軍人と音楽院の少女
【お題】軍人で儚げな青年と高飛車で音楽院に通う少女で、青年が少女を抱きしめている場面
奏でるピッコロの音色に、男は口元に微笑を浮かべながら、少女の傍へ歩み寄る。
優雅な仕草で一礼した男に、少女は少しだけ眉を寄せ、怪訝そうな顔で口を開いた。
「お父様のお知り合い?」
「あぁ」
己の屋敷の庭に突如現れた男であったが、少女は少しだけ警戒を解く。父親と親しくしている軍人は何人もおり、屋敷にも出入りしている。その中の一人だと思ったのだ。
「お父様は書斎よ」
少女の言葉に男は整った顔を少しだけ緩めた。
「約束の時間まで、傍にいても構わないか?」
「え?」
驚いたように少女が男を見上げると、彼は少女の持つピッコロに視線を落とす。
「お前の笛の音…気に入った」
偉そうな物言いが、軍人特有のものなのか、個人の性格から来るものか少女には判断できなかった。いつもであれば気の強い少女が反発する物言いであったが、少女は驚きで言葉を失い、黙って男を見上げるだけであった。
ゆるりと伸ばされる腕は、彼女を抱き、ピッコロを持つ手に、大きな男の手が重なる。
「……もっとお前を知りたい」
顔が紅潮するのを感じ、少女は思わず顔を伏せた。
「(軍人って言ったら普通こうじゃない…。なのに何よ儚げとか!私より儚げとか!!)…掘られろ!!」
「えっ」
突然上げられた少女の声に、青年は驚いたように体をびくつかせた。軍人という肩書きより、物書きという肩書きが似合うような青年。儚げで、穏やかな物腰は、何かあるごとに少女をイラつかせる。
元々高飛車な性格が災いして、父親の見繕った男は逃げ出し、結局最後に残ったのがこの男。
「……全く。もう少し軍人らしくしなさいよ!」
「頑張ります」
温和に微笑んだ青年はやはり、自分より儚げで、少女は眉間に皺を寄せた。遠慮がちに少女の腰に回された手は、少しだけ力を込められ、青年は少女の耳元で言葉を零す。
「貴女の為に、頑張ります」
その言葉に、少女は少しだけ驚いたような顔を作ったが、顔を赤らめ、当然よ!と怒ったように声を放った。