聖職者と音楽院の少女
【お題】聖職者で関西弁の青年と儚げで音楽院に通う少女が中庭でお茶をしている場面をかいて下さい
神父の前に座る少女は、困ったように微笑むと、少し俯いた。その様子を見て、神父は苦笑して紅茶に口をつける。音楽院に通う彼女が練習の後でこの教会の庭でお茶を飲むようになったのはいつからだろう。そんな事を考えながら、神父は口を開いた。
「調子はどない?」
「……コンクールが近いので、随分練習はしているんですけど」
普段聖書を読む時とは違うイントネーションは、少女にとって心地良かった。
「さよか」
瞳を細めて笑った神父を見て、少女は困ったように微笑んだ。
「でもやっぱりレベルが高くて……」
「あんな、こんな言葉あんねん」
そう言って神父が言った言葉に少女は目を丸くした。【努力した者が全て成功するわけではない。けれど、成功した者はすべからく努力をしている】そんな言葉であった。
「聖書にのってるんですか?」
「いや、この間読んだスポーツ漫画に書いてあってん」
すました顔で紅茶を飲む神父が妙に可笑しくて、少女は笑い出した。漸く笑いが収まった頃に、神父は瞳を細めて口を開いた。
「音楽の事は正直わからんねん。でも、せっかく好きで始めたモンやねんから、笑顔でやり」
そう言われ、少女ははっとしたように顔を上げる。コンクールで成績を残すことばかり考えて、音楽を楽しむという事を随分忘れていたような気がした。
「……そうですね。私、音楽大好きなんです。だから、精一杯やります」
「ええ子やな。努力してんのはちゃーんと見とるから、心配せんでええで」
そう言われ、彼女は少し小首をかしげた。
「神様が見ててくださるんですか?」
「アホか。俺が見とる」
そう言い、口端を上げて笑った神父を見て、少女は顔をかぁっと赤くして俯いた。