1 プロローグ
過去作のリメイクをしました。
よろしくお願いします!
「ねえ、トレニアさん。あれって貴女のお姉様ではないのかしら?」
「……そうですね」
華やかな卒業式のパーティ会場はシンと静まり返り第二王子へと皆が視線を向けている。
私は重い溜息を吐きそうになるのをぐっと堪えながら会場の端で状況を見守る。
「グリシーヌ! 君との婚約はこの場で破棄させてもらう! 新しい婚約者はエレノア・ナラン子爵令嬢となる」
第二王子のディラン様は壇上から姉であるグリシーヌを呼び出したと思えば冷たく言い放った。
会場には多くの人がおり、唐突なディラン殿下の宣言に失笑と同情の混じった視線が集まっているが、殿下は気付いている様子はないようだ。
「婚約破棄の理由は何でしょうか。お伺いしても?」
姉のグリシーヌはというと、凛と澄ました顔でそう問いかける。
「真実の愛を見つけたのだ。エレノアこそが真実の愛だ。グリシーヌ、私達に嫉妬し、エレノアを虐めていたそうじゃないか。日頃から口煩く私に付き纏っていたしな。
うんざりだ。エレノアを虐めた事を罪に問おうと思ったが、優しいエレノアが不問にして欲しいと頼んできた。感謝しろ!」
グリシーヌは小馬鹿にしたように笑いながら反論する。
「あらっ、おかしいですわね? 証拠はありまして? 冤罪ですわ。子爵令嬢に嫉妬? 面白い冗談ですこと。私が口煩くしていたのは婚約者がいるのに腕を絡ませて歩いているそのご令嬢が原因ではありませんか」
姉の言葉に会場からは令嬢たちが同調するように失笑する声が聞こえてくる。
「なっ!? そんなことはない! エレノアはいつも私を癒し支えてくれているだけだ」
「ディラン殿下はそのふしだらな令嬢を『真実の愛』となさるのですのね。……婚約破棄、承りましたわ。では、私はこれで失礼します」
そう言って姉のグリシーヌは王子妃然とする姿勢で一礼し、会場を後にすると共に卒業パーティーでの一幕は終わった。
私は一年生の生徒会のメンバーとして卒業パーティーの会場にいたのだが、まさか姉の断罪現場に自分が居合わせてしまうとは思ってもみなかった。
姉が去った後、周囲の視線は妹の私に向けて非難する言葉や擁護する言葉など様々な言葉が飛び交う。
その様子をみて心が重くなる。
「トレニアさん、顔色が悪いわ。そうよね、お姉様があんなことになったんだもの。今日はもう帰ったほうがいいわ」
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
私は耐えきれずに先輩方に謝り会場を後にした。