うでしょうね。


 ローサとは偶に手紙をやり取りしているのだけど、相変わらずソニアは我儘三昧みたい。どうやら子供は出来ていなかったらしいわ。そのことで家族会議が行われていたと手紙に書かれてあった。


 色々と旧我が家の事情を教えてくれるローサには助かっている。

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